ミミル視点 第27話(上)
世界が変わった。
大げさかも知れないが、私にとってはそれくらいの変化だ。
大賢者と呼ばれるほどの地位にあったとしても、私もヒトの子だ。
当然、コンプレックスというものを抱えている。
一つは背の低さ。
これは妹のフレイヤも同じなのだが、双子で生まれつき小さな身体をしている。同じ年齢の他の女よりも私達は少し――少しだけ小さいのだ。
そのせいでエルムヘイムでも子どもに見られることが多く、それが不満で仕方がない。
二つ目は目の色だ。
妹のフレイヤの瞳は青く、私は赤い。
フレイヤと私は同じ顔だが、銀色の髪も相まって、フレイヤは特にクールで冷たい印象があり、とても美人なのだ。
一方、私は透けるような赤い目をしている。わかりやすく言うと、血の色そのものだ。
その瞳の色が他のエルムヘイム人には畏怖の念を与えてしまう。
特に、子どもは正直だ――私と目が合うと先ず視線を逸し、逃げるようにどこかへ走っていってしまう。
三つ目は……まあいいだろう。
私にも話したくないことはあるし、思い出さないこと……封印しているという方が表現としては正しいかも知れない。そんなこともあるのだ。
くそう……ゆさゆさしやがって……。
さて、では何が私の世界を変えたのか……。
しょーへいに連れてこられた店に、目の色を変える道具があったのだ。
その道具の名は〝コンタクト〟というらしい。
液体に入った状態のものを指先に付着させて取り出し、眼球にやさしく乗せるだけ。それだけで目の色を変えられるのだ。
ただし、長時間装着すれば少なからず目に異常が出る可能性があるらしい。
派手に目の色を変えるものや、猫人族のように瞳孔が縦長になるものもあるらしいのだが、この店には置いていないらしい。実に残念だ。
さあ、何色がいいだろう?
同じ赤でも、紅色になるようなものも悪くない。
フレイヤと同じ青にするのもいいし、他のエルムヘイム人と同じ碧眼というのもいいだろう。
しょーへいは濃い鳶色をしているが、あまり目の色が暗いと肌色や髪色に対して強すぎる気がするな。
「しょーへいはどれがいいと思う?」
『むずかしい……まつ』
しょーへいはまた私に待つように言うと、店員と話し始めた。
また女の店員だ。私よりも遥かに――くそう。なぜこんなに敗北感を感じるのだ。
「チワエワソワホ、カナカネダナエラネオウタアマエモス?」
「ンァ、アルビノソワノワヂスニ……オコキエナグロヂースャワノワコダウヂスャウ」
二人の会話がまったくわからん。
早く言葉を覚えたいのだが、何を尋ねても全部「家に帰ってから教える」ではいつまで経っても覚えられる気がせんぞ。
それに、なんだ……またゆさゆさとしたこの脂肪の塊がだな……。
『こい、あかむらさき。こんいろ、どう?』
なんだ、色の相談をしてくれていたのか。
私の目の色は赤いから、縁を濃くして中心にいくほど明るくなるようにする。
なるほど、瞳の縁がハッキリとするだけで印象は変わるだろうな……血の赤さではなくなるから、落ち着いた感じになりそうだ。赤紫色は悪くない。
紺色の方は瑠璃色になるのだろう。
フレイヤより色が濃くなるが、更にクールな感じになるだろうな。これも瞳の外周部分がはっきりしていて、フレイヤよりも美しく見えるかも知れない。
悩ましいが……しょーへいはどちらがオススメなんだ?
見上げて見ると、しょーへいも何やら期待感に溢れた視線でこちらを見ている。
困ったな――これでは選べないではないか。
「両方……」
そ、そうだ――選べないときは両方だ。
ききき、気分だ。その日の気分で変えるのだ。いいだろう?
な、なんだ?
また慈愛の籠もった視線で見よってからに。
あ、人前で頭を撫でるな!
◇◆◇
いま、私は浮かれている。
クッキリ縁取られたワインレッドの瞳。
瑠璃色にすればクールで格好いいと思うが、いま着ている服にはなぜかこちらの方がいいと思うのだ。
しょーへい曰く、〝こんたくと〟を初めて着けるのは苦労する者が多いらしい。
でも私はすぐに着けることができたので、本当に初めてなのかと店員に怪しまれた。
ダンジョンで戦っていれば、限界まで目を開けて回避する技能が自然と身につくもの。〝コンタクト〟を装着するくらい何ら造作のないことだ。
そういえば、本人は気づいてないようだが、しょーへいも身体能力が上がっているはずだ。
そう思って見上げてみると、しょーへいはまた何か難しいことを考えているようだ。
「また何か悩んでいるのか?」
『なに、ない』
何故かわからんが、しょーへいが不安にそうしていると私も不安になる。
この世界での生活がしょーへいに依存したものだからだろうか。
『晩ごはん、なやむ』
「食材などがエルムヘイムとは大きく違うからな……私には手伝えないのが口惜しい」
とはいえ、私は料理はからきし駄目――食べる専門だ。
だから、味見だけは手伝うぞ。
『たべる、まんぞく?』
「この世界のものはどれも美味い。満足に決まってるだろう」
おや、食べっぷりを見て知っていると思っていたが、そうでもなかったのか?






