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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第46章 カバとフロウデス

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第453話

〈遅いっ!!〉


 第3層の入口部屋へと転移した俺に、ミミルが怒声を浴びせた。

 ここは地球の7.5の速度で時間が経過する世界なので、地球側で1分遅れて入れば、7分30秒の差が出てしまう。


「ミミルが行先を言わずに消えたからだよ」


 行先を告げられなかったという状況の下、朝の五時前から現在まで起きたままだったから仮眠くらいはするつもりだろうと第2層に行ったのだが、ミミルがいなかった。

 慌てて第3層へと移動してきたので、結果的に第3層内の時間で15分くらい待たせたことになるだろう。


〈しょーへいが遅いから、夜になってしまったではないか〉

〈いや、そんなに時間遅くなってないよな?〉


 階段の向こう側に見える空は深く濃い夜色だった。日没後、ほんの10分や20分でここまで暗くなるなどあり得ない。

 東西の空の状況を確認するべく、俺は階段へ向かって歩きだした。


〈とにかく、しょーへいが遅いのが悪いっ〉


 なぜか俺の腰のあたりをミミルがポカポカと叩いた。身体強化もされず、一応は手加減した強さなのか痛くもなんともない。

 128歳の女性が言う言葉ではないと思うが、また何かを言い返すと子どもの喧嘩のようになってしまう。

 しようがないのでミミルを無視しつつ、そんなに長くない階段を上がると、月と無数の星が空を覆っていた。初めて第3層に来たときは西側の断崖に月虹(げっこう)が見えていたが、さすがにこの第3層の時間で半月近く経っている。丸かった月が半分に切られたくらいの形で空に浮かんでいる。


「思いっきり夜じゃないか」

〈ご、ごめんなさい〉


 俺のチュニックの裾を掴んで付いて来たミミルが俯いたまま言った。

 意外にも素直なので、何かあったのかと心配になってくる。どうも今日のミミルは情緒不安定な気がする。


〈で、どうする。いますぐ第2層に行って仮眠をとるか、第3層で朝まで寝るか〉

〈だ、第2層で寝よう。それがいい〉


 ミミルは先頭を切って階段を下り、転移石のある場所へと歩き出す。

 第2層は俺が行ける範囲で最も時間の進み方が早い場所なので、遅れれば遅れるだけ、ミミルを向こうで待たせることになる。俺も慌てて転移石へと向かい、ほぼ同時に石を触って転移した。


 第2層入口に到着すると、長い階段が正面に見えた。階段先の開口部からは明るい日差しが伸びている。部屋の中を舞う小さな埃がキラキラと日差しを反射して、正に天使の階段のように神秘的な風景を作り出していた。

 第2層の太陽が、階段出口の正面に近い場所にある証拠だ。

 少しだけズレているので、真正面にあるというわけではないらしい。


〈ミミルは今日の休みのうちに第3層を攻略してしまいたいんだな?〉

〈うむ。ダラダラしていても仕方あるまい?〉

〈そうかも知れないが、急ぐものでもないだろう?〉

〈う、確かに急ぐものでもない。だが、攻略さえ済ませてしまえば、しょーへいも気が楽というものではないか?〉

〈そりゃそうだな……〉


 夏休みの宿題は最初の1週間で済ませてしまった方が、残りをゆったりと気兼ねなく過ごすことができる。ミミルはそれと同じだと言いたいのだろう。

 いくら魔素によって最適化されてた身体を持っていても、長くダンジョンに潜らずにいたら身体は鈍るだろうし、期間を開けすぎると情熱のようなものも冷めてしまう。

 店が忙しいのはいいことだが、日々の生活に必死になりすぎてダンジョン探索の方が全く進まないというのはよろしくない。


 地上の時間は3時くらいだったので、ここから仮眠を取って食事を済ませると地上時間で1時間くらいが過ぎるとして、4時に第3層の攻略を開始することになる。


〈ダンジョン第3層の時間経過は、第2層の4分の3と言ってたよな?〉

〈うむ。地球時間の7.5倍の速度ということになる〉

〈それで第3層を踏破するには3日かかる、でよかったか?〉

〈最短経路でいけば少しは短くなるが、2泊3日と考えるといい〉


 2泊3日ということは、約60時間。それを7.5倍のダンジョン第3層で過ごすとなると、地球時間では8時間くらいということになる。午前11時には地上に戻るといった感じになるわけだ。


〈川を南に渡り、そこから安全地帯を南下して真っすぐ第3層出口を目指すことになる〉

〈そうと決まったら、さっさと寝るか〉

〈うむ〉


 先ずは部屋の中央に2メートルほどの丸太を立て、電源を入れて明るく光るLEDランタンを置く。続けて簡易ベッドを2台、出して手早く組み立てた。


「ミミルの分はいつもの場所でいいか?」


 いつもは少し離れた場所に置いて、ミミルが漢字ドリルなど自由に時間を過ごしてから寝られるようにすることが多かった。


「んんっ、しょーへい、ちかくがいい」

「これくらいか?」


 俺は2メートルほど離れた場所にミミルの簡易ベッドを移動した。地上にいるときは同じベッドで寝たこともあるので、イビキなどは問題ないとは思う。


「もっと、これくらい」


 ミミルは簡易ベッドをズリズリと引き摺って、俺のベッドの隣にまで移動させた。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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