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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第45章 アニメ

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第445話

 お腹いっぱい食べたあとに脂肪分たっぷりの食べ物は胃に重たいが、乳脂肪分が低めのジェラート――それが少なめに盛り付けてあるのが有難い。

 アマレッティを作るときに卵白だけを使うから、そのときに残った卵黄を使うために作ってくれたのだろう。ジェラートをひとつ作るのにかかる時間はだいたい90分ほど。サヴォイアルディやアマレッティをつくりながら、オーブンの中に入れている間、片手間につくってくれたのだと思う。

 次にミミルへとジェラートの入った器が差し出された。甘いものが大好きなミミルのことを考えて、俺の分よりは多めに入っている。


「……す、すくない」

「え、そう? そうかなあ?」


 入っていたジェラートの量を見て、ミミルが不満を漏らした。

 田中君が驚いてミミルに返す言葉を選ぶのに困っている。

 少し安価なラクトアイス等と比べると少ないが、明らかにコンビニで買ってくる高級アイスと比べると、同じくらいは入っているはずだ。決して少ないとは俺も思わない。


「ミミル、俺の分はこれくらいだぞ?」

「僕も、オーナーと同じくらいですわ」

「私もです」


 田中君の擁護に、俺が器の中身をミミルにみせると、裏田君や本宮君も同じように中身をみせてくれた。本当に俺と同じくらいの量で、ミミルの分は5割増し程度に入っている。


「むう……」


 唸るように声を漏らしたあと、ミミルは口を尖らせながらジェラートの器に入ったスプーンを手に取った。白いジェラートにスッとスプーンの先が入る。


「やららかい」

「やわらかい、ね」

「やわ、らかい」


 隣に座っている本宮君がミミルの言い間違いを優しく指摘してくれた。

 こうして話す機会を増やしていかないと、やはり日本語を話すのが上達しない気がする。

 いまの様子だと、ミミルの話す言葉は主語と目的語がはっきりとしない。また、動詞を過去形にする「った」のような助動詞も使えていないし、動詞の連用形や連体形も上手く使えていない。確か、動詞の五段活用などというのがあったと思うが、どうやって教えればいいんだろう。俺にはさっぱりわからん。

 このあたりは大学で文学部に所属している岡田君や本宮君の方が専門分野なんじゃないだろうか。どこかで2人に相談するのもいいかも知れない。


 俺が考えている間、ミミルはパクパクとジェラートを口に運んでいた。やはり急いで食べすぎたようで、いまはこめかみに手を当てて痛みを我慢している。


「田中君、もう1品あるかな?」

「オーナー、足りませんでした?」

「いや、ミミルと約束したんだよ。チラシ配りしたら、ドルチェを2つにしてやるって」

「ミミルちゃん、まだ食べはるんですか?」

「さっきの様子を見たら……な?」

「え、ええ……わかりました。育ち盛りですしね」

「あ、それ食べてからでいいから」

「はいっ」


 ミミルがじとりとした目で俺を見た。

 全員の分まで2品目を出すようなことは言えないので、事実を述べるしかないというのに何が不満なのかわからない。

 田中君の「育ち盛り」という言葉に反応したのなら、そこはミミルにも受け入れてもらわざるを得ない。便宜上、偽の親子を演じるためには仕方がないことだ。


 少しして、田中君がミミルに出す追加のドルチェを持ってきた。

 今日はアマレッティやサヴォイアルディを大量に作り、合間にジェラートまで作っていたのだから、手際の良さはかなりの上級者の域に達していると思う。


「はい、ミミルちゃん。お待たせしました」

「ん、ありがとう」


 ミミルは嬉しそうな声で田中君に礼を言うと、ドルチェの器の中を覗き込んだ。岡田君、本宮君の2人もどんなドルチェが出てきたのか気になるようで、ミミルの前に置かれた器へと視線を送っていた。

 カスタードクリームのような黄色くねっとりとした液体が皿の小鉢の中に入っていて、サヴォイアルディが三本ほど添えられていた。


「これはわかるやんね。一緒にティラミスを作るときにもつこたサヴォイアルディ。で、こっちはザバイオーネ」

「ザバイオーネ?」

「そう、サヴォイアルディをザバイオーネにつけて食べるんえ」

「ん、ミミル、ためす」


 言うが早いか、ミミルはサヴォイアルディの先にたっぷりと付着させ、口へと運んだ。

 ザバイオーネは卵黄とグラニュー糖、マルサラ酒だけで作る贅沢な卵黄クリームだ。80℃くらいに温めてアルコールを飛ばしてあるので子どもでも食べられる。また、オーク樽で熟成されるマルサラ酒のカラメルやドライフルーツのような甘い香りが特徴だ。これにマスカルポーネを加えると、ティラミスのクリームになるのはミミルも覚えているはずだ。


「どうだ、おいしいか?」

「ん、あまい、おいしい」


 俺がたずねると、ミミルは笑顔で返し、手に残ったサヴォイアルディをザバイオーネの二度漬けして口に運んだ。

 手で摘まんで食べるから、ミミルの頬袋がいっぱいになることはないが、口元に垂れたザバイオーネをつけている姿はとても可愛らしかった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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