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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第45章 アニメ

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第442話

 仕事帰りらしき3人の男性にチラシを差し出し、「金曜日にオープンします。よろしくお願いします」と言った本宮君に声を掛けた。


「お疲れさま。ミミルの面倒を見てくれてありがとう」

「い、いえ……」


 本宮君は驚いたように目を瞠り、硬い表情で俺を見た。急に声を掛けたのは悪かったかな。


「で、ミミルの機嫌が激変しているんだが、なんでか知ってるか?」


 ポスティングに出る前にミミルが何故か機嫌悪そうにしていた。でも戻ってきたらミミルがとても上機嫌になっているんだ。夕方から機嫌が良くなったり、悪くなったりと今日のミミルはなんだか忙しい。


「機嫌、ですか。特に不機嫌だったとか、そんなことはなかったと思います。いろんな人に話しかけられて、最初は戸惑っているようでしたけれど……話しかけられる内容もだいたい似たような、『歳はいくつ?』とか『お手伝い、偉いね』って言葉だったりするので少しずつ慣れていった感じです」

「そうか、本宮君が見るに、ミミルは機嫌が悪くなかったと?」

「そうですね」


 俺の記憶には何度か不機嫌そうに眼を細め、唇を尖らせていたミミルの顔が残っているが、本宮君は気づいていなかったのだろうか。それとも、俺だけが見たときだけ、そういう顔をしていたのか。

 考えてみると、田中君、岡田君、本宮君の3人がカウンターで話をしているところに俺が加わったタイミングや、その3人から離れてミミルのところに行ったときしかミミルは不機嫌な顔をみせていない。俺以外の3人は、その様子を見ていないということだ。それなら、ミミルの機嫌のことについて本宮君にたずねる意味もない。


「ミミルと仲良くなれたかい?」

「ええ、それはもう」


 笑顔をつくる本宮君だが、あとに続く「今週金曜日のオープンです。よろしくお願いします」という言葉とチラシを差し出したサラリーマンに対する笑顔なのか、それともミミルとの親交を深めたことへの笑顔なのかまでは読み取ることはできなかった。


「19時になればチラシ配布は終っていいから、岡田君とミミルを連れて店の中に戻ってください。いいね?」

「はい。わかりました」


 偶然だが、岡田君と話す俺のところにミミルが飛んできたせいで、19時まではミミルは岡田君とペアを組む形になった。

 これで、同じように仲良くなってもらえるとありがたい。


「ところで、裏田君は?」

「だいぶ前に店に戻ってきましたよ」

「そうか、ありがとう」


 俺がチラシをポスティングして回った六角通りの北側、御池通りの間には姉小路通り、三条通りの2つの通りがある。南側は蛸薬師通りと錦通りの2つの通りがあるので、通りの数としては同じだ。だが、大きな商店街があることや、大きなデパートがあることなどを考えると、南側の方がポスティング先が少ない。逆に北側はマンションや民家もまだ多く残っていて、ポスティング先が多いのだ。俺は別にポスティングをサボるつもりはないので構わないのだが、裏田君は知り合いも多いので捕まることも多いだろうと思っていたので意外だった。

 店の中に戻る前に、もう一度だけミミルの方へと目を向けた。

 本宮君とは違い、印象的には少し尖った話し方をする岡田君だが、ミミルとの相性は悪く無いようだ。

 ミミルを見つめる岡田君の表情は柔らかい笑みを湛えているし、ミミルも満面の笑みでチラシを配っている。

 素性のこと、ダンジョンのことなど、ミミルには問題が色々とあるが、案外普通に暮らしている方が良いのかも知れない。


 店の中に入り、厨房へと入ると田中君がサヴォイアルディとアマレッティを焼いていた。

 既に焼きあがったものもあるが、手土産として焼いている分があるのであと数回は焼かないといけないだろう。単調な作業を繰り返してもらうのは何だか申し訳ない。


「急に大量に焼いてもらうことになって悪いね」

「いえいえ、うちもそのつもりやったんで問題ないですよ。それに、日持ちしますし」

「取引が長く続きますようにと願を込めたようにも見えるし、いいことづくめだよ」

「あ、ほんまですね」


 くすりと笑う田中君だが、俺はもう少し前からお願いすべきだったと再度反省しながら裏田君の方へと移動した。

 気が付いた裏田君が俺に小声で話しかける。


「あれ、届いているんですけど。どないします?」


 今朝買ってきたウニのことだ。荷物になるので配達をお願いしていたんだが、裏田君が受け取っておいてくれたらしい。


「冷蔵庫の中かな?」

「ええ、発泡スチロールの中に入ったまま入れときました」

「ありがとう。引きとるよ」


 店では活発に針が動いていて、まだ元気に生きた状態のウニだった。ただ、発泡スチロールの中にずっと入ったままだと酸欠で死んでいるかも知れない。

 封をされた発泡スチロールを開けて中を確認すると、海水は入っていなかった。全部かどうかはわからないが、少なくともまだ針が動いているウニもいるので生きているのは間違いない。

 殻を割ってからすぐに空間収納へと仕舞うことに決め、俺は2階の事務所へとウニを持って上がった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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