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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第44章 お土産

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第431話

 警備会社による工事仕様の確認を終え、工事が始まる頃には1時間弱が経過していた。

 厨房へと戻ると、フォカッチャが焼き上がり、ロゼッタ生地の二次発酵が終っていた。

 また、ポルケッタは頃合いに焼きあがっていて、あとは寝かせるだけという状態だ。

 焼きあがったフォカッチャを手に、田中君が近くにやってきた。


「あ、オーナー。これでどうでしょう?」

「どれどれ」


 田中君からフォカッチャを受け取り、両手で割くようにして上下に切ってみる。しっかりと気泡が入り、ふわりと柔らかい生地に仕上がっている。表面にはローズマリーの葉を散らしたものや、ゴマを散らしたものなどを焼いていたのは知っているが、全体にムラなく綺麗に焼きあがっている。


「上手に焼けているじゃないか」

「ありがとうございます」


 田中君はとても嬉しそうに礼を言った。

 オーブンにはそれぞれに癖のようなものがあるが、彼女は数回焼いて、ある程度の感覚をつかんできたのだと思う。もう、俺より先のレベルに行っているのは間違いない。

 そんなことを悔しがっていてもしようがないので、俺はロゼッタの生地を麺打ち台の上に並べた。ひとつずつ丸め、ロゼッタ型を使って形をつくっていく。既に二次発酵を済ませた生地なのでしっかりとした弾力がある。型をつけるには結構な力が必要で、ぐいぐいと力を込めて型をつけていった。

 型をつけたら、天板に載せて300℃のオーブンで一気に焼き上げる。生地を何十回も折り畳んで作っているし、十分(じゅうぶん)な二次発酵も済ませているので、焼き上げる際に中に溜まった空気が膨らんで中に空洞ができる。

 高温で焼き上げるので焦げやすいため、オーブンの中をよく見て焼き上がりを確認した。

 オーブンの扉を開けると、高温で一気に焼きあがったロゼッタが焼き立てパン特有の香ばしい匂いを振り撒いた。

 丸々と膨れたロゼッタを取り出す。表面はパリッと焼き上がっているが、中は空洞になっていてとても軽い。


 ロゼッタという名はロゼッタ型が元々薔薇の花を模した模様をつくることに由来する。元はミラノ発祥のミケッタというパンがローマに伝わり、薔薇の花の形をした型を使用するようになったと言われている。だが、俺がローマにいた頃にはロゼッタを扱う店がほとんどなくなっていた。中が空洞のぶん、大きくて場所をとるが単価は安い。材料はシンプルだが、延ばしては折り畳むという工程を30から50回ほど繰り返す。手間がかかる割に儲けが少ないから、扱う店が減ったのだそうだ。

 逆にフィレンツェではロゼッタに煮込んだランプレドットを挟んで食べる屋台が大人気だった。実際、俺はフィレンツェで作り方を教わった。だからロゼッタを焼くと俺はランプレドットを食べたくなるんだろう。

 いろんなことを考えながら、ランプレドットやポルケッタに欠かせないソース……サルサ・ヴェルデを作る。イタリアンパセリとアンチョビ、ニンニク、パン粉、茹で卵などの具材をフードプロセッサに入れて回すだけだ。


 さて、ロゼッタも焼きあがったことだし、田中君に手伝ってもらいながら賄いの準備をするとしよう。


「田中君、このロゼッタを使ったポルケッタのパニーニを作って欲しい。いいかな?」

「あ、はい。横に切って挟むだけですか?」

「ロゼッタの上にポルケッタをひと掴み、サルサ・ヴェルデをかけて、グリーンリーフとスライスオニオンを少し挟む感じで頼む」

「わかりました。何個つくればいいです?」

「6個でいいか。俺はランプレドットの方を食べるから」


 田中君は「はい」と返事をして、すぐに作業に取り掛かった。

 俺もロゼッタを横に切り、そこにランプレドットを取って載せると、サルサ・ヴェルデ、ニンニクと唐辛子を漬け込んだオリーブオイルを掛けて蓋をする。

 とても簡単で栄養たっぷり、ランプレドットのパニーノの出来上がりだ。

 これだけでは野菜が足りないので、田中君がポルケッタのパニーニを作っている間にサラダを作る。

 洗ったレタスやスライスオニオン、パプリカ等を手に取り皿の上に盛り付け、トマトを切って飾る。そこにディジョンマスタードと白ワインビネガー、オリーブオイルを加え、最後にレモンを絞って泡だて器で混ぜ合わせたドレッシングを掛けて出来上がりだ。

 皿の上に紙ナプキンを敷き、そこにパニーノを載せたら横にサラダを盛付け、トマトや茹でたブロッコリーを飾るように並べた。


「こんな感じでいいですか?」

「うん、それでいい。ここに載せてくれるかな?」


 ランプレドットと同じように、皿の上に敷いた紙ナプキンの上に置いてもらった。同じようにサラダ類を盛り付ける。

 見るからにフィレンツェの街で働く労働者の昼食といった感じの料理が二つ出来上がった。


「残りも同じように盛付けはるんです?」

「これは写真用だからね。今回は賄い兼ねた試食だし、もっと雑でいいよ」


 田中君に返事をして、またカメラが事務所に置いたままになっていることを俺は思い出した。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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