第409話
〈まだ話すのは早いと思っていたのだが、いいだろう。はじめてしょーへいと会った日、ダンジョンができた理由について話をしたと思うが覚えているか?〉
ミミルが暮らしていたエルムヘイムは陸地が一割しかない惑星で、そこに食物連鎖の頂点に立つエルムの数が増えすぎた。
住むところにも困り、食料を含む資源不足が発生した。その解決策としてダンジョンを作った――そんな話だったと俺は記憶している。
〈ああ、覚えている〉
〈神々の戦いの際に洞に逃げ込んだあと、宇宙樹は完全に燃えてしまっていた。だが、9つの世界を繋ぎ合わせる存在だったくらいだ。燃え尽きたのは形としての宇宙樹のみで、その存在は魔力として残っていた。その膨大な魔力を使って作られたのが原初のダンジョンだ〉
〈どうして原初のダンジョンを作ったんだ?〉
〈戦後世界を見るためだ。王は長年苦楽を共にした他の神々がどうなったのか知りたかったのだろう〉
ミミルは手元に置いてあったコップから、水を口に含んで飲み込むと、話をつづけた。
〈エルムヘイムは平和だったが、それ故にエルムが増えすぎた。海は広いので魚は捕れるのだが、牧畜業を推奨するにも陸地が小さく難しい。牧場が増えれば畑の面積が減る。山林は手を入れすぎると崩れる。砂漠や雪原があって、魔法があれば暮らせるが子育てするには環境が厳しすぎた〉
〈そうなると、都市部に人が集中するわけか〉
〈そのとおり。地面に家は建てられないので樹上に家を作り、そこで暮らす。それでもエルムは増えた〉
〈そこでダンジョンを使おうという話になったわけだな?〉
〈うむ。ユングヴィ2世は原初のダンジョンを元に、極小の洞を繋ぎ、そこに宇宙樹の魔力とその性質を用いてダンジョンの種を作った〉
〈ダンジョンの種!?〉
〈そう。宇宙樹は植物だから、種をつくる。その種にダンジョンを作るよう魔法で細工をしたのだ〉
〈その種をエルムヘイムにばら撒き、各地にダンジョンを作ったというわけか〉
ひとつずつダンジョンをつくるのではなく、種を作ってばら撒くという発想をするとは、さすがは神話世界の神という感じだ。
だが、また話が逸れている気がする。
〈それで、3000年前の話を知っているとなれば王族と宰相、召使いだけとなる理由は?〉
〈あ、そうだったな。原初のダンジョンに出入りできる者は老化や病気では死なないからだ〉
〈いや、他のダンジョンも老化や病気の心配はないんだろう?〉
〈魔素の質が違う。原初のダンジョンは宇宙樹そのものの魔力からできているが、ダンジョンの種から生まれる魔素は種から生まれる宇宙樹の子どもから得るものでしかない。それくらい、魔素の質や量が違う〉
〈な、なるほど。それで、3000年前のことは原初のダンジョンに入ることができる人々――王宮にいる人たちのみ知り得るってことなんだな〉
〈そういうことだ〉
いろいろと脱線したが、エルムヘイムの王宮にならゲルマン民族が大移動する時期に地球にダンジョンが繋がっていたことを知る者がいる可能性があるということだけは理解できた。
〈いろいろと教えてくれてありがとうな〉
〈いや、気にするな〉
英語で言う〝No Problem〟と同じような気楽な返事だ。
ミミルはすぐに漢字ドリルへと視線を向けた。もう漢数字のページは終っていて、先へと進んでいる。
あのあたりなら俺でも間違わないで書ける自信はあるが、だんだん難しくなると書けない字があっても不思議ではない。パソコンやスマホを使って文字を入力するのには慣れているが、鉛筆を持って書く機会も減っているし、書いても決まった文字ばかりだ。
ミミルが文字の練習に戻ったので、俺も北欧神話のことを書いた書物へと意識を戻した。
北欧神話に登場する神々を紹介するページだ。
最初は北欧神話の主神、オーディン。いまとなっては信仰など残ってもいないと思ったが、意外にも〝Wednesday(水曜日)〟はオーディンのことを指すと書いてあった。
続いて登場したのは、オーディンとヨルズの間にできた息子であり戦の神、トール。2頭の山羊に牽かれた戦車に乗って戦う姿から、オクソールと呼ばれると記載されていたが、確か雷の話をしたときに〝オグソール〟とミミルが言っていた気がする。雷の神とも言っていたな。〝Thursday(木曜日)〟はトールを指すらしい。
俺はもう、エルムヘイムと北欧神話との関係は切っても切れない状況にあると思っている。同じ神を指しているのは間違いないだろう。
次に名前が出てきたのはフレイだ。
呼び名はいろいろとあり、フレイ・ユングヴィやイングナール・フレイ、フロディという呼び名もある。
いずれにしても、ヴァン神族で豊穣の神であり、妖精たちの国――アルヴヘイムの王で、ユングヴィは第一層の出口にあったイグナールのことだ。
スウェーデン王室の先祖はフレイであるとされ、ユングリングという姓を名乗っているとあるが北欧神話の本では詳しくわからない。
ここから先はまた地上で検索だな。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






