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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第40章 バイトの二人

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第392話

「すみません、よおわかりません。前にいた店やとボタン、ポンッでラテができてたし」

「そうなんですね。中村さんは知ってます?」

「すみません、カフェラテとカプチーノの違いもわからへんので、よかったらそこから教えてください」

「わかりました。とても簡単に言うと……」


 カフェラテはスチームミルクとエスプレッソでつくったもの。

 カプチーノはフォームミルクとエスプレッソで作ったものだ。

 但し、ピッチャーからスチームミルクを注ぐ際にフォームミルクも流れ込んでしまう。だから、カフェラテの分量比としてはエスプレッソが1に、フォームミルクが1、スチームミルクが9となる。

 カプチーノを作る際にも同じようにスチームミルクが流れ込んでしまうので、分量比としては1対1対1くらいの割合になる。

 といった内容を説明し、エスプレッソの抽出方法、スチームを使ったミルクの作り方を実演してみせた。

 出来上がったのは、表面にハートの形が浮かんだラテアートだ。実はこれが俺にできる精一杯だ。

 2人は真剣な表情でメモを取っていた。


「こんな感じです。まずは自分の分をつくるつもりで、やってみてください」

「はい」「やってみます」


 それぞれに違う返事をすると、年長者の吉田さんからチャレンジするらしい。

 メモを片手にぎこちない手つきで操作をしている。多少変なことをしても機械が壊れるようなことはないので、平仮名ドリルに夢中になっているミミルへと見本のカフェラテを届ける。ページはちょうど「らりるれろ」のところだ。集中し、薄くプリントされた見本の上に、丁寧に線を引いている。

 俺としては、平仮名の中でも特に「る」と「ろ」のバランスは難しいと思う。特に字が上手ではない俺は、「ろ」と書いているのに「3」に見えると人によく指摘される。

 一行分の練習を終えるのを待って声をかける。


「精が出るな」

「ひらがな、難しい」


 そっと皿に載せたカップをミミルの手が届くところまで滑らせて差し出した。

 差し出したカップをチラリと見ると、ミミルはすぐに俺を見上げる。


「砂糖は入れてないから、自分で入れるんだぞ」

「……ん。もよう、ある」

「練習でつくってみたんだ。ハート型って言うんだ」

「ハート……」


 覚えようとしたのか、ミミルが小さな声で呟いた。

 ハートはラテアートの基本であり、一番簡単なものだ。あくまでも俺の練習と、吉田さん、中村さんへの手本みたいなものだ。

 ハート型は一般的には心臓の形を起原にしているとか言われているけど、実際には恋愛感情だとか、性的に興奮した状態を表すために用いられたりするから、ちょっと説明はしづらい。


「昼の時間は過ぎているけど、昼食はもう少し待ってくれ。いいか?」

「……ん、わかった」


 ミミルが素直に認めてくれたのでつい頭を撫でそうになるが、ポンポンと背中を叩いてカウンターの方へと戻った。

 パートの2人が俺の方を見て何かを話していたが、俺が近づくと年長の吉田さんが意を決したように口を開いた。


「ミミルちゃんってえらいかいらしいけど、お母さんに似たはるん?」


 この街、特有の言い回しだ。


「ええ、数年前に亡くなって、ずっと親戚のところに預けられていたんです。正直、俺もまだ自分の子どもという実感がないんですよ」

「それ、どういうことなん?」


 中村さんの語気が強くなった。吉田さんの目にも怒りのようなものが籠っているように見える。

 少し言い方がまずかったようだ。

 俺は慌ててミミルの母親との()()を説明した。

 自分と同じように料理修行に来ていたスウェーデン人のミミルの母親と愛し合ったこと。俺は修行先との契約で違う地域の修行先に移らなければならず、彼女は母国に戻らなければならなくなったこと。そのとき、彼女が子を宿していたことを俺は知らなかったこと……。


「ホテルを退職して店を開くとなってから連絡した昔の修行先から彼女が亡くなったことを聞いてね。親戚に預けられていたミミルを引き取ることにしたんですよ」


 俺も嘘が上手くなったものだ……などと思いながら俺はミミルの方へと視線を向けた。それに釣られたのか、2人もミミルを見る。既に砂糖は3杯入れたのだろう。大人しくカフェラテを啜るように飲んでいる。


「そうなんやねえ」

「可哀想に……」


 嘘の話で同情されると、胸が痛い。

 だが人の口には戸は立てられないと言うし、本当のことを言うというわけにもいかない。

 既に田中君には同じ内容で話していることだし、毒を食らわば皿までだ。徹底して嘘をつき続けるしかない。


「まあ、いまのところ本人は寂しそうな顔ひとつ見せずにやっています。日本にやってきてまだ10日ですからね」

「ほな、まだお友達もいたはらへん感じやろか?」

「いませんねえ……小学校は近くにありますけど、言葉の壁がね。いま勉強中です」

「ああ、たしかに……」


 今日、ミミルが挨拶する際の様子を思い出したのか、2二人はすぐに納得してくれた。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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