第386話
結局、ツードアタイプで自動霜取り機能付きを前提にいくつか候補を選び、部屋の中に置いても不自然じゃない感じのデザインや色のあるものにした。明日のうちに到着するらしい。そこまで大きな荷物でもないので2階に運び込むのもそんなに大変ではないはずだ。
注文してから気が付いたのだが、アイスクリームは溶ける前に空間収納に仕舞ってしまえば良いし、飲み物を冷やしたければ氷を出して冷やせば良い。
だが、瓶や缶に入った飲み物の栓を開けずに冷やすことはできない。未開栓のワインを冷やそうとしたが、ミミルでもできなかったんだ。たしか、瓶や缶に入った飲み物は地上で造られたときに密閉されていて魔素が含まれていないから魔法が効かないんだったか。どうしても冷やしたいなら氷水を入れたバケツの中なんかに入れて冷やすしかない。
いろいろと考えたが、冷蔵庫で冷やしたものを空間収納に仕舞う方が現実的なので、買ったのは間違いではない――ということにした。
厨房に戻ると、糸屋格子の窓から入る光が遮られ、少し暗くなった。
雨雲でも出ているのかと窓の外へと目を向けると、ワゴン車が店の前に停まったようだ。
まだ開店前だが、この時間にやってくるなら宅配業者………先日注文したリーディングライトと北欧神話の書籍が届いたのだろうか、と思い慌てて店の扉を開いた。
そこに立っていたのは、インターフォンのボタンを押そうと指を伸ばしている林さんだった。
「あ、おはようございます」
「毎度。おはようさんです。昨日、話してたシールタイプの避難誘導灯、持ってきました。2階に上がらしてもろても?」
「はい、お願いします」
隠し階段を上がると、林さんは手際よく脚立を組み立て、避難誘導灯シールを自宅扉の上に貼り付けた。
15センチ四方くらいのシールだが、廊下の明りで十分に発光するらしい。もっと大きなシールが玄関上に貼られると思っていたので少しホッとした。
玄関扉を開けて、林さんを自宅の中へと案内する。もう1か所はベランダに出る扉の上だ。
ここも脚立を組み立ててシールを貼るだけ。2分ほどで作業は終了だ。
「これで終いですわ。また何かあったらいつでも連絡ください」
「明日の点検に間に合いました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。で、これが納品書。請求書は他の工事とまとめさしてもらいます。あと、受領書にサインもらえますか?」
「わかりました」
納品書、受領書を受け取り、内容を確認する。
いや、納品書と受領書だけということは、本来ならわざわざ脚立まで持ち込んで貼りつける必要はなかったはずだ。
「えっと、工賃は?」
「ああ、なんか招待状もろてましたし、ほんまにちょっとした作業やから全然気にせんとってください」
「ありがとうございます。レセプションには是非いらしてください」
「ええ、楽しみにしてますわ」
受け取った受領書にサインをし、返却した。林さんが店の前に駐車した車に乗り込んだのを見届けたところで、台車にたくさんの配達荷物を載せたお兄さんが店の前までやってきた。俺宛ての荷物は、先日ネット通販で購入したリーディングライトと北欧神話について書かれた書籍だ。
その場で受け取りを済ませると、梱包を開けて中身を確認して空間収納へと仕舞っておいた。
「本当に便利だな……」
思わず声がもれてしまう。荷物を持って2階に上がる必要がないし、必要になったら2階で取り出せばいい。重いものや嵩張るものも1階で梱包を解いてもらい、空間収納に仕舞ってから2階で取り出せば移動も楽ちんだ。冷蔵庫が届いたときに階段を持って上がるのが大変だと思っていたが、いらぬ心配だったってことだ。
ただ、大きさの制限はあるはずだ。俺の車を収納することはできない、とミミルが言っていたと思うので間違いない。他にも制限事項があるのなら聞いておく必要があると思うのだが――入浴を楽しんでいるミミルに念話でたずねる必要はないだろう。
尻のポケットからクシャクシャになったメモ帳を取り出し、また皺を伸ばしてメモを書き加える。
――【確認】空間収納の制限事項
それをまたポケットに仕舞おうとして、空間収納があることを思い出した。一旦、自室に戻って新しいメモ帳に同じことを書き入れてから空間収納に仕舞った。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。早いな」
裏田君が出勤してきた。時計を見るとまだ10時前だ。
「いや、昨日注文した食材が届くよって、早めに来たんですわ」
「それなら電話でもなんでも言ってくれればいいのに」
「八時くらいに電話したんですけど、圏外なってましたよ」
「あ、そうか。ダンジョ……地下に行ってたからなあ」
「そやろなあと思てました」
ダンジョンのことを裏田君には話しているけど、厨房の話し声は外にも聞こえるので途中で言いかえた。裏田君はその意図を瞬時に理解してくれたようだ。
「00粉と、セモリナ粉は今日届くかい?」
「ええ、もちろんです」
そういうことなら、先ずはパスタとピッツァの生地を打つことにしようか。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






