ミミル視点 第24話
店を出てしょーへいと街を歩く。
地面は何か青黒いもので押し固められているようだ、そして、白い線が両側にずっと引かれている。これは消石灰でも使っているのだろうか?
足先で白い線を踏んでも粉がついてこないところを見ると、塗って乾かしたものなのだろう。どういう技術なのか……興味があるな。
どうやらしょーへいはわざわざ日陰を選んで歩いてくれているようだ。日焼け対策はしているので、そのような気遣いはなくてもよいのだが……。
『うーん……』
なにやら呻き声を上げながら歩いているぞ?
どうしたというのだ?
「なにか悩みでもあるのか?」
『むずかしい、かんがえ、もんだい、ない』
しょーへいはどこかぎこちない笑顔をこちらに向ける。この男は何を考えているのだろう……。
魔法のことなら何でも答えてやれるのだが、いかんせんこちらの世界の方が文明が大幅に進んでいるようだ。いまも前から何かがやってくる。
なんだあれは……。
大きな白い箱といえばいいのだろうか……そこに車輪がついていて、一部を絶妙なカーブを描いたガラスが覆っている。その中では椅子らしきモノに人が座っている。
横を通り過ぎる姿を見ると、どうやら扉が片側に二枚ついているようだ。中に見える椅子の大きさを考えると、反対側にも扉があるはずだ。
『あれ、なに?』
『あれ、ジドウシャ……かたち、いろいろ。あれ、ライトバン」
じどうしゃというのか。中にいる者は何をしているのだろう。
それに、動力はなんだ?
よくよく考えてみると、この世界には魔素がほぼない。ということは、魔石も存在しないはずだ。なのに、魔道具を使っている。
魔石に代わる動力源があるというのだろうか?
こうなったらしょーへいに尋ねるしかない。
「馬がいないのに動くというのか?」
『あぶら、うごく。うごく、ほうほう、かえる、おしえる』
「そうか、わかった……」
残念だ。いますぐにでも知りたいと言うのに、帰ってから教えると言われてしまった。
恐らく歩きながら話して説明できるほど簡単な仕組みではないのだろう。
仕方がない。逆に、家に戻るのを楽しみにすることにしよう。
「あれなに?」
今度は二つの車輪がついたモノに跨って脚を動かしている女がいる。どうやら人力で動くもののようだ。
『あれ、ジテンシャ、かたち、いろいろ』
ふむ――ジテンシャというのだな。
そして、あれにもいろいろな形があると……確かによく見るとその辺りにもジテンシャが置いてある。似た形のもあるが、全然違った形をしたものもあるな。
「あの跨っている女が踏む力で動いているのか?」
『ん、そう』
ふむ。足の力で車輪を回して進む――面白いな。どのような仕組みになっているか、是非知りたいものだ。
そういえば先ほどから通りの端に立っている石の柱なんだが、何のためにあるのだ?
『これなに?』
ちょうど横を通る時に左手でパチンと叩いて尋ねてみる。
しょーへいは少し困ったような顔をしたが、素直に答えてくれる。
『これは、デンチュウ、いう。デンキ、デンワ、つなぐ……いえ、もどる、おしえる』
なんだ、これも家に帰るまで教えてもらえないというのか……。
帰ってから教わらないといけないことだらけで、何と何を教えてもらうつもりだったかわからなくなりそうな気がするぞ。
前からくるのはまた違うジドウシャだろう。
形は少し小振りだが、後ろに大きな荷台のようなものがある。これだけの荷台にどれだけの量が載るのかわからないが、馬一頭で引く荷馬車のことを考えると、同等くらいと思えばよいのだろうか……。
それにしても、周辺を歩いている者が多い。
エルムヘイムはダンジョンの力で人口の増加を防いでいるが、この世界ではダンジョンがなかったこともあり、人口がかなり多いようだ。
先ほど見えた細い通りなどは、もう人でいっぱいだった。
すぐ近くの店らしきところから海の貝を焼く匂いがして思わず口の中に涎が溜まったのだが、そこはしょーへいに見つからずに済んだ。
通りの向こうではジドウシャが高速で走り抜けているのが見える。もう、馬などと比較できないほど速い。どのくらいの速度が出るのだろうか……。
エルムヘイムにあのジドウシャがあれば必ず発展に寄与するのだが、そのノウハウを得てもいまは戻ることができない。非常に残念だ。
たぶん、ジテンシャもエルムヘイムでは広く受け入れられるだろう。
何よりも運転している者が自分で踏んで進むのだから、自由気ままに走り回ることができる。これほどエルムへイム人が喜びそうな乗り物もないような気がする。
そういえば、昨日使ったドライヤアとかいうものなんかも人気が出そうな品物だ。エルムヘイムに戻れるなら、この世界の商品を真似すれば一儲けできるだろう。
おっと、ジドウシャやジテンシャだけじゃない……この世界のトイレはお尻を洗ってくれる。そちらも忘れないようにしよう。






