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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第38章 空間収納

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第378話

 安全地帯を進み続けること更に一時間ほど。遠くからは地続きになっているように見えていた草原は、眼前を流れる幅50メートルほどの川に分断されていた。川辺から上流へと目を向けると、遠くに滝が見える。逆に下流を見ると数百メートル先で分岐している。分岐することで川幅が狭くなっているようだが、その間に残る三角州はどこまで続いているのかよく見えない。

 確か、第3層の入口部屋から西に行くと滝になっていたはずだから、あの三角州の向こう側は断崖絶壁になっていて、その先は海になっているのだろう。

 このあたりの景色は第3層に入ってから歩いてきたコースを考えると何も不思議はない。


〈なあミミル、これは何だ?〉


 不思議なのは対岸まで続く石で造られた建造物だ。


〈石橋だ。知らんのか?〉

〈いや、なんでここに石で造られた人工的な建造物があるのかということをたずねているんだ〉

〈知らん。私が知りたいくらいだ〉


 数百年をダンジョン内で暮らしてきたミミルでさえ知らないのだから、ダンジョンの謎のひとつとしか言いようがない。

 ほぼ等間隔に並ぶ橋脚。下には巨大な岩があって、橋脚部分は川の流れに沿って流線形になるよう石が積み上げられている。橋脚と橋脚の間は輪石(わいし)が美しいアーチを描き、ひときわ大きな要石(かなめいし)がその存在感をアピールしている。地覆(じふく)は切り出したような石が整然と並べられ、ほぼ水平に対岸へと続いている。

 これは明らかに文明が存在することを示す建造物だ。昨日渡った橋でも思ったことだが、ダンジョンの第2層や第3層はどこか人工的な気がする。

 まず、魔物の領域が分かれていて、安全地帯が設けられていること。これは動物ごとに飼育されているエリアがあるという見方をすれば、動物園やサファリパークのようなものだ。

 第2層にも川があったが橋がない。だが、第3層には橋がある。橋は非常に原始的な橋から、輪石や要石を用い、高度に計算されているものまである。また、中州のなかにわざわざ低地を作って湿地帯がつくられていることなどを考えると……。


 ――ダンジョンというのは様々なパーツで組み立てられた箱庭のようなものなのではないか。


 そんな仮説を立てることにした。

 そういえば、第2層の入口部屋は石で組み上げられた祭壇のようになっていた。あれも、箱庭を作るときに用いるパーツだと思えばどこか辻褄が合う気がする。川を作り、中州も作ったが橋のパーツが足りなかった……ダンジョン第2層に橋が無かった理由は案外そんなものなのかも知れない。


 では、誰が作った箱庭なんだ、ってことになる。


 立ちどまったまま石橋を見つめてぼんやりと考え事をしている俺の尻をミミルが木の棒で突く。


〈数多ある宇宙の中にある環境の一部がここに再現されているに過ぎない。それが何番目の宇宙のどこにある星なのかまで我々に知る術はないぞ〉

〈うん。それはそうなんだけどさ……〉

〈考え事ばかりしていても前には進めんぞ〉

〈わかったから〉


 またミミルに尻を突かれ、俺は石橋の上を歩きはじめた。


 ダンジョンを誰が作ったのか――考えても仕方がない。ダンジョンを踏破すればわかることだ。


 1分ほどで橋を渡り終えると、そこはまた草丈80センチほどある草原。フロウデスとリューク・トリュークのいる領域の中間にあたる場所だ。遠くにエルムの木が見える。

 第3層の太陽はだいぶ西へと傾いている。時刻にすると4時くらいだろうか。


〈あのエルムの木にラウンがいるといいんだが〉


 残り時間が短くなっていることを意識し、俺は呟いた。


 こういうとき、何も考えずにただ「ラウンがいる」と信じてエルムの木に向かうか、「ラウンはいない」と期待せずに向かうのか。それとも俺のように「ラウンがいればいいのに」と希望を持って向かうのか。人によって考え方が違うと思う。

 基本的に俺は慎重に物事を考える傾向がある。そんな俺が店を持つと言いだしてホテル仕事をしていたときの知り合いは驚いたものだ。だが、「これ以上の物件はない」と思える町家を見逃すことができなかった。もちろん、後悔はしていない。


〈ミミルはどう思う?〉

〈どう、とは?〉

〈エルムの木に向かって歩くとき、ラウンがいると確信しているか、いないと諦めているか。もしくは、いればいいなと希望を持っているか、かな?〉


 こういうことは性格が良く出ると思う。ミミルは31回もラウンを倒して空間収納を身につけたと言っていたが、その前に接敵できることや、逃げられることを考えたら100回近くは探したことだろう。何度も心が折れそうになったことだろうし、いないと諦めているんじゃないかな。その方が、実際にいなかったときに残念に思うこともないし、逆にいたら運が良かったと喜ぶことができるから。


〈いると思っていれば、心の準備ができた状態で接敵できるからな。慌てないためにも、必ずラウンがいると思うようにしている〉

〈そ、そうなのか〉


 よく考えると、ミミルたちはダンジョンで魔物を狩って食料を得ている狩猟民族だ。そもそも普段から魔物に対する姿勢が違うってことを俺は忘れていたことに気が付いた。


【用語】

地覆(じふく) : 橋の上にある舗装面のことです



将平はシミュレーションゲームのマップコンストラクション機能のようなものを想像していると思っていただけるとわかりやすいと思います。

なお、将平はRPGを遊ぶことはあっても、シミュレーション系のゲームなゲームをしたことがありません。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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