第374話
ルーヨの背ロース肉ステーキの付け合わせとして添えたコウルの花蕾……ブロッコリー擬きはスパゲティの茹で汁にサッと潜らせた程度。生の状態だと少しくすんだ紫色をしているのだが、それが鮮やかな紫色へと変化している。
フォークを刺すと、ほとんど生だというのに茹でたブロッコリーのように抵抗なく歯が入っていく。
口に入れると茹でたキャベツのような甘い香りがして、歯を立てるとほっくりと崩れていく。
おそらく煮込みすぎると旨味が抜けてしまうのだろうが、さっと湯に潜らせることで寧ろ旨味が活性化しているような気がする。考えてみると、以前に作ったブロッコリーとアンチョビのオレキエッテのときにもコウルの花蕾を使っているが、そんなに不味くはなかった気がする。他にもルーヨのモモ肉の煮込みにギュルロとセレーリを使っているが……よくわからんな。組合せの問題とかもあるんだろうか。
漸く冷めてきたココットの方へと目を向ける。既にヴォンゴレとルーヨのステーキは食べ終わったので、食事として食べるのではなく、仕上がりの確認をするつもりだ。
スプーン1杯分の煮込みを小皿に取り、先ずは煮え具合を確認。スプーンでつつき、パプリカやギュルロ、セレーリ、リューク等の様子を見ると、芯が残ることもなく軟らかく煮あがっている。
野菜の色合いが異なるけれど、南イタリアの無水チャンボッタの出来上がりだ。
更にスプーンでいくつかの野菜を皿に取り、味見をしてみる。
パプリカの甘い香りが広がり、煮汁がとろりと舌の上になだれ込む。トリュークが加える力強い旨味、リュークの甘味、セレーリの苦味とジャガイモのほっこりとした食感、ギュルロの甘味……残念なところはやはり、上品過ぎるところだな。ギュルロの甘みはいいのだが、土臭さやセリ科特有の爽やかな香りがない。リュークはとろりとした舌触り。甘味もあって、普通にタマネギのようだ。茄子擬きのオバシンは油を吸ってとろりと甘く、ロバシンは酸味を僅かに残しつつ少し形を残して溶けている。煮汁は黄色いロバシンのままだ。
「美味いじゃないか……」
「……ん?」
ミミルがテーブルの上を這うようにして俺の持つ皿にフォークを突き立ててきた。
「こらこら、行儀が悪いぞ」
フォークの先に刺さった野菜をミミルがフォークごとパクリと咥え、そのまま椅子の場所まで後退る。爬虫類かよ。
「んまい」
「だよな?」
油で炒めたあと、主にリュークとロバシンがもつ水分でじっくりと煮る。そして、重い蓋で漏れる水蒸気を最小限に抑え、冷ますことで外に漏れだした魔素を再度吸わせること……それがダンジョン野菜を上手く煮る方法のひとつなのだと思いたい。
では、ブロッコリー擬きとアンチョビのソースはなぜ旨く作れたのか。あと、ルーヨのモモ肉の煮込みもそうだな。
昼食はスパゲティ・アレ・ヴォンゴレ・イン・ビアンコとルーヨ肉のステーキで腹を満たしたので、チャンボッタは夕食に出すことにした。普通ならそのまま放置して休ませると味が染み込んでちょうどいいはずなのだが、ミミルの空間収納に仕舞うと時間停止する。まだ鍋の中身が少し暖かいまま、今夜の食卓の上に並ぶことになるだろう。
片づけを終えた俺は、椅子に座って少し休憩していた。
退屈したのだろう。ミミルがやってきて話しかける。
〈どうした?〉
〈ん、ああ。ルーヨ肉の煮込みにセレーリとギュルロを使ったし、〝オレキエッテ〟にコウルの花蕾を使ったというのに、その二品は野菜の味が抜けなかったからさ。どうしてなんだろうと不思議でね〉
〈しょーへいは根っからの料理人だな〉
〈まあ、否定はしない〉
20年近く、料理人をしているのだから仕様がない。
〈ルーヨの煮込みには何を入れた?〉
〈ダンジョン食材はルーヨの肉、ギュルロ、セレーリだな。地上の食材はタマネギとニンニク、トマト、赤ワインにオリーブオイルだな〉
〈ふむ、もうひとつの料理は?〉
〈ダンジョン食材はコウルの花蕾、地上の食材はニンニク、アンチョビ、オリーブオイルと生パスタかな〉
〈ダンジョン野菜が2品に、地上の食材が5品という組み合わせと、ダンジョン野菜が1品に、地上の食材が3品という組み合わせだな〉
ミミルはダンジョン野菜の品数と、地上食材の品数で決まると考えているのだろうか。肉が入っていないが、確かに肉の方は味が抜けたという感じはなかった。茹でて食べるという話もしていたし、肉類は水に魔素が溶け出しにくいということなのか。
となると、昼に作ったミネストローネはどうだったか……
〈トリューク、リューク、ロバシン、セレーリ、ギュルロ、コウルとギレナベアナ……〉
地上の食材はオリーブオイルとジャガイモだけだ。
こうして比べてみると魔素が抜けずにしっかりと味を楽しめた料理と、魔素が抜けて味が無くなった料理の差がわかったような気がする。
この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。






