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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第37章 地形の謎

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第364話

 俺の問いに対し、ミミルは不思議そうな目でこちらを見ている。もちろん、顎は止まらない。

 意味が通じてないのだろうか。


〈エルムにとって毒になる食べ物だよ。なんかあるのか?〉


 しばらく口の動きを止めることなくミミルは俺の方へと視線を送っている。念話で返すならもう返事できるはずだが、その様子もない。脳の8割を食べることに使い、残りの2割で返事を考えている……という感じがする。

 やがて口の中のものを飲み込んだミミルの口から、俺の問いかけに対する返事が語られる。


〈海には食べると死ぬことがある魚がいる。あと、エルムヘイムの森には食べると死ぬキノコもあるな……それがどうかしたのか?〉

〈いや、たぶん……このリュークやトリュークをチキュウのニンゲン以外の動物に与えるとだな〉

〈どうなる?〉

〈死ぬことがある〉


 瞠目だけでなく、口までぽかんと開けて驚きを表現するミミルだが、俺と目が合うとすぐに表情を引き締めた。


〈そ、そうなのか?〉

〈ああ。血の中には息をして空気を運ぶ役割を持つものがあるんだが、それを壊してしまうんだ〉

〈むう……だが猫人族や犬人族も普通に食べているし、エルムの身体にも問題はないぞ〉

〈それならいいんだよ。他にそういう食材はないか……思い当たるモノがあれば教えて欲しい。知らずに食べさせてミミルの身に何かあったらと思うと怖いんだよ〉

〈ルマン族と我々エルムの間に嗜好の違いはあるが、概ね食べるものは同じだ。それよりもだ〉


 ミミルは途中まで話すと箸でリュークを摘まみ、俺の作ったバーベキューパウダーをつけて噛り付く。

 よほど気に入ったのだろうが、話の途中で噛り付くのはやめて欲しい。


『血の役割って何なのかな? 考えたことはあるんだけど、まったくわからない』


 頭の中に届いてくるミミルの念話と口の動きが全く違うので違和感がすごい。腹話術でも聞いているような気分だ。

 だが、こんな話になるとは思っていたんだ。

 とりあえず、食べ物については俺たち人間が食べられるものなら何も問題がないということで良さそうだ。当然、これからも人間が食べてはいけないものは食べさせることがないからひと安心だ。


〈あくまでもチキュウの生物の話だぞ。ミミルの役に立つのかは疑問だが……血が赤いのはセッケッキュウのせいだ。全身に酸素を運ぶ役割がある。酸素はわかるよな?〉

『何かを燃やすときに使うんでしょ。知ってるわ』


 なんだか俺がしゃべっている間に肉が減っていく。俺も念話で話しながら食べる方が良さそうだ。それにまた口調が変わってる気がする。


『そのとおり。他にハッケッキュウとケッショウバンというものがある。ハッケッキュウは細菌などの外敵を排除してくれるし、ケッショウバンは怪我をしたときに血管の穴を塞いでくれるんだ』


 白血球にもいろいろ種類があるとか聞いたことがあるし、血漿とかいうのも成分としてあったと思うが詳しいことは知らん。


 漸く焼けたキュリクスの肉を一切れ摘まみ、バーベキューパウダーを少しつけて口に運ぶ。

 キュリクス肉は和牛とアンガス牛の中間のような肉質。見た目では霜降りが無いようにみえるが、焼いてみると内側からじわじわと脂が浮きだしてくる。そこに肉の旨味と相乗効果を起こすグルタミン酸を含んだバーべーキューパウダーをつけてれば……。


『こりゃ、想像以上に美味いな』

『ほんと、魔法の粉ね』


 やっぱりミミルの念話は口調が違う。なんだか女性らしい話し方だ。いったいどうしたというのだろう。

 最初は片方だけの通信だったものが、双方向に変わることでこんなにも変わるものなのだろうか。それとも何か他にも変化があったとか……。

 こればかりは想像だけではどうにもならない。食事が終ったら確認したい。


 表面にオリーブオイルを塗ってから焼いたズッキーニがいい感じに焼けてきた。それをひと切れ摘まんでミミルの皿へと勝手にのせる。同時に返ってくるのはミミルのジロリと見上げるような視線だ。


『そんな嫌な顔をせず、食べてみてくれよ』


 強制的に野菜を食べさせられるのが不快なのか、ミミルはムスッとした表情をこちらに向ける。

 俺はお手本とまでは言わないが、自分の皿に取ったズッキーニにバーベキューパウダーを少しつけ、前歯で齧ってみせる。

 油でコーティングされたズッキーニの断面からは白い湯気が上がり、俺はホッホッと舌の上でその熱い実を冷ます。


『熱いから気をつけてな』

『……うん』


 ズッキーニはカボチャの仲間だ。日本のカボチャほどではないが、ニンニクやパプリカの旨味成分や塩を含んだバーベキューパウダーを付けると旨味や甘味が増して感じられる。しかも熱々で汁気もたっぷりだ。


 ミミルはフウフウと息を吹きかけ、表面を冷ましてからズッキーニへと噛り付く。


〈あつっ!〉

〈だから気をつけろと……〉


 表面の油で行き場を失った熱い汁が口の中に流れ込んだのだろう。気をつけろと言ったのだが、こうなることを想像していなかったようだ。

 ミミルの口元から少し垂れた涎と汁を濡れティッシュで拭いとる。

 いい大人のはずなんだが、世話のかかるやつだ。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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