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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第37章 地形の謎

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第362話

 基本的に有機物と酸素、そこに十分(じゅうぶん)な熱があってはじめて火は灯る。

 だが、ミミルの指先には有機物は存在せず、ただ何かが燃えている。


〈木や油などが燃えるのとは違い、魔法で燃やすのは魔素だ〉


 魔力視を発動し、その燃える指先をじっと見つめると、ミミルの指先では魔力で制御しつつ周囲から集めた魔素が集められているのがわかる。そのまま視線を上方へと転じると、非常に魔素が薄くなったところができていた。


〈魔素を圧縮して発火しているのか?〉

〈理屈ではそうなのかも知れんな。濃い場所ができるのだから、薄い場所もできる〉

〈なるほど……〉


 温度が高いと空気が膨張するから、そこの部分は空気が薄くなり、軽くなる。上昇気流が生じるわけだが、魔素を含んだ空気も魔素が燃えると軽くなって押し上げられて上昇する。では燃えた魔素はどうなっているのだろう。


〈この先の説明はあとだ。あくまでも過程ではなく、結果を想像して創造する魔法があることを理解して欲しい〉

〈ああ、理解した〉


 イメージした形の氷を作ろうと結果だけを考えると膨張しすぎて割れてしまうが、炎はそこまでシビアじゃないってことなんだろうな。それに、いまやろうと思っている乾燥トリューク作りも同じで、粉末にしたいという前提なら砕けるくらいまで水分だけを取り去ってしまえばいい。


 ボウルの中にあるトリュークの微塵切(みじんぎ)りに俺は視線と意識を向ける。欲しいのは香りと旨味を残して乾燥したニンニク。その一片一片が乾燥して収縮した姿を想像し、手をかざして魔力を流し込んだ。

 10秒、いや15秒だろうか……ボウルの上に暫くかざしていた俺の手をミミルがそっと押し退()ける。そこには形を保ったまま残ったトリュークの微塵切(みじんぎ)りが残っていた。ただ、粒の大きさは縮んでいて、(かさ)も半分以下に減っている。ボウルを振ってみると乾いた軽い音と共に、さらさらとトリュークの微塵切(みじんぎ)りが中でぐるぐると舞っている


〈できたようだな〉

〈ああ、ミミルの助言のおかげだ〉

〈ニホンには既にそのようなものがあるのだろう?〉

〈ああ、いろんなものを添加して作った似たようなものがあるね〉


 指先で摘まんでみるとさらさらと崩れるのだが、少しトリュークの繊維質な部分が残る。そこは他の香辛料などと混ぜ合わせていけば気にならないと思う。


〈で、何を作っているのだ?〉

〈この網の上でヤキニクをするんだが、でもタレがないだろ?〉


 地球時間の一昨日(いっさくじつ)、いや時間的にはそのさらに前の日になるのかな。

 ミミルは俺と焼肉屋に入っているのだから、焼肉のシステムは理解しているはずだ。あの店のタレは醤油に砂糖。日本酒、味醂、昆布だし、生姜の絞り汁。そこに林檎、レモンなどの果汁を入れて自然な甘みと酸味を加えてあったと思う。肉に自信があるのか、ニンニクが入っていないところが好印象だ。


〈仕方がないから、香辛料を合わせた魔法の粉を作ろうと思ってるんだ〉

〈魔法の粉だと?〉

〈いや、魔法はかかってないぞ。魔法のように美味しくなるって意味だ〉

〈ほう……〉


 ボウルの中から漂うトリュークには香りが完全に残っている。そこに、加えるのはクミンに似たキュメン。カレーの元になる香りだ。更にシナモンやナツメグの甘い香り、フェンネルシードの爽やかな香りを加えると、香りそのものに厚みが出てくる。最後に爽やかな樹皮のような香りがする黒胡椒を入れると、重層的に混ざりあった美味そうな香りへと変わった。


 指先にちょこんと摘まみ、自分の舌の上に落とす。


 塩味とパプリカパウダーの旨味、キュメンと胡椒のヒリッとする辛味が舌を刺激する。

 これは羊肉用のスパイスミックスを真似ているんだが、配合は調整の余地ありだ。が、出来はまあまあだろう。キュリクスの肉もいいが、ワイルドなヴィースの肉や独特の香りがあるルーヨの肉にも合うかも知れない。

 これで8割方準備はできたかな。あとは肉を切って焼くだけだ。


 調理の準備を始める前に木炭には火を入れてあるので、タイミング的にも問題ない。炭の表面が白くなって遠赤外線で焼き上げるのに最もいいタイミングだ。


〈準備もできたし、火加減もちょうどいいから焼くぞ〉


 と言って、網の上に時間がかかるリュークやギュルロを並べる。ズッキーニや茄子は焼くと水分ばかり抜けてしまうので、表面に少しオリーブオイルを塗っておいた。油を吸った茄子は美味いから、ミミルが気に入るといいんだけどな。

 続けて、キュリクスの肉をスライスして並べて焼く。野菜と違ってすぐに焼けてしまうので、並べても6枚ほどにする。

 ミミルは並んだ肉の量が気に入らないのか、不機嫌そうな顔をして俺に指示をする。


〈もっと肉を焼け〉

〈駄目だ。たくさん焼くと焼けすぎて美味しくなくなってしまう。焼けすぎない程度に食べられる分だけ焼くのがいいんだよ〉

〈もっと焼いても大丈夫だ〉

〈最後は焦げたカリカリの苦い肉になってもいいのか?〉

〈むぅ……〉


 拗ねたように口を尖らせるミミルだが、野菜も食べれば一度に焼くのは2人だと6枚くらいがちょうどいいんだよ。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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