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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第36章 念話

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第360話

 1時間ほどかけて歩くと、また川岸に到着した。川の中州のようになった場所から北へ川を渡り、ルオルパの領域をぐるりと回ってきたことになる。しばらく坂道を上がってきたので、第3層の入口よりは高いところにいるはずだ。

 岸辺に立って、開けた川側の景色をみる。

 すぐ正面にまた中州があって、そこの中央にエルムの木が生えている。中州は大きな岩がごろごろと縁取るように並んでいて、内側は流されてきた砂や土が堆積したのだろうか……茫々(ぼうぼう)と草が伸びた平らな場所が広がっていて、ゴツゴツとした岩がいくつか顔を出している。なんというか……人工的ではあるが、人工では作れないような場所だ。

 中州に向かっては、同じように大きな石が飛び石のように転がっている。今度は水面までの高さもないし、間隔もさっきみたいに5メートルとかあるわけではない。広いところでもせいぜい2メートルくらいだ。


〈先に行くぞ〉

〈あ、待ってくれ〉


 岸から最も近い場所にある飛び石へと向かうミミルの背中を追う。歩幅は俺の方が大きいから簡単に追いつける。


〈この川にも魚の魔物がいるのか?〉

〈この先に滝があるのはわかるだろう?〉


 1キロほど先だろうか……川が途切れているように見えるので、その先はまた滝になっているのだろう。かなり幅の広い滝だ。


〈ああ、なんか大きな滝だな〉

〈あれを境にして、こちら側では魚の魔物はいない〉

〈へえ……じゃあ、安心かな〉

〈魚の魔物はおらんだけだ〉


 ということは、魚以外の水棲生物はいるということだろうか。地球で言えばオオサンショウウオだとかカエルとか。


〈ここは岸との落差があるから中州には上がってこない。安心しろ〉

〈どんな魔物だ?〉

〈そうだな、うむ……そこにいるぞ〉


 ミミルが指をさす。約10メートル先、足を置くのにちょうどいい大きさの岩があるだけだ。念のために音波探知を掛けてみる。


〈音波探知ではわからないなあ〉


 この周辺にあるのは、ごろごろとした岩ばかりだ。


〈魔力探知をかけてみるといい〉

〈ああ、やってみる〉


 自分を中心に魔力の網を広げていく。特に遠くまで調べる必要もないので、簡単なものでいいだろう。


〈あ……〉

〈いるだろう?〉


 ミミルの言うとおり、周囲には結構な数の魔物がいる。これは……


〈背中が岩になっている魔物でな。体はほとんど水中にある。スティン・パッダという名だ〉

〈なるほど……〉


 陸上に出ているのが岩なら、音波探知だと周囲の岩とおなじようにしか捉えられなかったということなんだろう。逆に魔力探知だと、微量であってもスティン・パッダの身体から洩れている魔素が反応するということなんだろう。


〈擬態して待ち構えていて、その上に足を置くと川の中に引きずり込まれる。奴らの顎は岩もかみ砕くから、どうなるかは察してくれ〉

〈あ、ああ……わかったよ。でも倒し方はあるのか?〉

〈裏返してしまえばいい。背中と違って柔らかいぞ〉


 そこは地球のカメと同じなんだな、と思いながら他の魔物を目で探してみる。


〈まさかとは思うが、あそこの草が生えたところは……〉

〈うむ、あれはプレクス・バッダ。背中に水辺の草が生えている〉

〈あれも顎の力が強くて、引きずりこまれるのかい?〉

〈そうだ。硬い甲羅の表面にだな……しょーへいの家にある風呂場のあれだ、名前がわからん。こう柔らかくてふわふわした〉


 手で何かを持ってクシャクシャとするフリをするミミル。風呂場にあるものだから……


〈ああ、〝スポンジ〟だ〉

〈甲羅の隙間から出た体液が固まると、その〝スポンジ〟に似た物質になるのだ。そこに水草が生える〉

〈変わった生態だなあ〉


 気が付けば中州へとつながる最後の飛び石の上だ。ここから対岸へは少し高低差があり、距離も少し離れている。だが、ダンジョンに最適化された俺の身体能力なら何も問題がない。

 立ち幅跳びのように、最後の1段を飛び越え、中洲側に渡った。


〈ここにエルムの木が生えているということは、ラウンがいる可能性もあるのか〉


 中洲の幅は100メートルほどあるだろう。エルムの木はその中央にポツンと生えている。

 まだ若い木なのか、高さは20メートルくらい。樹冠は辺りが開けていることもあってきれいな円錐形をしていて、高さと枝張りのバランスもとてもいい。見た感じだと枝葉もそんなに密集していないようなのでラウンがいても対処しやすい気がする。


『ミミル、待ってくれ』


 不用意にエルムの木へと近づこうとするミミルに声を掛ける。

 俺の声掛けでミミルも音波探知を掛けることを思いだしたのか、ハッと目を見開き、ただ黙って頷いた。


 すぐに音波探知を掛けるが、半径50メートル内には魔物がいない。

 先ほどと同様、スティン・パッダやプレクス・パッダはそれぞれ岩や草と見分けがつかないから。音波探知には掛からない。まあ、間違って足を載せない限り襲われないのであれば放置しておけばいいだろう。


『どうだった?』

『残念だが、ここにはいないようだ』


 残念そうに肩を落としたミミルの頭の上に手を載せ、軽くポンポンと叩く。


「まあ、明日があるさ。まずは野営の準備を始めるとしますか」

「……ん」


 ミミルが頷き、野営の準備が始まった。


パッダを日本語にすると「亀」です。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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