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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第35章 自分の呼び方
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第350話

〈特に今日は戦う必要もないし、第3層攻略の経路にない場所だ。気にするな〉

〈そ、そうなのか。でも興味はあるんだよなあ……〉


 今回、第3層に入ってきたのはあくまでもラウンを捕まえ、俺が空間収納の技能を身につけることが目的だ。いずれは第3層にやってくることになるのだから、ここで無理にでもフロウデスに近づく意味がない。第3層の攻略経路にフロウデスの領域が入っていなくても、ダンジョンを全攻略したあとに来ればいいのだ。そう自分の中でハッキリと割り切り、ミミルと共に安全地帯を進んでいく。


 エルムの木から30分ほど歩いただろうか。残りは少しずつ登る坂道だ。振り返ると遠くに先ほど下りて来た道とエルムの木が見え、低湿地にはフロウデスたちが集団を作って生活しているのが見える。カバや象もオス1頭に対し、複数の雌と子どもたちで集団生活をしているから、そのあたりの習性まで似ているのかも知れない。不思議なのは草食の象やカバが集団で生活しているのはわかるのだが、フロウデスたちは肉食のはず……ライオンみたいなものなのだろうか。地上に戻ったらカバの生態について調べてみるか。

 ポケットからクシャクシャになったメモ帳を取り出し、そこに「カバの生態」と書いてぐるぐると丸で囲っておく。これで地上に戻ったときも忘れずにいられると思う。


「なに、してる?」

「地上に戻ったら、フロウデスに似た地球の動物のことを調べようと思ってね」

「ミミルも調べる」

「お、おう……」


 俺が調べるのを横で解説してもらいたい……ということなんだろうな。まあ、せっかく調べるのだからミミルに説明すること自体はやぶさかではない。図鑑にも様々な動物が掲載されているはずだから、まずはそれを見てもらってもいいかな。


 周辺の景色を眺めながら歩いていくと、緩やかな坂道から解放された。

 後ろを見ると先ほど経由したエルムの木が遠くに見える。だいたい4キロの等間隔に生えているんだっけか。辺りに生えている草は2メートルほどあるススキに似た植物で、俺の身長では周囲の状況が確認できない。


〈ミミル、次のエルムの木が見当たらないんだが……〉

〈ああ、そうだな……耳を澄ませてみろ〉


 俺が質問したことへの返事になっていない気がするが、耳を澄ますことでエルムの木を発見する……いや、エルムの木がない理由がわかるってことだろう。

 ミミルに言われた通り、俺は耳に、聴覚に意識を集中する。

 風に揺れるススキ(もど)きが葉擦れする音の向こう。そんなに遠くないところから聞こえるのは川のせせらぎだろうか。


〈川の向こうにエルムの木がある〉

〈そういえば、橋を使って川を渡ると言っていたっけか〉

〈うむ。ナイフで草を刈りながらこちらの方向へ進む〉


 ミミルが指さす方向もススキに似た草が茫々と生えている。これはミミル特製のよく切れるナイフで切って進むにも苦労しそうだ。


〈――ヴロォ〉


 俺は腰のナイフの柄を握ったのだが、先にミミルが魔力の刃を投げる魔法を使った。

 あっと言う間にススキ(もど)きを切り払い、10メートルほど先まで続く道ができると、ミミルがドヤ顔でこちらを見る。


「なるほどな……」


 と、俺は漏らした。

 俺はナイフの先から魔力の刃を飛ばすことができる。おそらく20メートルは刈り取ることができるだろう。だが、そのためには身体強化の延長として魔力をナイフに纏わせる必要がある。だったら、半分の距離でも魔力の刃を投げる方が早い。それに、どんなに切れるナイフでも、切り続けていれば切れ味は低下していく。だが魔力の刃は使い捨てだ。切れ味が落ちる心配はない。

 ミミルの視線には、「どうだ、すごいだろう」と自分の力を見せびらかすのではなく、「どうだ、魔法の方が楽だろう」という言葉が込められているのだろう。

 少し進んで、今度は俺がエアブレードを投げる番だ。。自分たちが通りやすいよう、円形をした魔力の刃も大きめにイメージし、フリスビーの要領で前に投げ飛ばす。イメージする軌道もフリスビーを意識しているせいだろう。腰の高さで飛び出した魔力の刃は、数メートルほどで地面すれすれを滑空するように飛んでススキ(もど)きを根元近くで切り飛ばしていく。元々、俺の投げる魔力の刃は片側に少し傾斜させているからできる技だと思う。

 エアブレードで道を開きながら前に進むこと3分ほど。突然開けた場所へと魔力の刃が抜けた。人がひとり通れるほどの幅の道の先に川が流れているのが見え、その先に対岸の草むらが見える。岸辺まで歩いて確認すると、川幅は30メートルほど。恐ろしく透明度の高い水は第3層の太陽の光から一部だけを反射して(あお)く見える。微細な生物が生きられない環境のせいか、底に沈む石には苔などの植物が付着することも、それらを食べる川エビのような生物もいない。ただ、川の流れに流されることもなく、大きな魚がゆったりと泳いでいる。その優雅な姿を見て不思議に思った俺はミミルにたずねる、


〈あれ? ここって、安全地帯だよな?〉


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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