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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第35章 自分の呼び方
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第349話

 自分のことを指す単語――人称代名詞の主格にあたるものがエルムヘイム共通言語だと〝私〟だ。これが英語なら一人称の主格は〝I〟だし、イタリア語なら〝io〟、スペイン語なら〝yo〟だ。日本のように、わたし、わし、われ、わい、あて、おら、おれ、ぼく、おい、うち、こち、わらわ、わて……様々な呼び方があるという言語の方が少ないのではないだろうか。

 俺とミミルがエルムヘイム共通言語で話すとき、ミミルが〝私〟と言っていること、俺が〝俺〟と言っているのはあくまでも俺の頭の中での翻訳結果に過ぎない。だから、ミミルがエルムヘイム共通言語で自分自身を「わたし」というニュアンスで呼んでいるのか、それとは違う呼びかたのニュアンスなのかは実際のところはわからないわけだ。

 まあ、いつまでも自分のことをミミルと呼んでいるのはどうかと思うが、見た目はかわらしい少女だ。俺から言い出しておいて何だが、いまのままの方が少しあざといくらいでいいのかも知れない。それに、ミミルの実年齢のことやエルムヘイムでの立場のことを考えると、俺が思うような呼び方をしない可能性がある。そうなると地球では俺が父親ということになっているんだから、いったいどういう教育をしているのかと変な目で見られることになるだろう。


「それはそれで困るなあ……」


 思わず声を漏らした俺に、ミミルは不思議そうに見上げて首を捻ってみせる。そう、ミミルには何も自分を名前呼びするというあざとい行動など不要なほど、いろんな仕草がかわいらしい。



〈何をニヤニヤと笑っている〉


 ミミルに言われて気がついた。ニヤニヤとしているというより、自嘲しているというのが正しいのだろうが、少し口角が上がってしまったのは確かだと思う。ミミルに指摘される前はもっと笑ったような顔をしていたのかも知れない。


〈え、笑ってたか?〉


 誤魔化すために頬を両手でマッサージするように解してみる。本当に自分では笑っているというつもりはなく、ただ自嘲するような、苦い笑いを浮かべていただけだと思う。


〈まあいい。こちらに進み川を渡る。安心しろ、橋はある〉


 今度はミミルが意地の悪いニヤリとした笑みをみせる。

 そういえば第2層の川はミミルに抱えられ、空を飛んで渡ったのだった。自分よりも小さなミミルに抱えられて空を飛んだわけだが、腕の太さなんて俺と比べるとミミルの腕は半分程度の太さしかない。対岸までもつかどうか心配になるのも当然だろう。そのときのミミルから見ると、川を渡ったあとの俺は結構青くなっていたのかも知れないな。

 まあ、今回はそういう心配もないということだし、問題ないだろう。

 平らな低湿地帯に沿う形で続く安全地帯を歩く。そう遠くない場所にフロウデスがいる場所までやってきた。ならばと、見た目までカバに似ているかどうか目を凝らして見てみる。丸くてずんぐりとした身体に、短くて太い四肢はカバにとてもよく似ている。だが、カバの顔と言えば下膨れをイメージするが、フロウデスは面長なところは似ているものの、平べったい。おっと、一頭があくびをしている……地球のカバのように大きな口をこれでもかと広げて欠伸をしているが、並んでいる歯はワニに近いな。これは地球のカバが草食であるのに対し、フロウデスは肉食という違いを意味しているのだろうか。ダンジョン内の魔物は魔素を糧として生息しているので食事をしないようなことをミミルが言っていた気がする。ということは、肉食かどうかなど確かめようがない。


〈ここから見ると大きさがわからんだろう〉

〈そうだな。〝カバ〟という動物に似ているかと思ったんだが……〉

〈フロウデスは肩までの高さはたいしたことがないが、幅や全長を考えると……ニホンで見かけるジドウシャくらいの大きさはある〉

〈そりゃでかいな……〉


 自動車といってもピンからキリまである。俺の愛車は小さい――コンパクトであることがウリの車だが、それでも重さは1トン近くあるし、全長約3500ミリ、全幅約1600ミリというサイズだ。実際に乗ったことがある車という意味でもミミルは俺の愛車をイメージしていると思う。車としては小さいが、動物だと思うととても大きい。

 第2層で戦ったブルンヘスタやキュリクス等の魔物も似たような感じだろうが、ずんぐりとした体型に短くて太い四肢を考えると、体積的にはフロウデスの方が大きい気がする。


〈ナーマンと近い感じか?〉

〈そうだな。ただ、ナーマンよりも皮が厚く、脂肪も多いので魔法ならしっかりと魔力を込めねばならん〉

〈ナイフで貫ける硬さなのか?〉

〈誰が作ったナイフだと思っている?〉

〈あ、うん。ミミルさんだね〉


 フンスと鼻息荒く迫ってきたので思わず敬称をつけて返事をしてしまった。

 確かにミミルがくれたナイフは恐ろしいほど切れる。切れるのはよくわかっているのだが、確か、カバって表皮は薄いけれど、中の真皮や上皮は象よりも分厚いんだよな……。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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