第345話
――これらは地球の野菜を真似たものでは無いか?
もちろん、地球の野菜は回転して葉を飛ばしてきたり、自ら這い上がった穴の縁に腰かけてこちらを眺めたりするようなこともない。
ヴェータという米と小麦の中間のような作物もあるが、ヴェータは自生している植物であって、魔物ではない。
だが、唐茄子に似ているが色が違うロバシン。葉の形状が違うほうれん草やセロリ、ニンジンを見ていると、「誰かが地球と同じにならないように色や形を変え、魔物として侵入者に対して敵対行動をとるように作られた存在なのではないか」と心のどこかで思い始めていた。
だが、タマネギ擬きのリューク、ニンニク擬きのトリュークを見て、地球の野菜とは別物だと確信した。
地球がある宇宙とは別の宇宙も含め、これらの魔物や野菜がどこかの世界に実在するとしたら、逆に地球の野菜もダンジョン内のどこかに存在するのだろう。
ミミルが見せてくれた植物ではそれがまだ確認できていないが、こうしてダンジョン内を探検していれば見つけることだろう。
などと考えながらミミルと一緒にトリュークの実を収穫する。
100匹近くいたが、それだけ時間もかかってしまう。残念ながら、半分くらいは魔石を残して魔素に還ってしまった。
「これだけあれば暫くはトリューク狩りしなくてもいいんじゃないかな?」
「……ん、豊作」
それでも50個近いニンニク擬きが手に入ったわけだ。
ニンニクをホイル焼きにすると美味いが、このトリュークでも美味しくなるのか気になる。夕食に試してみるのも良さそうだ。
だが、リュークの方は13個ほどしか収穫できていない。煮物で味が抜けるという問題は残っているが、南欧料理にタマネギは非常に重要だ。50個というトリュークの量を考えると、あと30個は欲しい。
「ミミル、空間収納のリュークはどのくらい残ってる?」
「五つくらい、たぶん」
「もう少し集めたいんだが、つきあってくれるか?」
「……ん」
微笑みを湛え、ミミルが短い返事をして歩き出す。
まあ、先ほど練習した氷の刃……そういえば名付けてなかったな。魔力の刃がエアブレードだし、氷の刃はアイスブレードでいいか。エアエッジの氷版はアイスエッジだな。
せっかくアイスブレードを覚えたことだし、実戦で使っておきたい。
トリュークの密生地から2分少々。距離にして150メートルほど歩いて俺は魔力検知に魔物の反応を見つけた。
トリュークの時と比べると少し大きな反応。恐らくリュークの方だと思うのだが、1か所だけ気になる反応がある。
「うーん、リュークらしき反応が8体。もしかすると、反応のひとつはトリュークの集合体かも知れない」
「……ん、正解。リューク、8匹。トリュークは5匹くらい」
「どうすればいい?」
「トリューク、葉切る。手足、あと、切る」
俺もミミルのように範囲攻撃ができるようになれば楽なんだろうが、さっきのように大量に湧いているわけではない。各個撃破しろということなんだろう。
汁を飛ばしてくるから、まずは葉を切落せ。手足を切るのは……ああ、根っこの役割を持っているからかな。そういえば、ミミルが倒した時も手足を切り落としていたな。
だとしたら……。
「エアブレードでいいのか?」
「リュークは氷、トリュークは魔力」
「わかった、ありがとう」
「……ん」
また軽く耳を赤らめて俯くミミル。
本人は無意識なんだろうが、あざとさを感じるかわいらしさだ。
俺のことを変なヤツ扱いしてくるのだから、自分も意識せずそんな行動をしていることくらい気づいて欲しいのだが……言わぬが仏だろうな。
焦らず、急がず、それまでと同じ歩調で魔力探知に引っかかったリュークとトリュークの群生地に向かって歩く。
途中、また魔力探知をしたところ、更に奥に50メートルほど行った場所にリュークが群生している場所がある。
本来の目的は第3層でラウンを探し、空間収納を身につけること。
かなり運に左右されることではあるが、安全地帯だけを30キロほど歩いていれば7本程度は楡の木擬きを巡ることができる。あまり寄り道に時間を使うのはもったいない。
考えているうちに、残りの距離は30メートルほどになっていた。
リュークたちが俺とミミルに気づいたようで、地面から這い出してこちらを威嚇し始めた。
知らない間に俺たちはダンジョンの入口側からズレたコースを歩いていたからだろう。こちらが風下というわけでもない場所に移動してしまったようだ。
「――エアブレード」
射程圏内まで進み、先ずは密集して生えているトリュークから収穫前の準備へと取り掛かる。
例えばサツマイモなら収穫前に蔓を切っておくらしい。それと同じだな。
魔力でできた不可視の刃がトリュークへと向かって飛び、その頭に生えた緑の葉を根元から切り飛ばす。
攻撃手段を無くしたトリュークたちが切り飛ばされた葉の付け根を両手で塞ぎ、慌てるように走り回る。
それを横目に、俺はリュークの収穫準備へと取り掛かる。
「――アイスブレード」
リュークめがけて投げた氷の刃は見事にリュークを切り飛ばしてしまった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。