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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第34章 リューク・トリューク
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第340話

 ミミルが投げていた氷の刃を真似て作り、それを投げてみる。

 どうしても、1つの刃を作るのに2秒ほど掛かってしまう。水を作って内側から凍らせるという工程で考えるのが原因のようだ。


〈見た通り、リュークやトリュークは動きが緩慢だ。奴らが相手なら問題ないだろう〉


 ミミルが俺の投げる氷の刃を見て意見する。

 実際、前に立って戦うのは俺なんだから、雑に練習させて出荷するのはやめて欲しい。


〈これを投げて、首を刎ね飛ばさないようにしないといけないんだろう?〉

〈そのとおりだ〉

〈それって、力加減、かなり難しくないか?〉

〈そ、それはしょーへいの料理人としての経験でなんとかなるだろう〉

〈いや、ならんから〉


 料理で飾り切りをするときなどは、包丁の先だけを少し浮かせ、刃全体がまな板に当たらないように切る。だから、力加減はあまり関係ない。

 逆に何かを切る場合、それが牛蒡(ごぼう)のように繊維質で硬いのか、豆腐のように柔らかいのかで力加減は変わってくる。

 また、食材の性質によって切りやすさは変わるだろう。ダイコンやニンジンを皮一枚残して切るのは難しい。ある程度硬さがあるのに繊維が硬くないから割れてしまう。


〈そうなのか?〉

〈まだ切ったこともない相手だから、硬いかどうかもわからないじゃないか〉

〈いま切ってみればいいではないか〉

〈……あ、そうか〉


 ミミルが首を刎ね飛ばしたリュークの身体がまだ数体だけ魔素に戻らずに残っている。あと1分もすれば霧散してしまうだろう。


 慌てて手に氷の刃を作り出し、地面に横たわるリュークの胴体を切ってみる。

 手に伝わる感触は、タマネギを切るというよりも灰汁抜きする前のタケノコを切るような感じだろうか。繊維質だが、牛蒡のように固くはない。

 切断面が凍り付き、氷の刃が動かなくなった。


「これくらいかな」


 また新たに氷の刃を作り出し、感覚的にどの程度の強さなら切断しきらずに済むかを考えて素振りする。

 投げることによって、減衰する力はどのくらいなのか、手で支えていないので減衰する力はどのくらいなのか……別の個体を使い、今度は投げて試してみる。

 どうやら手で握って振り下ろすときの2倍近く力を込めて丁度いいようだ。

 これで10体とか15体とかを相手にすると、結構疲れる気がするが――自分の身体がダンジョンに最適化され、強化されていることを考えると問題ないと気づく。

 そういう意味では、まだ自分の身体の変化に対し、脳みそがついてきていないということだろう。


「気、済んだ?」

「ああ、力加減はだいたいわかった気がする。ありがとう」

「……ん」


 少し照れ臭そうに外方(そっぽ)を向くミミル。

 照れるようなことでもないと思うのだが、不思議なやつだ。

 ついでにミミル先生に教わっておきたいことがある。


「ところで、魔力探知を教えてくれないか?」

「……なに、目的? しょーへい、音波、使える、どうして?〉

「音波探知だと、リュークのような魔物はそこらの草と同じ扱いになるんだ。わからないんだよ」


 音波探知を普段から使っていると、それで探知できない魔物がいるだけで不安になってくる。

 今後、リュークやトリュークだけではなく、土に隠れる植物系の魔物もいることだろう。その時のためにも、覚えておく方が良いに違いない。


「……ふむう。でも、空、魔物わかる、すごいこと。ミミルできない」

「いや、今回は地中に潜った魔物だから使えない。それに、存在するかどうかは知らないが……実体がない魔物がいた場合も音波だとわからないからな。一長一短ってやつだ」

「いっちょういったん?」

「人やモノの良いところを長所、悪いところを短所と呼ぶんだ。人間やエルム、モノにだってひとつ良いところがあれば、ひとつは悪いところが見つかるだろう?」


 俺の説明を聞いて、ミミルは思い当たるところを探しているのだろうか。少し首を傾げて宙に視線を漂わせている。


「例えば、ミミルは田中君のことがどこか気に入らないようけどさ。俺から見ると田中君はとても面倒見がいい女性に見える」

「…………」

「ひとつ長所があれば、ひとつ短所がある――それを漢字にして4文字にすると一長一短と表現するんだ。同じように漢字4文字で何かを意味する言葉にしたものを四字熟語と言う」


 弱肉強食、四面楚歌など他の例を出して説明してもいいが、漢字を覚えてからの方が良いかな。


「モモチチ、(ちち)大きい、目立つ。(ちち)大きいは邪魔?」

「――ん? ああ、異性にアピールするなら有効な武器なんだろうが……本人は肩が凝って大変だろうな。大きい人は足元が見えないから階段を下りるのが怖いらしいぞって……なんで田中君の話になると胸のことになるんだ?」

「……目立つ、目に入る」

「それは、ミミルが意識しているからで……」


 自分に無いものを持つ人に対して羨しく思い、嫉妬する。

 ここで嫉妬するのをやめろと言ったところで、簡単にそれをやめることなどできない。

 唯一、それを止める方法は「自分と比べないこと」なのだが……。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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