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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第34章 リューク・トリューク
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第335話

 ダンジョン産のタマネギ(もど)きのリューク、セロリ(もど)きのセレーリは粗微塵切(あらみじんぎ)り、ニンジン(もど)きのギュルロは賽の目に切って鍋に投入する。


 肉が無いとミミルの機嫌が悪くなりそうなので、ヴィースの頬肉を拍子木に切った。第2層にいた猪のような魔物で、頬肉の塊は2つドロップしていたものだ。

 鍋を焚火に移動し、そこで具材を炒めていく。


 本当ならグアンチャーレやパンチェッタのようなものがあればいいのだが、ダンジョン内で取れた肉で作るのは難しい。空間収納の中は時間が経過しないから塩が染み込むこともないし、肉が熟成することもないからだ。まあ、ずっと新鮮なまま保管できるのだから、文句は言えない。

 逆に店に戻ったときに作ればいいじゃないか……という話になると思うが、ダンジョン産の肉は長く寝かせると魔素に戻ってしまう。


 ただ、塩を揉み込んで空間収納に仕舞っておいたものを、地上で冷蔵庫に入れておくというのは有効だろう。無菌状態で冷蔵庫へと仕舞うことができる。魔素に戻る前に食べればいいことだ。


「となると、冷蔵庫も買わないといけないかなあ……」


 これまでは厨房の冷蔵庫に仕舞うつもりだったが、そうもいかないようだ。


 よくよく考えると、警備システムが稼働を開始したら厨房の冷蔵庫に飲み物を取りに行くだけで解除しないといけない。考えただけで面倒な話だ。これは買っておくが吉ってやつだろう。


 地球の1時間が、ダンジョン第3層では7時間半になる。逆にダンジョン第3層で1日経過すれば、地上では3時間と少し経過することになる。今日は1泊程度が限界だが、地上に戻ったときに冷蔵庫を買うことを覚えているかな。


 鍋からふわりといい香りが漂ってくる。

 トリュークや野菜を炒めたところに、ヴィースの頬肉から出た脂が混ざり少しずつ焦げ始めることで生まれるメイラード反応だ。

 見た目にも全体に油がまわり、リュークも透き通っている。

 魔法で水を作って鍋の中に落として塩で味付けだ。簡易コンロに一旦移動して沸騰させる。


 途中、灰汁が浮かんでくるかと思ったが、まったく浮いてこない。

 元は魔素からできているので、自然の作物のように土から養分を吸収する必要がない。だから、成長する過程で生まれるシュウ酸などが発生しないのだろう。


 熱の入り方が違うせいで、後で投入する野菜もある。

 トマト擬きのロバシン。見た目が唐茄子と呼ばれた江戸時代のトマトのような黄色い実だ。

 次に、ナッチ。葉の形が大根だが根っこが黄色くなっている。生で少し(かじ)ってみたが、味はサラダほうれん草だ。


 最後は、ギレナベアナ。ベアナは豆を意味する言葉だ。赤い(さや)に入った状態で、開いてみても種子部分には胚がない。形状的には鞘隠元(さやいんげん)だな。


 そしてダンジョンには存在しない……のかも知れない食材、日本から持ち込んだジャガイモを1個。皮をしっかりと剥いて、賽の目に切る。

 それを残った野菜と一緒に鍋に入れ、蓋をしたらまた焚火の方へ移動だ。

 これで20分ほど煮れば、すべての野菜が煮え、旨味がたっぷりのスープが出来上がる。

 これは野菜たっぷり、具沢山のスープだからミネストローネでいいだろう。


「……草、いっぱい」

「そうだな。でも、それが美味いはずだ」


 野菜が中心なことにミミルが不満を示すが、気にしない。

 香味野菜と呼ばれるタマネギ、ニンジン、セロリ。そこにニンニクと肉が加わるだけても美味いスープができる。そこにトマト、ほうれん草、キャベツ等が入って旨味や甘味が増しているはずだ。

 ただ、野菜は見た目や特徴が地球のものに似ているから使っているが、まったく違う味になるかもしれない。

 でもまあ、これはあくまでもダンジョン素材を生かした調理を作る試み――チャレンジだ。


 さて、スープの方はこれでいい。

 続いて乾燥スパゲティを使った料理に入る。


 沸騰したスパゲティ用の鍋に塩を入れて溶かし、裏田君が買ってきたスパゲティを入れる。ミミルと俺の分で2人分……店なら1人前の量を計量して作るのだが、よく食べるミミルのために少し多めしておく。


 フライパンに無塩バターを入れ、ミネストローネの鍋を移動したことで空いた簡易コンロて火にかける。

 油が馴染んできたら鶏卵をポンポンと4つ割り入れ、焦げ付かないように白身をしっかりと固め、黄身を半熟に仕上げた目玉焼きを作る。

 目玉焼きが焼きあがったら2個分を取り出し、スパゲティの茹で汁をレードルで掬ってフライパンに入れ、ヘラで残りの目玉焼きを潰していく。火が入った黄身をを茹で汁とバターのソースに溶かす感じだ。

 スパゲティが茹で上がる直前にフライパンを揺すって乳化させておくの忘れてはいけない。そして、茹で上がったスパゲティをフライパンへ投入。削ったペコリーノ・ロマーノを掛けて和えるように混ぜ合わたら後は盛り付けだ。

 トングで麺を摘まみ、捻るように盛り付ける。そこに避けておいた目玉焼きを載せ、更に削ったペコリーノ・ロマーノ、粗挽きの黒コショウを散らし――スパゲティ・アッラ・ポヴェレッラの出来上がりだ。


ミネストローネは日本でも馴染み深いスープですね。

イタリアでは野菜の入ったスープのことをミネストラ、中でも具が多いものをミネストローネと呼びます。そもそも「ごった煮」という意味なので、必ずこれが入っていないといけない……なんてことはありません。


ポヴェレッラとは「貧乏人」という意味。


挿絵(By みてみん)


日本ではポヴェレロと呼ばれますが、正式な名前は〝Spaghetti alla Poverellla〟なのでここではポヴェレッラと書いています。

第二次大戦の敗戦国イタリア、ナポリの貧困と混沌の中で生まれた卵、スパゲティ、油、チーズを使って作る料理です。 オイルに関してはオリーブオイル、バター、ラードなど様々な流儀があります。

なお、地方によってはポヴェレッラという名を冠して違うパスタ料理を指す場合があります。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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