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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第34章 リューク・トリューク
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第334話

 その後、10頭の群れ、15頭の群れと順に遭遇したが、危なげなく対処できた。あくまでもウリュングルブというオオカミは、連携して狩りを行うという習性だけを複写されているのか、他の群れも似たような動きばかりだ。突飛な動きをみせる個体がいるなんてことがなく、左右から2頭、正面から数頭が時間差で襲い掛かってくる。

 これが、普段から数頭を巡回させて、侵入者を見つけたら気づかれないように背後に回り込む……なんて動きをしたら間違いなくお手上げだろう。

 音波探知や魔力探知があるとはいえ、自分の背後にいる魔物の動きを常時把握しているわけではない。

 空港の管制塔にあるレーダーシステムなんかもアンテナが回転して情報を収集している。例えば3秒かけて1周するアンテナの場合だと、その3秒の間に捉えられた情報がディスプレイに表示されている。


 ただ、今後はもっと複雑な連携をみせる魔物が出てくるのかもしれない。何か、対策を考えておく方が良いだろう。


 3つのウリュングルブの群れと戦った時間も入れて、体感で3時間程度が経過した。

 ウリュングルブの領域を横切るような形で移動したので、意外と短時間で安全地帯に入ったようだ。100メートルほど離れたところに(にれ)の木が生えている。真っすぐ(にれ)の木に向かって歩いていると別のウリュングルブの群れがあったので、少し迂回したせいだ。


 ミミルはエルムの木と言うが、あれはやはり(にれ)の木なんだろうな。

 俺たち地球人としては葉の形状とか少し違って見えるが、実際にはいろんな種類があるだろう。それに、エルムにとってはとても大切な木だ。種類についてはまた調べればいい。


 先ずは、(にれ)の木に向かって音波探知を掛ける。

 安全地帯なので、方向性を持たせた超音波だ。全方位にかけるのと比べ、脳への負担が少なくて済む。

 音波探知は反射して戻ってくる音を捉え、そこから音像を作る。

 フルオーケストラの演奏を瞑目(めいもく)して聞いていても、どこにティンパニーがいて、どこにクラリネットがいるか分かる。波操作の加護でそれをより精度高くクッキリ捉えられるのが音波探知だ。

 正面にある(にれ)の木の幹、枝がくっきりと頭の中で浮かび上がる。そこに何かがいれば、歪な形となって存在がわかるはずなのだが……。


「ラウンはいないようだな」

「……ん、いない」

「残念だ」

「……ん、ざんねん。仕様がない」


 同じように(にれ)の木を眺めていたミミルだが、眉尻を下げて俺の方へと顔を向けた。

 同時にミミルの腹の虫が鳴き声を上げる。


「……む」

「ははっ、腹が減ったか。こちらに来てから6時間くらいは経っているし、ひと休みするか」

「……ん、食べるはちから」

「ああ、そうだな。それは日本語だと『腹が減っては戦ができぬ』と言うんだ」


 ドン・キホーテの中で、〝porque tripas llevan corazón, que no corazón tripas.〟と言うサンチョのセリフがある。何故なら内臓が心臓を動かすのであって、心臓が内臓を動かしてはいない……直訳するとそういう意味だ。

 実は心臓が血液を送ることで内臓を動かしているのだが……そこは突っ込んではいけない。何せ数百年前に書かれたお話だからな。

 ミミルが言う、「食べるはちから」というのも、エルムヘイムに似たような表現があるということなのだろう。


「じゃあ、いつものように木の下で昼めしにしようか」

「……ん、なにつくる?」

「そうだなあ……」


 ミミルが野菜を好まないので、ちゃんと食べられるようにスープをひとつ。これは試す意味でもダンジョン素材を使うことにしようと思う。

 次は、パスタだ。

 裏田君が買ってきた乾燥パスタは、ランチも生パスタを使うことにしたので不要になった。賄いなどで食べるには乾燥パスタでもいいのだが、乾燥パスタは塩を入れて茹でなければいけない。生パスタと茹でる鍋を別にしないといけないなら、賄いで乾燥パスタを使いたくないというのが本音だ。

 だから、ダンジョンに入る前に田中君が焼いたパンと共に、ミミルの空間収納で持ち込んでもらっている。今回はそれで食事を作ることにしよう。


 (にれ)の木の下に到着すると、何も言わずにミミルが簡易テーブルや椅子などのセットを出してくれる。

 俺はそれをテキパキと組み立て、簡易コンロをセット。今回は最初にコンロで煮たスープを弱火で煮るため、焚火も用意しておく。パスタを茹でるためと、ソースを作るためにコンロは2つないと(つら)いからな。


 今回は昼食だけなのでテントまでは用意しない。

 先ず、トリューク――ダンジョン産のニンニクを刻み、オリーブオイルと共に鍋に投入して火にかける。

 鍋を火にかける前に具材を入れる……イタリア料理の基本だ。

 合わせてパスタ用の鍋を用意して、簡易コンロに掛けておく。

 火加減は最弱にしてじっくりと火を入れる。コンロだと火力が強すぎるので、焚火の火が丁度いい。

 その間に他の具材を切る。具材はリューク、セレーリ、ギュルロ、コウル、ロバシンだ。日本の名前で言うとタマネギ、セロリ、ニンジン、キャベツ、トマト。

 残念なことにミミルの空間収納にはダンジョン産の芋がなかったので、ジャガイモやサツマイモに相当する食べ物の有無がわからないな。


作中でブロッコリーのことをコウルと呼んでいます。

キャベツのようなものがあって、伸びた茎の先に紫色の大きな蕾があります。丸くなった葉の部分はキャベツ擬き、側芽は芽キャベツ擬き、蕾部分はブロッコリー擬きになるけれど、たまに進化したカリフラワー擬きやロマネスコ擬きが採れるというものです。第175話に登場しています。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。




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