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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第34章 リューク・トリューク
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第331話

 オオカミ――日本だと明治時代までニホンオオカミという種類のオオカミがいたという。もちろん俺も見たことがない。

 だが、スペインにはイベリアオオカミ、イタリアにはイタリアオオカミが現存する。共に成体の体高は70センチほど、体長は140センチ程度になる。


 ――彼らは基本的に人を襲わない。だが、不運にも出会ってしまい、彼らが敵意を剥き出しにしてきたら上着やシャツを頭の上に広げて大きくみせながら、大きな声で叫ぶ。そして、転ばないようにゆっくりと後ずさりして距離を取っていくんだ。


 猟に連れて行ってもらった時に教わった言葉を思い出す。

 石を投げつけろとも言われたが、両手を上げてるのにどうするんだと問い返すと、「可能ならだ……」と言われたな。あと、絶対に転ぶなと……転んだら襲われるらしい。


 だが、ここはダンジョン。接敵したら必ず戦いになる。


 ミミルなら雷撃で一気に数を減らし、各個撃破という作戦をとるだろう。だが、俺にはそんな芸当はできないから、そっと近づいて各個撃破していくしかない。

 ダンジョン内は常に入口に向けて風が吹くので、こちらが風下になるのはありがたい。とにかくウリュングルブに見つからないよう、中腰になって草に隠れて進んで行く。密集した草のせいでどうしても葉音が立ってしまうが、その度に俺は冷たい汗が背中を流れるのを感じる。

 風下というのもあるが、周囲を流れる風が草を揺らしてくれるので多少はカモフラージュになっているのかもしれない。


 視界に入るウリュングルブの数は3頭ほど。

 背中が緑色をしていて、保護色のようになっている。

 立ち上がっていればそこにいることははっきりをわかる大きさだから問題ないが、他に地面に伏せている仲間がいる可能性が高い。


 せめて50メートルまで接近できれば音波探知が使える。いや、理論的に言えば、音波探知も出力を上げれば50メートル以上の範囲で探知することができる。これまで俺自身が音波探知の範囲を半径50メートルまでの範囲に制限してきただけだ。その理由はいくつかある。

 まず1つは、1秒以内に俺が頭の中で処理できること。音の速度は約秒速340メートルだが、音波探知は発した超音波が対象に当たって返ってきた音を聞こえる音に変換し、音像を作り上げる。この変換と音像を作る作業を含め、俺が1秒以内にできる範囲というのが半径50メートル程度なのだ。

 2つ目の理由は情報量。音波探知は全方位に音が広がるため、上空にあるモノまで情報を得ることができる。平面的な魔力探知であれば半径50メートルの円内――約7,850平方メートルにあるものの情報を処理するだけで済む。しかし、音波探知だと半径50メートルの半球体の中にあるものの情報が対象になる。容積でいえば、約262,000立方メートルだ。正直、俺の脳みそがついていかない。

 3つ目の理由は、時間差。遠くに離れたところまで探知しようとすると、最初に音を出してから戻ってくるまで待たないといけない。理論的にはレーダーと同じなので数キロや数十キロ先まで調べることができると思うが、例えば20秒かけて約7キロ先の情報を集めても、それは既に10秒前の情報だったりするわけだ。


 最後に、出力を上げると俺自身が疲れるだろうというのもあったのだが……ダンジョンに最適化されて自分でも驚くほど身体能力が向上しているし、探知する範囲を絞れば負荷も減るだろう。100メートル程度先に見えるウリュングルブの周囲だけを意識して音像化するように音波探知を使ってみることにしよう。


 人間や魔物にも聞こえない、超高周波の音を前方のウリュンブルグに向けて放つ。そして、1秒間に戻ってきた音を中心に据え、そこにいるだろう魔物の姿だけを音像として組み上げていく。

 地面を覆いつくす草は音を乱反射させたり吸収したりしているが、ほとんど気にならない。俺はそうして返ってきた音から音像を組み立てる。結果的に3秒ほど時間がかかった。


「12頭、だな」

「……ん。はんぶん、手伝う」


 囁くようにミミルが返事をする。

 半分ということは6頭か。


『最初だから手伝うが、次からは様子を見て考える』


 ミミルから念話で指示が飛んでくる。声が聞こえないようにするためだ。即時に意図を理解して首肯で返す。

 飽くまでも手伝うというスタンスなのは、俺自身に実力と自信がつかないからだろう。ミミルほどの実力者なら数秒ですべてを全滅させることができると思うが、それをしないということはそういうことに違いない。


『数が少し多い。最初に私やしょーへいに聞こえない音を出して攪乱しろ。群れのリーダーの遠吠えを潰せ』


 初手はリーダーの指示が聞こえないようにして、初動を遅らせようということか。


 この間も音を殺してそっと歩き、群れの中心まで約50メートルというところまで近づいたのだが、流石に最も近いところにいる1頭が気づいたようだ。俺たちに向かって身構え、威嚇するような声をあげた。



この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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