表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第33章 ダンジョン第三層へ
379/594

第329話

「……ざんねん」


 ミミルが小さな肩を落とし、とても口惜しそうに呟いた。


 第2層で7時間半――地上時間で言うと45分。地上に戻って40分ほど過ごしてからダンジョン第3層へと移動した。


 到着すると、一際大きく輝く――この世界の月にあたる衛星と星明りだけが辺りを照らす夜だった。

 その月明かりが数百メートル先で海へと落ちる川から生じた水飛沫を照らし、夜の虹――月虹(げっこう)が出ているのが見える。


「でも、綺麗だな……」


 呟いた俺の方へと視線を向けるミミル。俺が何を見て漏らしたのかを知ろうとしたのだろうが、人間というのは動いたモノの方へと視線を向ける習性があるわけで……。


「――なっ!」


 予想外に目が合ってしまった。


 ミミルは慌てて顔を逸らし、俺に背を向ける。

 月光に照らされる白い肌が風に靡く銀色の髪と共に輝くようだし、紅色の瞳もどこか妖艶な魅力に満ちている。


「ああ、ミミルも綺麗だ」


 俺が見ていたのはミミルではない。だから取って付けたように言った言葉だが、容姿を褒められることになれていないだろうミミルは更に照れる。

 女性は褒めれば褒めるほど綺麗になるし、褒められて喜んでいる顔を見るのが俺は好きだ。残念なことに職場でそれをすると間違いなくセクハラだと言われるので気をつけているが……。


「でも、見ていたのは夜の虹だよ。ほら」


 滝の向こう側の夜空に掛かる鮮やかな虹を俺が指さしてみせると、一瞬頬を膨らませたミミルが俺の指先を追うようにして視線を移動する。


「……ん、きれい」

「地球だと満月の夜だけ、見ることができるんだ。でもここは……」


 振り返ると、この世界の月にあたる衛星……なんて呼べばいいのかわからないな。

 とにかく、少し欠けている感じだ。どちらから満ち欠けするのか忘れたが、15日目が満月なら13日目か17日目といったところ。


「なあ、あれは何と呼べばいいんだろうな」

「……月でいい、思う。2層の月、3層の月」

「例えば2つあるとか、3つあるとか……階層によって違うんじゃないのか?」

「……1の月、2の月で分ける」

「なるほど」


 やはり複数の衛星がある環境もあるんだな。でも、その場合はどちらが1の月で、どちらが2の月なんだろうな。

 まあ、それは置いておくとして。


「それで、月虹は条件がいろいろあって、日本では見られるところは珍しいんだ。満月の夜だけしか見られないしね」


 確かハワイのマウイ島では比較的よく観測されるらしいが、南米イグアスの滝や、アフリカのヴィクトリアの滝でも見ることができる。それも晴れていることや、満月であることなどが前提だ。

 地球では光量の関係で満月でなければ見られないのなら、第3層の月は地球の満月よりも明るいということだ。地球と比べて空気が澄んでいるのも要因かも知れない。


「虹のかたち、同じ。色、少し違う」

「ああ、確かに少し違うな」


 光源が月の光だということ、飛散する滝の水飛沫に当たっているからということ、空気が非常に澄んでいること……原因はいろいろとあると思うが、地上で見る虹とは違ってとても色が濃い。


 海外で暮らすとわかることだが、国によって虹の色の表現が異なる場合がある。

 日本の場合は赤橙黄緑青藍紫の7色。イタリアも同じなのだが、スペインだと赤橙黄緑青紫の6色だった。イタリア北部にいたときに聞いた話だと、ドイツでは5色らしい。

 赤外線、紫外線の話をミミルするときに虹のことを話したんだが、どこか不思議そうな顔をしていたのはそれが原因かもしれない。


「エルムヘイムでは虹は何色なんだ?」

「赤、黄、緑、青、紫……あと、赤と黄、あいだ色」


 改めて確認すると、ミミルがいた世界では6色に分類されるようだ。

 赤と黄色の間というと、オレンジ、柿色、橙色……柑橘類の色が多い。デパートで一緒に買い物をしているのだからオレンジの現物を見たことがないわけではないはずだが、柿や橙は店頭に並ぶ時期じゃない。その結果が、赤と黄の間の色……となるわけだ。

 こればかりは仕様がない。


「そうか、参考にするよ」

「……ん。しょーへい、時間わかる?」


 流れる時間や月らしき衛星の位置、見える星が各層で異なるので、いまが何時頃なのかは全くわからない。

 だが、虹が出る時間帯は、太陽の角度によって決まると聞いたことがある。

 地球の場合、虹が出るということは概ね太陽が40度くらいの位置にある――という話だったと思う。太陽と月を同じように扱うとして、時間は……。


「ん、ああ。月の位置から考えるとたぶん……3時くらいだろう」

「……ふむ」


 俺よりも百年も長く生きているし、その何倍もダンジョンで過ごしいているのだから、ダンジョン内の自然の摂理は理解しているはずだ。だから、ミミルも同じように考えていたんじゃないかな。


「こりゃ、また階段下で少し時間をつぶさないと駄目かな?」

「……ん」


 リーディングライト、北欧神話に関する資料などは地上時間の明日以降の到着だったはず。

 ミミルが風呂に入っている間に書いたメモを見る。

 地図をみせて通り歌を教えるって約束したんだったな。


虹の色はその国によって何色に分けて表現しているかというだけですので、原則的には色の違いがあるわけではないようです。

ただ、空気の状態は国によって違うので色が濃かったり、逆に見えにくかったりする色があります。

また、瞳のメラニン色素の量で見え方も違ってくるようです。

ミミルがいたエルムヘイムですが、北欧スウェーデンが6色のようなのでそれを採用しています。なお、インドネシアは4色(赤黄緑青)、台湾は(赤黄紫)の3色です。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ