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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第33章 ダンジョン第三層へ
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第328話

 ホニングは蜜、バンバスは竹。授かったエルムヘイム共通言語の加護が教えてくれる。

 日本語にするなら、「蜜竹」といったところだろうか。

 この器にされている黒い器がそのホニング・バンバスだとしたら、サトウキビよりは遥かに太い。日本の真竹くらいの太さはあるだろう。

 ミミルから聞いた話によると、ホニング・バンバスが自生しているエリアは第4層。

 リンゴや梨のようなエプラという木、葡萄のようなドルゥアという木が生えている森のエリアだという話だったと思う。

 果物が生る木、甘い汁を溜め込む竹のような植物が生い茂る森のエリア……ということだ。

 ここまで草原ばかりだったから、少し楽しみになってくる。


 キュリクス肉のパニーニとフレンチプレスで淹れたブラックコーヒーを飲みながらミミルと会話を続ける。


「白い、丸い、熊いる。きょーぼう」

「白くて丸い熊がいるのか?」

「……ん」


 基本的にダンジョンはいくつもある異世界の環境を再現したもの、とミミルは言っていた。

 笹の葉を食べる生き物といえばパンダを思い出すが、どこかの世界に蜜竹が生い茂る環境があり、そこに地球のパンダのような生物がいるということなら納得できる話だ。

 しかし、パンダを想像するとその愛くるしさを思い出してみてみたくなるが、狂暴と言われると……複雑な気分だ。

 動物園のように柵の向こうにいるわけでもないので、「ちょっと見に行ってみるか」とは思えない。


「爪、きょうき。ホニング・バンバス、切る」

「へえ、それはヤバいな」


 居合切りで竹を切ったりするが、生の竹――直径10センチ近くあるものを切るのは難しそうだ。

 それを爪で……となると、地球の熊にはできない芸当のような気がする。とはいえ、ヒグマの生息域に竹は無いから、試しようもないが。


「リューク、ここのすぐ近く。あつめる?」

「ん、そうなのか」


 タマネギやニンニクは俺が得意とする南欧料理で一般的な食材。

 無くて困ることはあっても、ミミルの空間収納があるなら、いくらあっても困ることはない。

 だが、確認しておくべきは……


「生えてるのか?」

「ちがう。じめんの中、いるまもの」

「それは面倒だなあ。強いのかい?」


 淡路島のタマネギ畑のように、葉の根元を握って引っ張れば地面から出てくる……というわけでもなく、向こうから襲い掛かるように飛び出してくれるのは楽でいい。

 ただ、命を懸けて戦わないといけないというのは面倒な話だ。


「強い、ない。ただ……」

「ただ?」

「……臭い、目痛い」


 タマネギやニンニクはアリインという成分のせいで、あの強い匂いが生まれる。また、タマネギを切ると涙が出てくるのは、揮発性で刺激の強い硫化アリルが原因だ。


「このパンも臭い」

「そりゃゴルゴンゾーラを入れたからな。大人の味がするだろ?」

「……く、臭いも、いい」


 ミミルがむっとした顔をして呟く。別に拗ねているわけではないのだろうが、自称「大人の女」なのだから「大人の味」と言われると文句を言えないといったところか。

 俺の中では別にミミルへ意地悪をしているつもりはない。

 俺もゴルゴンゾーラ特有のツンとした匂いを嗅いで美味しそうだと思えるようになったのは赤ワインを嗜むようになってからのことだ。食べなれないと難しいチーズだと思う。


「しっかりと塩味があるから、キュリクスの肉のいい味付けになっているし、少しピリリとした刺激が単調な味になりがちなのを引き締めてくれるだろう?」

「……ん」


 小さく返事をするミミルだが、微妙な表情をしている。少し匂いや舌への刺激が強かったようだ。

 牛乳や山羊乳、羊乳を温めながら酵素などを用いて固めて作るのがチーズだ。そのままの状態のものはフレッシュチーズで、形を整えて熟成させたものがハードタイプ。エルムヘイムにもこの2種類のチーズは存在しているようだ。

 一方、エルムヘイムにも魔素が存在しているとはいえ、ダンジョンと比べて薄いとミミルから聞いている。その薄さのおかげで子孫を残すことができているし、酒やパンがある以上は多少の菌類やウィルスの類は存在しているはずだ。

 だが、塩水などで表面を洗いながら熟成させるウォッシュタイプや、白カビや青カビを故意に付けて熟成させるチーズは存在しないのだろう。醤油や味噌、納豆、漬物、ヨーグルトのような――故意に発酵させた調味料や食べ物も存在しない可能性がありそうだ。


 さて、最初は不満げだったミミルだが、食べ進めるうちに慣れてきたのだろう。黙々と噛り付いては両頬を丸く膨らませている。

 先に食べ終えた俺としては、ミミルが食べ終えるのを待つ必要もない。フレンチプレスの器具に残ったコーヒーを捨て、水洗いを済ませる。ウィルスや細菌はいないのだが、微細なコーヒー豆の粒子や油が残っていると思うので、定期的に地上で洗浄した方がよさそうだ。

 このあと、一旦地上に戻ってからまたお籠りになると思うので、その間に鍋などを洗うことにしよう。


ゴルゴンゾーラと言えば、世界三大ブルーチーズのひとつ。

残りはイギリスのスティルトン、フランスのロックフォールですね。


個人的には羊乳の独特な香りに青カビの香りが加わり、ロックフォールが一番臭く、味は塩辛く超濃厚です。

スティルトンは牛の乳から作られるので、香りは穏やか。しっかりと硬めに作られるので味も濃厚だけど食べやすいです。

ゴルゴンゾーラは牛か山羊の乳で作られますが、3つの中では最も(まろ)やか。但し、ピカンテという辛口タイプはピリッとした刺激があります。ドルチェという甘口タイプが入門にオススメです。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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