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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第33章 ダンジョン第三層へ
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第325話

 風呂も済ませたし、ひと眠りして身体からアルコールを抜かないといけない。

 酔っていないようでも判断能力が低下することが考えられるし、戦闘になればアドレナリンが出て興奮状態になる。結果、余計にアルコールが回ることになるし、怪我をしても気づかない……なんてことになりかねないからだ。


 食料不足が心配なので、厨房で目ぼしい食材を物色してからミミルと二人でダンジョン第2層へ。入口部屋に到着してすぐに簡易ベッドを広げる。

 リーディングライトはないが、ミミルが空間収納から取り出した二メートルほどの丸太を立て、そこにテントの内外で用いるランタンを置いた。

 壁や壁面が光っているからと言って、苦も無く読み書きができるほどの明るさではないからだ。


 俺はポケットから取り出した小さなメモ用紙を手に、ミミルと約束していてまだ果たしていないこと……例えば海を見に連れていくことや、連れていきたいと思った店などを思い出しては箇条書きにして書いていく。


 ちらりとミミルの方へと目を向けると、丁度良い高さに切った丸太をテーブル代わりにして片仮名ドリルを続けている。早く読み書きできるようになりたいのだろう。


 ひととおりメモにまとめ終えると、次に考えるのは今日もメニューのことだ。

 何かいいアイデアはないものか――と、ここ(しばら)く考えてきたのだが、(まと)まらないのは方向性が絞り切れていないところに原因があるのかもしれない。


「焼き立てのパン、薪窯で焼くピッツア、生パスタ……他の店でもやってるしなあ」


 ブツブツと小声で独り呟く。


 昨夜、俺とミミル、裏田君の3人で挨拶回りした先にこれらを提供する店があることがわかっている。少し範囲を広げればもっとあるだろう。

 優位性があるとすれば、町家を改装したダイニングバルであるというところ。だが、逆にこれが敷居を高くしてしまう可能性も残っている。

 他の料理と言う意味では、4軒すべてが扱っていたのが生ハムだ。

 イタリア料理の店はプロシュット。自家製グリッシーニを注文できるシステムになっていた。

 スペイン料理を出す店はハモンセラーノにハモンイベリコ。1軒目はピコス・デ・パンがついていた。2軒目は多彩なアヒージョが名物だったのでバケットを切ったものだ。


 プロシュットといえば、イタリアのエミリア=ロマーニャ州の名物。イタリア産生ハムの半分の量がここで作られているし、ボローニャではモルタデッラ――所謂(いわゆる)ボロニアソーセージが作られる。

 自動車好きにすれば、フェラーリやランボルギーニ、マセラティ、ドゥカティ等の本社がある場所といえばわかりやすいだろうか。

 そのプロシュットの本場、エミリア=ロマーニャ州でプロシュットやクラテッロ、コッパのような生ハムに添えて出されるのはニョッコ・フリット。直訳すると揚げ団子だが、空気で膨らんだ揚げパンだ。

 ニョッコ・フリットは油を吸ったもっちりとした生地に、噛むとパフンと潰れる大きな空洞が特徴的。口の中に小麦とラードの香りが一気に広がり、生ハムと一緒に食べると実に美味い。それに、ハモンセラーノやイベリコにもよく合う。


 あまり有名ではない理由は、モデナではニョッコ・フリット、ボローニャではクレシェンティーネ、パルマではトルタ・フリッタ等と呼び方が違うからだろう。

 イタリア料理を食べ慣れている人なら或いは……という程度にしか知っている人も少なく、出す店もあまりない。他店と差別化するにもニョッコ・フリットは実にいい。これを添え物に出すことにしよう。

 簡単な食べ物だけど、美味いニョッコ・フリットと生ハムの組み合わせが話題になれば名物にもなり得る。


 メモ帳に書いたニョッコ・フリットの文字を中心にぐるぐると丸を書いて確定事項にする。

 (ようや)く名物料理候補のひとつが決まった感じだな。


 ホッと息を吐くと、ミミルの小さな寝息が聞こえる。

 風呂上がりということもあって、どうやら丸太机に突っ伏して眠ってしまったようだ。

 片仮名ドリルはナ行を開いていたところで、平仮名のときと同じように何度も消してはそこに文字を書いた跡がある。ここまで使い倒されたら出版した会社も本望といったところだろう。

 ただ、うつ伏せで寝ているので、(よだれ)を垂れてしまいそうだ。大事にしているドリルが汚れてしまう。

 起こさないようにそっとミミルを抱え上げてベッドに寝かせ、少し寝顔を眺めたら、呟くように「おやすみ」と告げた。



 どのくらい眠っていただろう。恐らく7時間くらい……地上時間では42分だ。


「ミミル、そろそろ起きてくれるか」

「んんっ……」


 ベッドから起き上がって、まずミミルを起こす。

 相変わらず寝起きが悪いが、朝食を作るから空間収納から食材を出してもらわなきゃいけない。


「起きないと朝食が作れないじゃないか」

「ん、起きる……」


 食事のことになると、妙に素直に起き上がるから不思議だ。

 田中君にも「ミミルの弱点は胃袋だ」と教えた方がいいだろうか。そうすれば、かなり頑張って餌付けしそうな気がする。


エミリア=ロマーニャ州の名物は他にモデナのバルサミコ酢、パルマのパルミジャーノ・レッジャーノチーズなどがあります。

また、品質の良い乾燥パスタを作るバリラ社もここに本社を置いています。


エミリアはこの地に住んでいたエミリア族に由来する名前。

女性名のエミリアという名前も、エミリア族に由来します。



この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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