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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第33章 ダンジョン第三層へ
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第321話

 ミミルに抱きついていた田中君が驚いたように瞠目して固まっている。


「裏田は裏ちゃん、トーカはモモチチ。決まり」


 田中君が両手を離さないせいか、ミミルが念押しするかのように断言する。最後に「決まり」と述べて、二度と変更しないという意思表示までしている。


「え、なんでなん?」

「乳を私の頭に載せてる。()()()()作るとき、載せた」

「うち、そんなことした?」


 確かにいまはミミルの頭の上に田中君の胸がある。完全に載せている感じになっているな。

 田中君は身長が155センチくらい。ミミルは145センチくらいだ。

 互いに立ったままだと頭の上に載せるというのは不可能だが。


「それにしても、間に入りにくい話題だな」

「モモチチて……」


 裏田君が呆れたような声を漏らす。

 ツッコミを入れたいところだが、それはそれで田中君へのセクハラになりかねないからな。彼もかなりウズウズしているだろう。


「えっと、悪いがこの話はここではやめておこう……な、田中君?」

「あ、はい。そうですね……ちょっと、おようじ行ってきます」


 少し小走り気味にトイレへと向かう田中君を少し目で追う、俺と裏田君。


「酔うてますね……」

「ああ、そうだな」

「胸のこと、チチ……あってる?」


 その単語に対する認識は間違いではない。間違ってはいないのだが……。


「合っているが、呼び名に使うものでは無いな」

「そやなあ……」

「トーカ、モモカ。谷間はモモ」

「桃尻っちゅーのは聞くけどなあ……」


 裏田君、それはこの上品なレストランで出して良い言葉ではないと思うが……。

 やはり、モモチチという呼び方はどうかと思う。


「もっと違う呼び方はできないか?」

「まあ、『お姉ちゃん』に抵抗あんのはよおわかりますわ」

「ああ、俺もそれは理解できるぞ」


 ミミルはいつものように宙を見上げて思案顔をみせる。

 俺や裏田君が田中君のニックネームを考えるということはできない。立場的に「押し付け」になってしまうからだ。


「ミミルの中、もうモモチチ、いっぱい。違う呼び方、考えるは無理」


 一度、いいアイデアだと思ってしまうと、他のが思い浮かばなくなる……なんてことがよくあるが、正にミミルはその状況にあるのだろう。


「モモちゃんとかどうだ?」

「それ、ほぼペットの名前ですやん」

「た、確かに……」


 裏田君のツッコミが早い。

 たぶん、既に裏田君の中でも浮かんだ呼び方なんだろう。

 実際には桃子とかの名前で、モモちゃんと呼ばれている人もいると思う。だが、確かに犬や猫の名前になっているイメージも強いのだから仕様がない。


 他に呼び方はないものか……と思うが、そもそも「モモチチ」のインパクトが強すぎる。そして、思い浮かぶ呼び方がすべてペットのイメージに重なってしまう。

 唯一、そうならないのは「トウカ」という彼女本来の名前だ。


「トウカ、トーカ……しかないんちゃいます?」

「なんだかそれしか残らない気がするな」

「でもそうなると、田中さんは『お姉ちゃん』を付けたがると思いますわ」

「だよなあ……」

「モモチチ、お姉ちゃん違う」


 ミミルの反応も想定通りだ。

 自分こそがお姉ちゃんだと鼻息荒く語り出しそうなので、田中君が戻ってきたら、「お姉ちゃん」と呼ぶことをミミルが嫌がっているとはっきり伝えるようにしよう。


「そうだな。ミミルがお姉ちゃんだからな」

「ん、ミミルがお姉ちゃん」


 ああ、理解した。

 恐らくだが、年上の女性に対して「お姉ちゃん」と呼ぶ文化がないのだろう。南欧だと普通にファーストネームで呼び合うのが一般的だし、声を掛けるにしてもスペイン語で「お姉さん」とは言わない。

 だから、いまミミルが言ったのは、「ミミルには妹がいる。私は双子姉妹のお姉ちゃんだ」ってことだ。


「日本語の『お姉ちゃん』は、血が繋がっていない年上の人に対しても使う言葉なんだよ」

「そうそう、例えばこんな風につかうんや――ちょっと、お姉さん」


 手を挙げてフロア係の女性に声を掛ける裏田君だが、この店の雰囲気にはちょっと合わない声の掛け方だ。

 でも、例としては間違っていない。


 フロア係の女性に裏田君が「お(ひや)」を人数分頼んだ。

 少々お待ちください、と言って女性が離れると裏田君が少しどや顔でミミルに話しかける。


「年下の人でも、どう見ても子どもとちゃうかったら『お姉さん』と声を掛けてええねん」

「むう……」


 そういう言葉なのだと納得してくれてはいるのだろうが、納得し切れていないような……微妙な表情をミミルがみせる。

 ああ、地球では自分が幼く見えるから「お姉ちゃん」とは呼んでもらえないことに気づいたのだろう。

 それは実年齢を隠して日本で生きていく以上、逃げることができないことだと思う。それを「受け入れろ」と言うのは容易(たやす)いが、自分が同じ立場に立てば、非常に複雑な気分になるのも理解できる。


「すみません、失礼しました」

「ああ、おかえり」


 田中君が戻ってきた。

 いい感じに頬が赤いところをみると、やはり酔っているようだ。


おようじ : [共]小用、お手洗い、トイレ


紙を落とす(髪を落とす)から坊主になることを連想し、トイレのことを高野(こうや)とも言います。

その場合は大用を指します。「こうや行ってきます」等と使います。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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