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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第32章 モモチチ

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第320話(ミミル視点)

 裏ちゃんやしょーへいに連れてこられたのは、しょーへいの店から少し歩いたところ。何の肉かは知らんが、玻璃でできた窓の向こうに大事そうに吊るされている。干し肉にするには大きすぎる。昨日、行った店においてあった干し肉の塊はもっと小さかったはずだ。


「あれ、何の肉?」

「牛の肉だよ」

「干し肉、する?」

「いや、熟成させているらしい。温度と湿度を管理したところに吊るしておくと、肉の成分が変化して美味しくなるんだ」


 ダンジョン探索がエルムの日常となる前のことは知らないが、いまは家族の誰かが空間収納の技能を持っていると言われている。

 空間収納に仕舞っておけば肉も草も劣化しない。だから、常に新鮮なまま食べるのが一般的。

 逆に空間収納の技能を持たない地球人は古くなった肉を食べるということか。残念なことだ……一瞬は思ったが、しょーへいの言葉だと美味しくなるらしい。となると、これは無視できない。


「どう美味しい?」

「こればかりは食べてみなきゃわからんだろう」

〈100回聞くよりも、自分の目で見た方がいい……というやつか〉


 つい、エルムヘイムの言葉でポツリと漏らしてしまった。私の日本語の技能では同じ意味をもつ(ことわざ)まではわからないから仕様がない。


「それは日本語だと『百聞は一見に如かず』と言うな。『論より証拠』なんて言葉も使う」

「ほお……」

「ミミルちゃんには早いんちゃいます?」


 なんだかトーカにまた子ども扱いされているような気がするが、しょーへいに言いつけられているから我慢だ。

 しょーへいが言うとおり、私よりも年下の人間が外見だけで私を子どもだと勘違いしている姿は滑稽でもある。これが年上であることを笠に着て横柄な態度や、尊大な態度を取るようなら怒ればいい。

 そちらの方がよほど大人っぽいはずだ。


「いや、3年生くらいから『(ことわざ)』は教えてもらうらしいですわ」

「さすが2人の子持ちは違うなあ。インターナショナルスクールはカリキュラムが違うから……必ずしも同じように学ぶとは限らんけどな」


 会話をしながら席に着くと、品書きを見てしょーへいが飲み物や料理を注文してくれる。

 私の前に出て来た飲み物はオレンジジュースというものらしい。生の柑橘を手で絞ったもので、甘さと程よい酸味があって美味い。

 しょーへいたち、人間は葡萄酒を飲むらしい。しょーへいに言われてトーカが選んだようだ。

 甘いものと、甘くないもの。渋みがあるものと、少ないもの。果実味があるものと、少ないもの……いろいろと味の組み合わせがあり、作り手によって味が違うとか。

 講釈を垂れずに、私にも飲ませてくれればすぐにわかるというのに……こうして酒が飲めないとなると、11歳で成長が止まったことが恨めしく思えてくる。そんなこと、この異世界にくるまで一度も感じたことなどなかったというのに……。


 注文した肉は、しょーへいと2人で分けて食べるらしい。

 厚切りの()()()()()ステーキという大きな骨付き肉だ。

 テンダーロインとサーロインという部位の両方が味わえるという。牛は人間の数倍の大きさがあるらしく、骨はなかなか大きい。


「骨も食べる?」

「そら、歯あ砕け散るわ」

「裏田君の言うとおりだ。だけど、骨周りの肉は特に美味いぞ」


 裏ちゃんの反応がすごく早い。それを見て、トーカがクスクスと笑っている。

 しょーへいが取り分けてくれた肉は炭で焼いたらしく、表面がとても香ばしく、肉の旨味は濃厚でとても美味だ。いままで食べていた肉にはない、煎った木の実のような香りがするのが面白い。

 ダンジョンの肉にはない美味さがある。

 黙々と肉ばかり食べていると、コウルに似た草を蒸したものや、ギュルロに似た朱い根っこ等を食べろと差し出される。

 揚げた芋は美味いから食べるが、他の草や根っこはいらん。


「ミミルちゃん、ちゃんとお野菜食べな大きゅうなられへんえ」

「お……大きく……」


 お、おのれ……その大きな膨らみは草や根っこを食べたからだというのか。


「まあ、女子の中では小さい方のうちが言うことちゃうけど……」

「平均よりは低めくらい?」

「裏田さんは大きすぎるんですよ!」


 なんだ、身長のことなのか。

 残念だが、ダンジョンに出入りしている間は成長が止まっている。ダンジョンに入らない生活を続ければ私もまた身長が伸びるようになるだろうが……地球という場所は病気を引き起こす細菌やウィルスという微細な生物が多く存在するらしい。もし感染しても、魔素の濃いダンジョン内で暮らせば死滅させることができるだろう。

 健康を維持するためには、恐らく定期的にダンジョンに入り続けなければならない。


「せやのに、ミミルちゃんに裏ちゃんって呼ばれて……うちも仲良うして欲しいわあ」

「言葉も違う、文化も違う国から来て間がないんだ。それに、押し付けるようなものでもないだろう」

「そやで」

「うーん、でもっ……」


 (おもむろ)に立ち上がると、トーカは私の背後に回り込んで抱き着いてきた。


「おもいっ、はなす!」

「うちも仲良おして?」


 ぐっ……頭の上に無駄に大きい乳を載せられ、両手て捕獲されているから動けない。

 そういえば、トーカの愛称にはモモカというのもあると言っていたな。


「わかった。トーカはモモチチ」

「――え!?」



【あとがき】

〝百聞は一見に如かず〟は中国の趙充国伝の一節「百聞不如一見、兵難遙度、臣願馳至金城、図上方略」から庶民に広まった言葉です。

 英語では〝one eye-witness is better than many hearsays〟や〝a picture is worth a thousand words〟という表現も用いられます。


〝百聞は一見に如かず〟は中国の趙充国伝の一節「百聞不如一見、兵難遙度、臣願馳至金城、図上方略」から庶民に広まった言葉です。

英語では〝one eye-witness is better than many hearsays〟や〝a picture is worth a thousand words〟という表現も用いられます。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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