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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第3章 ダンジョンと生活

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第22話

 大手ハンバーガーチェーンのモーニングセットを食べている最中も、ミミルからは異世界語の連呼が止まらない。

 まず、揚げたてのハッシュドポテト。

 ミミルのいた世界では揚げ物は贅沢品のようだ。とても喜んで食べていた。だから唐揚げもあんなに気に入ってたのか……。


 次に興味を示したのはホットケーキ。

 食べ方を説明し、目の前でバターを溶かしてシロップを掛けてみせると、ミミルは涎を垂れそうな勢いでホットケーキを凝視していた。


「こっちで刺して、これで切って食べるんだ」


 ミミルは少し不思議そうな顔をするが、フォークとナイフをつかって食べ始めた。とても幸せそうな顔だ。


「なに?」

「これはホットケーキ」

『ホットケーキ……おいしい』


 ミミルはホットケーキを嬉しそうに、美味そうに食べていく。美味いものを食べるときの笑顔は異世界も共通なんだな。

 すると、何かを思い出したように顔をあげた。


『これ、なに?』

「フォークとナイフがどうかしたのか?」


 ミミルから話を聞くと、彼女が暮らした世界では農業用のフォークしかないらしい。しかも、爪の数は二本又は三本だという。

 だったらどうやって食べるのかという話になるのだが、煮物は木を削ったスプーンを使って食べ、他のものは自分のナイフで切って手掴みで食べるそうだ。

 意外にも原始的だったので思わず言葉を失ってしまった。


 そのとき、来客を知らせるインターフォンが鳴った。


 恐らく、厨房機器を運び込む業者だろう。


「すまないが、少し待っててくれ」


 俺はミミルにそう告げると、来客の応対をする。

 想定通り、業者が冷蔵庫以外の厨房機器を運んできていた。


 俺は独りで一階に下りて業者に挨拶を済ませ、設置図面を渡し、商品の搬入をお願いする。ガス管や電源コンセント、水道管の位置を見ればどこに何を置くかくらい、業者はわかっていると思うが、念のためだ。

 業者も慣れたもので、次から次へと冷凍庫や製氷機、シンクに食洗器、コンロ、ガスオーブンといった機器を運び込んでは設置していく。

 もちろん、ガス管や水道等の接続作業もお任せだ。


 五人くらいでの作業だが、とてもスムーズに搬入・設置が進む。

 慣れた人たちの作業は本当に手際が良く、僅か2時間ほどで作業は終わってしまった。そして俺のサインをもらうと、あっさりと帰っていく。次の搬入先があるのだろう。


 業者の人がいなくなったところで、あらためて厨房を見渡し、九割揃った厨房機器たちを眺める。

 銀色に磨き上げられたステンレス製のドアがいくつも並んでいる。凡そ飲食店であれば似たような機器が入っているものだが、なぜか俺の目には特別輝いて見える。

 目標にしてきた自分の店が少しずつ現実化していく。その日々の変化を見ているだけで、俺は楽しくて仕方がない。まさに順風満帆といった感じで、心が満たされる。


 すると不意に左手をクイッと引っ張られた。

 目を向けると、ミミルが二階から降りてきていた。


 退屈で、寂しかったのだろう。

 また、悲壮感と孤独感を混ぜ合わせたような顔で俺のことを見上げている。


「寂しかったか?」

『わたし、おとな。さみしい、ない』


 心配したのだが、ぽくりと胸元を叩かれた。

 意地を張っているのが丸わかりだ。それに、この細くて小さな手で殴られても全然痛くない。


「このあと、俺ひとりでまた買い物だ。留守番、頼むぞ」

『ん――』


 唇を噛み締めて、ミミルが俺のことを見上げる。

 よほど寂しいのか、それとも不安でたまらないのか……どちらかはわからないが、プルプルと小さく震えているのがよくわかる。

 だが、俺のTシャツ一枚で外に出すわけにはいかない。ブーツも泥と魔物の血で汚れたままだ。

 とにかく、ワンピースのような簡単な服とサンダル程度のものを用意してやりたい。

 あとは耳をどうするかだが、今の様子を見ている限り耳に髪を掛けない限りは気にならない。尖っているかどうかだけの違いで、耳の大きさは俺たち日本人より小さいくらいだから問題なさそうだ。アニメやラノベに出てくるような長耳でなくてよかったと思う。


「とりあえず、ミミルの普段着を買ってくる。その後はそれに着替えて外に出よう」


 このひとことでミミルがパァッと花のような笑顔を咲かせる。

 大きく開いた瞳は明らかに好奇心でいっぱいだ。


『そと、でる、たのしむ!』

「新しい服を買ってきてからだからな?」

『ん――』


 ミミルはまた寂しさと不安を綯い交ぜにしたような表情をちらりと見せると、笑顔を取り繕って俺を見上げる。


 何かあればすぐにでも壊れてしまいそうな脆さを持った笑顔。


 そう思うと心配になってくるが、ここで買い物に行かなければミミルは前に進めない。

 元の世界に戻る手立てがない以上、この日本で暮らしていくしかないのだから。


「じゃ、行ってくる」


 特に「いってらっしゃい」と声を掛けられることはないが、手を振られた。

 少し恥ずかしそうな仕草を見て、その可愛らしさに息を飲んでいる自分がいるが、なんとか手を振り返す。


 異世界でも普通はバイバイと声にだすのだろうか――?


 俺はそんなことを考えながら店を出ると、鍵を閉めて大通りの方に向かって歩き出した。


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