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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第32章 モモチチ
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第319話

 ミミルを自宅に残し、林さんと、作業員の2人を見送って事務所へと戻った。

 時間は既に18時を指していて、周辺の飲食店は既に営業を開始している。これからが書き入れ時だ。ちょっと寄って、ちょっと飲み食いして出ていく……となると少し気を遣う。


「何の工事したはったんです?」

「2階に来るための階段がそこしかないだろう? でも厨房の場所を考えたらベランダから下に出られる方が良いと思ってね……避難梯子を付けてもらったんだ」


 俺の説明に田中君がなるほどと頷く。

 また本当の理由を言えないことに少し胸が痛い。


「あと、この部屋からの避難誘導を考えると、俺の家の入口上に避難誘導灯を付けた方がいいらしいんだ。最近はシールタイプで昼間に蓄光して夜に光るタイプのものがあるそうで、明日はそれを付けに来てくれるらしいよ」


 俺も自分自身の店を持つことになって初めて避難誘導灯の設置が必須だってことを知ったし、客席が1階にしかなくても2階に事務所があるなら設置しないといけないというのも今日知ったばかりだ。


「ほな明日も工事ですのん?」

「いや、壁に貼るだけっぽい。すぐに終わるはずだ」


 裏田君は「そんなんあるんや……」ととても感心している。


「で、そろそろ時間もいい感じになってきたし、挨拶回りしようかと思うんだが……」

「ええですよ」

「あ、うちは着替えてきますね」


 田中君は慌てて更衣室へ向かった。

 俺と裏田君は互いに視線を合わせ、同時に溜息を吐く。


「まさかのお姉ちゃん宣言ですか……」

「ああ、工事業者の林さんには感謝しかないね。まあ、避難誘導灯はその代金ってとこかな」

(たこ)うつきますね」

「ほんとだよ……」


 あの瞬間は一気に緊張感が高まった。

 ミミルは暴走しそうになるし、田中君は事情を知らないものだからキョトンとしたまま。男が2人いても、ミミルは止められそうにない。

 ダンジョンの第2層でも一度だけ暴走したことがあるが、あのレベルで暴れまわられたら辺り一帯が消えてなくなるだろうな。


「明日以降、ミミルがどう名前を呼ぶかにすべてが掛かってるな」

「ええ、ほんまに……」


 俺から見てお姉さん(がた)にあたるパートの主婦が2名。この2人は自分の娘や息子の年齢とミミルの見た目年齢が近い。

 学校での出来事を訊ねたりするんじゃないだろうか……まあ、日本の学校とは違い、インターナショナルスクールに通う()()()なっているのでカリキュラムも違うから問題はないかな。

 それ以上にミミルは特別可愛らしい。自分の息子の友だちに……なんて気を起こしたりしないか心配だ。


 いや、考えすぎだろうか。


「――やっぱ親子ですやん」

「え、何が?」

「娘を心配する親の顔、したはりましたで」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見つめる裏田君に、「そんな馬鹿な」と言葉を返す。

 だが、手鏡片手に自分の表情を確認しながら生活できるわけもない。たぶん、裏田君の言う通りなんだろう。でも、それをそのまま認めると言うのもなんだか小恥ずかしい。


「そろそろミミルを呼んでくる」

「お待ちしてます」


 いまから呼びに行けば、田中君の着替えも終わっていることだろう。

 ついでに、ミミルに釘を刺しておかないといけない。


 少し速足で自宅へと向かい、鍵を開けて中に入る。

 ミミルは今日は片仮名ドリルを開いて文字を書き入れている。結構なページまで進んでいるが、進捗が早いのは直線的な文字が多いのが理由だろう。


「食事に出るぞ」

「……ん」


 片仮名ドリルやシャープペンシル等を空間収納へと仕舞い、ソファーから立ち上がるミミルに声を掛ける。


「なあ、ミミル。田中君はミミルの素性を知らないんだ」

「とーかには話していない。だから仕方ない」


 ここで独りになって反省したのだろう。


「田中君の方が100歳も年下なんだから、ミミルからすれば子どもを相手にするようなものだろう?」

「う、うん」

「だから、子どもを相手にしていると思えばいいじゃないか」

「……ん、わかった」


 本当に理解したのかは不明だが、ここで説教したところで俺も田中君と似たような年齢だ。だったら将平も子どもだと思えば良いのか……と言われればもう歯止めが効かなくなる。

 あまりくどくどと説教をして、そこに気づかれると困る。


 自宅からミミルを連れて事務所へと移動すると、田中君が戻っていた。

 事務所に着くなり、裏田君が俺に向かって訊ねる。


「時間もアレですけど……どこ行きましょか」

「ああ、昨日も酒が入ったからな。今日は控えめにしたいところだな」


 昨日は4軒もハシゴ酒をしたわけだ。

 俺はダンジョンのせいで体質が変わったのか、全然平気だ。ミミルも酒は飲んでいないから問題ない。だが、毎日続くと裏田君や田中君も厳しいだろう。


「肉、行きましょか」

「ん、肉がいい」


 キラキラと瞳を輝かせ、ミミルが俺を見上げる。

 ミミルは本当に肉が好きだよなあ。


「熟成肉とかどうかなと思いまして。ちょっとお高いですが……」

「じゃあ、そこにしようか」


 心做(こころな)しか、田中君も嬉しそうだ。

 さあ、夜の街へと出かけよう。



この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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