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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第32章 モモチチ
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第318話

 ただ震えているだけじゃない。

 感情が(たかぶ)り、ミミルから魔力が溢れ出しているのだろう。即時に魔素へと変わって空気の流れが生まれる。


 たったひと言、ミミルが名付けた魔法の名前を呟くだけでこの事務所の中に暴風が吹き荒れることだろう。

 ここは何とかミミルを抑えなければ……と思ったそのとき、田中君とミミルの背後に人影が現れる。


「――あのう、すみません」


 ベランダの工事をお願いしていた……林さんだ。

 突然声をかけられ、俺たち全員の視線が林さんへと向かう。

 事務所の中にいた4人から一斉に視線を向けられ、林さんも少し戸惑っている。


「えっと……工事終わりました。確認、お願いします」

「あ、うん。ありがとうございます」


 とてもいいタイミングで声を掛けに来てくれた。

 正直、どうなることかとかなり焦っていたところだった。

 避難梯子を使うのは主にミミルだ。だから、ミミルと2人で確認させてもらうことにしよう。事情を知らないとはいえ、年下扱いした田中君へと向けた怒りの感情を鎮めるにもいいはずだ。


「じゃあ、ちょっと行ってくる。いまのリストで食材の発注も済ませてくれ。ミミルも行くぞ。ほら」


 ミミルに向かって左手を差し出す。

 まだ怒りは収まっていないのか、不満気な表情を崩すことなく、ミミルは俺の手を握ってきた。


「なんやろ? いま急に風が吹かはったような……」

「扉を開けっぱなしにしてるからな――林さんが俺の家の扉を開けたときに奥から空気が流れてきたんだろう」


 ミミルの身体から漏れ出した魔力が魔素に戻ることによって生まれる空気の流れ――それが風になって周囲へと流れていたのを田中君も感じていたのだろう。

 ミミルが爆発するのを抑え、扉をあけることで風を起こしてくれた林さんには感謝しなければいけない。


 林さんを先頭に、事務所から自宅へと向かう。


〈ミミル、田中君はミミルの実際の年齢を知らないんだ。仕方ないだろう?〉

〈わ、わかっている。だが、血も繋がっていない年下を相手に『お姉ちゃん』と呼ぶなど……〉

〈だから無理に呼ぶ必要はないぞ〉

〈う、うむ……〉


 聞いたこともないような言語で話を始めた俺とミミルに驚いたのか、林さんが振り返って立ち止まる。


「高辻さんのお子さんで?」

「ええ、俺が海外にいたときにいろいろあってね」

「外国語ペラペラって、けなりいですわ。私なんて英語もしゃべれへんのに……中学、高校の授業はなんやったんやろ」

「まあ、機会がなかったら話すこともないですからね。現地に住めば、自然と話せるようになりますよ」

「そんなもんですかねえ……」


 実際、俺もそうして言葉を覚えて来た。

 もちろん、最も役にたつのは「何」を意味する単語だ。あとは辞書さえあればなんとかなる。

 最初に英語を話したときは、中学生で学んだレベルの単語の羅列だったし、それで充分通じる。実際に外国人が話す言葉はシンプルで短く、〝so that〟や〝enough to〟なんて言葉を使った長文を話す人なんていない。


「ええ、中学生レベルの英語でも充分生活はできますよ。あとは勇気だけなんじゃないですかね」

「へえ……」


 外国語が話せるようになりたい、羨ましい――なんて話をされると返す言葉なんだが、誰もが似たような感じの反応をみせる。

 本当に羨ましいだなんて思ってもいない証拠だ。


 簡単な会話を済ませ、ベランダに到着する。


「そうそう、消防署のチェックは未だですよね?」

「消防署と保健所の調査は明後日かな」

「避難誘導灯の設置を言われるかも知れませんよ」

「2階が実質的に自宅と事務所でもかい?」


 実際はミミルが店の営業中にダンジョンへ出入しやすいようにと考えて設置することにしたのだが、薪や炭も使う職場だ。木造の建物だから火災のリスクは常についてくる。その建物の2階部分に居を構えるのだから、万が一を考えて避難梯子を付けるのは自然なことだ。

 だが、非常口を示す誘導灯まで必要になるとは思わなかった。


「事務所があるっちゅうことは、消防署に文句言われまっせ」

「そうなのか……」

「高輝度蓄光シールになったんがありますよって、明日にでも持ってきましょか?」

「ああ、頼むよ。請求は後でまとめてやってくれればいい」

「へえ、おおきに」


 まあ、電気工事が必要になるわけではないようなので良かった。

 貼る場所は自宅玄関の上と、廊下の突き当り――ベランダ出口だろうな。

 避難経路とはいえ、家の中を通るのだから自宅玄関は鍵を掛けない方がいいのかな。停電時は自動で鍵が開くという鍵があるのならそういうものに変えた方がいいのかもしれない。

 また出費が増えるな……。


 避難梯子の方は2時間そこそこで工事したとは思えないほど綺麗に仕上がっていて、ダンジョンで強化された俺の力でもビクともしない。いや、本気でやれば壁が壊れるかな。


 実際に梯子を下りてみて、安定性などを確認して納品書にサインを済ませる。

 明日もうちの店に来る用事ができたせいか、林さんはまた嬉しそうな笑顔をみせて帰っていった。


避難誘導灯は緑色をベースに白抜きでピクトグラムが描かれた標識ですね。一定面積以上の飲食店では消防法で設置が定められています。


けなりい  :[共]うらやましい


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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