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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第32章 モモチチ

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第316話

 俺が考える当たり前と、他の人が考える当たり前は違う。

 海外の店を転々としてきた俺も、会社としての仕組みなどほとんど知らずに過ごしていた。日本に戻ってホテルで働くようになってもそのような知識は必要ない。

 その後、両親が事故で亡くなり、遺産整理する間に専属の税理士と懇意になり勉強できたことが非常に大きい。


 裏田君の方は俺の出した金額に驚いていたが、そもそも予定していた月給に正当な時間外手当を計算すれば同じくらいになるように考えているので問題ない。


 金銭面についての条件、その他の条件を含めて裏田君との調整はこれで完了したと言えるだろう。

 早速、税理士に連絡をとって登記関係の手続きに移ってもらわなければならない。


 残り、いくつかの原価計算を裏田君にお願いして、俺はパソコンで税理士へと連絡を入れておく。シンプルに裏田君を役員として追加する旨を伝えただけだ。


「金銭面の条件も決まったから、役員登記することになるんだけどさ」

「あ、はい……登記ってなんですのん?」

「法務局に会社役員の登録をする作業なんだ。これ以外に株主総会の議事録を作ったりするんだが……それは俺の方でやる。裏田君は住民票の写しを手に入れてきて欲しい」

「わかりました」


 早速、裏田君はスマホを取り出し、メッセージアプリを使って奥さんに連絡したようだ。

 もう時間的に役所窓口は閉まっているはずだ。


「個人番号カードがあれば、コンビニで印刷できるはずだよ。その方が印紙代が安い」

「え、ほんまですのん? あ……」

「どうした?」


 スマホの画面をこちらに向け、裏田君は苦笑いをみせる。


「嫁はんから、同じこと書いて送ってきましたわ」

「そ、そうか……」


 含羞(はにか)むような笑みをみせ、髪の短い頭を掻く裏田君を見ると、思わず笑みが零れてしまった。

 さすが主婦……より安く済む方法は心得ているようだ。


 ネットを参考にして裏田君の役員関係書類を作っていると、扉をノックする音が聞こえる。


 どうぞと返事をすると、事務所に入ってきたのは田中君とミミルだ。

 少しは仲良くなったか心配だが、ミミルも大人だというのなら100歳も年下の女性に対して気配りくらいするだろう。


「終わりました。あとは2時間以上冷蔵庫で冷やして、出来上がりです」

「おつかれさま。田中君、ありがとうね」

「あ、いえいえ」

「ミミルはどうだ、楽しかったか?」


 田中君はとても楽しく、嬉しそうな表情に見える。

 一方、ミミルの方はなんだか浮かない顔だ。まだ胸の大きさに不満を持っているのだろうか?


「すぐ、食べるられない。ざんねん」

「そ、そうか……」


 一瞬、絶望したかのような表情を見せるミミル。

 それを見て「大袈裟だなあ」と漏らしつつ、とりあえず、大した不満でなくてよかったと安堵する。


「田中君と仲良くしてたか?」


 ミミルは返事をしない……とはいえ、そっぽを向くと言うわけではないので嫌ったりしていることはないだろう。何やら思案顔をして目線を宙に浮かべている。


「うちら、仲良うしてたよね?」


 頑張って一緒にティラミス作りをしてくれた田中君の表情に不安の色が出ている。

 ティラミスの調理工程そのものは俺も知っている。本当に美味しいドルチェだが、実にシンプルだ。材料の分量だけ覚えていれば誰にでも作ることができる。手伝うだけとはいえ、始めての菓子作りという意味では最適な料理だと思うのだが……。


「……わからない」

「ええっ!?」


 思いもよらない言葉に田中君は驚きを隠せず、目を大きく見開いて声に出した。

 一方のミミルはエルムヘイムでは偉い立場にいたわけだし、幼い……10歳の頃から貴重な加護を得たエルムとして庇護されて育ってきたわけだ。俺たちの思うような「仲良く」という関係を築いた経験が少ないのかもしれない。


「仲良いわかる。でも、ちょっと違う」


 何か説明しようとして、上手く言葉にできない状態なんじゃないかな。いろいろと語彙が足りずに端折(はしょ)られていているので、ミミルが言いたいことがきちんと伝わってこない。


「仲が良いという意味はわかるけれど、田中君との関係はちょっと違う……ということかい?」

「……ん、そのとおり」


 ミミルは首を一瞬だけ傾げたあと、小さな声と共に首肯した。

 俺の言いたいことを理解したのか


 ミミルには妹がいたという話だが、妹との関係と、友人との関係は……俺はひとりっ子だからよくわからん。まあ、本家の親戚筋との関係などは近いのかも知れないが……それでも、親戚と友人という前提では「仲がいい」の質が違う気がする。


「ミミルちゃんは僕のこと、裏ちゃんって呼んでくれますよ」

「えっ、そうなんですか?」

「――裏田は、裏ちゃん」

「ええっ!?」


 田中君が手で口元を塞いで驚いている。

 ミミルが裏田君のことを裏ちゃんと呼ぶようになったのは、「ちゃん」を付ける方が親し気に聞こえるという理由からだ。

 実際には先に裏田君が「ミミルちゃん」と呼ぶようになったのが……。


ここでは個人番号カードとしていますが、マイナンバーカードのことですね。

コンビニで出力した場合、住民票などの印紙代が割安になります。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。



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