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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第3!章 エルムとは
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第309話

「しょーへい、ケーキ!」

「だめだ。このあと田中君と一緒に作るんだろう?」

「むう……」


 両手を脇腹にあて、両頬を膨らませる姿は非常に可愛いのだが、甘やかすわけにはいかない。

 荷物を空間収納に仕舞えるとは言え、会計を終えて出てすぐの状態ではすべての荷物を俺が手に持っているからだ。

 小麦粉だけで薄力粉、パン用強力粉、パスタ用強力粉、バケット用の準強力粉。それを2キロずつ。他にも粉物はグラニュー糖、粉糖、コーンスターチ、アーモンドプードル等々もある。重量で20キロを超えている。

 更にはトマト缶などの缶詰も加わり、明らかに俺一人で持ってあるくのにも苦労する量になっている。


「お客様、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫……近くなので、なんとかなります」


 店内の通路を歩く俺を見かけた店員さんも、流石に心配して声を掛けてくれる。

 だが、手伝ってくれるにしても、店の出入口までだ。あまり意味がない。

 それに、ダンジョンのおかげで俺の身体の力は常人の数倍以上になっている。これくらいの荷物を持ち歩く程度なら息切れすらしない。

 ただ、店内の通路を進むには荷物が多すぎだ。とにかく歩き難い。


 両手に鈴生(すずな)りになった荷物を持って、コインロッカーまで移動すると、中に詰め込む振りをしてミミルの空間収納に仕舞ってもらう。


「帰ったら田中君とお菓子作りだぞ」

「ん。楽しみ」


 スマホの時刻を確認すると、既に16時を回っていた。


「お、もうこんな時間か。急がなきゃな」

「何かある?」


 ミミルが不思議そうに俺を見上げて首を捻っている。

 カラコンのせいもあって、澄んだ瞳が更にキラキラとしているように見えて可愛らしい。


 ダンジョンに関係することなので、エルムヘイム共通言語で話す。


〈2階からダンジョンの入口前に下りる梯子を作ってもらうんだよ。ダンジョンに向かったり、帰ってくるときに店の中を通らないといけないと色々と問題だからね〉

〈ふむ……気遣い、ありがとう〉

〈なに、平日の昼間に誰かに見つかると俺も困ることになるんだ。当然だよ〉


 子どもを学校に通わせていないと通報されれば、そこからミミルに国籍がないことや、異世界人であることが芋蔓式(いもづるしき)に明るみに出ることだろう。

 既に街へ連れ出してしまっている以上、一定のリスクは付きまとう。それでも、ご近所さんに平日昼間は学校に行っていると勘違いしてもらえば、ミミルの素性がバレるリスクは低減できるはずだ。


「あれなに?」


 ミミルの指さす方向へと目を向ける。

 瓦屋根の上にあるのは、瓦で作られた人形だ。


「あれは鐘馗(しょうき)さんというんだ。今から1300年くらい前、隣の国に『オニ』という怪物よりも強いと言われて崇められていた人でね。日本ではあのように人形を作って、家の守り神として祀っているんだよ」

「鬼より……ももたろう?」

「桃太郎とは違う。あれは日本の昔話だよ」

「むう……」

鐘馗(しょうき)さんは西の海を越えたところにある中国という国にいた人。桃太郎は日本生まれの日本育ちだ」


 桃太郎の国籍確認などできないが、間違いない……と思う。

 聞いた話によると、モデルは吉備津彦命(きびつひこのみこと)だっけ?


「ふむ……日本、神様いっぱい?」

「ああ、日本は神様が沢山いるんだ。ヤオヨロズの神と言うんだけど、文字では八百万と書くくらいだからな」


 まあ、実際に八百万もの神の名を書き並べたものなど存在しない。


「フィオンヘイム、人口10万。日本の神、多い……」

「いやいや、八百万というのは沢山という意味だ」

「むう……日本語、むずかしい」

「難しくないだろう……エルムヘイムでも「千の感謝」をと言って礼を言うだろう? 日本ではそれが八百万なだけだ」


 イタリア語では〝Grazie mille〟で、スペイン語では〝Mil Gracias〟という表現がある。共に直訳すれば「千の感謝」という意味だ。英語の場合は〝Thanks a million〟になって、「百万の感謝」になる。

 そして、エルムヘイム共通言語にも同じような表現がある。


「むむう、なるほど……」

「日本の場合は、八十(やそ)八百(やお)という言葉を使ったり、(よろず)という字を使ったりするんだ。いろんなものを扱うお店のことを、万に屋を付けて「万屋(よろづや)」と呼んだりするし、想いがたくさん詰まったことを「万感(ばんかん)」と言ったりする。他にも万に事と書けば、すべてを意味する「万事(ばんじ)」という言葉になるんだよ」

「……いろいろありすぎ」

「まあ、それは否定しないよ」


 八十神(やそがみ)や八百屋、万屋といろんな沢山が溢れているわけだ。


 と、こんな話をしているちに店に到着した。

 扉を開けて、厨房の外に荷物を下ろすと、中へ声を掛ける。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 厨房から顔を出したのは裏田君だ。


「田中君は?」

「いま、ちょうどバケットが焼きあがったところですわ」


 もうすぐ業者がやってくる時間でもあるし、急いでミミルに荷物を出してもらい、厨房へと運び込むとするか。


千という単語を使った感謝の言葉は他の国にもあるようですね。

ノルウェー語の場合は〝Tusen(1000) Takk(感謝) 〟で、スウェーデン語の場合も〝 Tusen Tack〟という似たような表現があります。ドイツ語にも〝Tausend dank〟という似た表現がありますね。

3桁単位で数字を管理する欧州ならではの文化といったところなのでしょうね。



アーモンドプードル : アーモンドを粉末状にしたものです。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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