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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第3!章 エルムとは
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第308話

 ラウンを倒すとなると、また数日かけての作業ということになる。基本的な食材……肉類は現地調達したものがあるので問題はないが、今日の夜からとなると低温調理器を使って調理する時間はない。つまり、先日までのダンジョン生活に戻るということだ。


 まあ、それは問題ない。


 ずっとダンジョンに潜り続けるわけではないし、他の食材もダンジョン内で確保できる。


 ただ、ラウンに遭遇できるかどうかというのも運次第だし、ラウンを逃がすことなく倒すこと、ラウンが卵をドロップすることも運次第だ。


〈効率的にラウンを探す方法はあるのかい?〉


 急いで空間収納の技能を得るためには、どれだけ効率よく楡擬(にれもど)きを周回できるかに掛かっていると思う。

 数を増やせば、当たりを引く確率も上がるというものだ。


〈第2層や第3層の魔物の境界を周回する。ニホンの単位で約4キロ毎にエルムの木があるから、そこを繋ぐように移動すれば効率よく見つけることができるだろう〉

〈なるほど……ん?〉


 サラリと聞き逃しそうになったが、いま〈エルムの木〉と言わなかったか?


〈エルムの木って、あのラウンがいた木のことかい?〉

〈そうだ。我々エルムにとって切っても切れない関係にある〉

〈初めて聞くぞ? いったいどういうことなんだ?〉


 確かに楡擬(にれもど)きは魔物の領域の境界部分に生えていた。ダンジョン内に()いて安全な場所の象徴という意味では確かに無くてはならない存在だと思う。

 だが、「切っても切れない」となると他にも何かあるのだろう。


〈太古の昔、すべては世界樹が支える9つの領域に分かれて存在していた。最も高い領域に神々が住み、エルムの祖先はアルムヘイムという場所で暮らしていたとされている〉


 世界樹といえば、エルフが守り、育む存在として扱われている作品が多く存在する。

 ミミルたちエルムの世界の昔話にも世界樹が登場する……これは偶然なのか?


 疑問を抱く俺のことは放置して、ミミルは話を進めていく。


〈ある日、神々の戦いがあった。その戦いについては出口に記されているから、出口の文字が現れたら話そう〉

〈あ、ああ……それでいい〉


 裏田君が送ってきたメッセージを確認し、追加で必要なものをカゴに放り込みつつ、ミミルの話に耳を傾ける。


〈その戦いで神々やエルムの祖先が暮らす世界を支えていた世界樹も殆どが焼けてしまった。エルムの祖先はその世界樹の(うろ)に隠れ、難を逃れた。(うろ)の中はエルムの木が鬱蒼と茂る森で、戦いで燃えた世界樹の火の粉からエルムたちを守ったとされている〉


 神々の戦い……北欧神話の中にあるラグナロクというやつだろうか。

 不勉強なので、そのラグナロクのことは俺はよく知らない。


〈伝説では、世界樹が燃え尽きたせいで(うろ)は他の世界とは隔離された。その(うろ)がいまのエルムヘイムになったとされている〉

〈伝説ねえ……〉

〈エルムの祖先はそのエルムの木を伐って家を作った。それが街となり、エルムヘイムを作り上げていったということなのだろう〉


 調べてみないとわからないが、エルムヘイム……エルムの家という意味もあるし、楡の家という意味も含まれているということだと思う。


〈エルムたちにとって、住居の材料となって雨風を凌ぎ、世界樹の代わりに育むべき木として大切されるのがエルムの木ということなんだな?〉

〈そのとおり。それはダンジョンでも同じ役割を果たしている〉

〈なるほどなあ……〉


 北欧神話との関係がいまいちはっきりわからないが、この地球も世界樹の(うろ)の1つだったのかもしれない……などと考えてしまう。

 科学的に地球の成り立ちはかなり解明されてきているから、荒唐無稽な話ではあるのだが、違う世界の伝説と、地球に残る神話に共通点があるのは非常に興味深い。


 これは本格的に北欧神話のことを調べる必要がありそうだ。

 とはいえ、店の営業開始前ということもあって時間をとる余裕がないな……。

 ネット通販で本を買って、電池式のライトでも使えばダンジョンの中でも読めるだろう。


〈ダンジョンの夜でも本を読めるくらい明るい電燈を買おうと思うが、ミミルも欲しいか?〉


 エルムヘイムの伝説を話すことで、ミミルは難しい顔をしていた。でも、いまのひと言でパアッと花咲くように笑顔へと変わる。


〈欲しい。ダンジョンで字の練習できる〉

〈俺もちょっと調べものをしたいんだよ。あとで買うことにするよ〉


 第2層だとダンジョン内の時間は10倍に増える。それだけ文字の練習をできるということだ。彼女が得た加護のせいとはいえ、ミミルの真面目さには頭が下がる思いだ。


〈いろいろ教えてくれてありがとうな〉

〈いや、それはいい。今夜からはダンジョンでラウン探しだ。いいな?〉

〈ああ、店の仕事に支障が出ない範囲で頼むよ〉

〈うむ……〉


 エルムヘイム共通言語での会話が終わり、再度カゴの中の商品を確認して会計へと進む。

 要冷蔵なものを除き、半分くらいは明日の午前指定で配送してもらうことにして、店に戻ることにしよう。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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