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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第3!章 エルムとは
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第304話

 田中君のパン作りは、生地の一次発酵、ベントレーションが終わって成形作業に入った。

 時間は一時を少し過ぎたところで、成形が終わって二次発酵に入ればランチに出ることになった。

 それまでの間に俺は2階の自宅へと戻り、ミミルに声を掛ける。


「昼食を食べに外に出るよ」

「……ん。何食べる?」

「まだ決めていないけど、何か食べたいものがあるのか?」


 すっくと立ちあがったミミルが右手を伸ばし、俺の左手を握る。

 別に家の中で移動するだけなのに、わざわざ手を繋ぐ必要もないが、それだけ気に入られている――ということなのかな。


 ミミルが奥庭に穴を開けて9日目。

 言い換えれば、ここまでの関係になるまでに9日も掛かっているということ。ダンジョン内で過ごした日々を加えれば2週間以上掛かっていることになる。

 俺でさえそれだけ時間がかかっているのに、昨日、今日会ったばかりの日本人と仲良くなれと言うのも酷な話だ。


 などと考えながらも、ミミルに釘を刺しておく。


「明日からはまた人も増えるんだから、がんばって仲良くなるようにしてくれよ」

「ぐむむっ……難しい」


 ミミルの視線に合わせて(かが)み、ポンッと頭の上に手を載せる。手を動かしていないから撫でてはいない。

 だが、なんだから恨めしそう目でミミルが俺を見つめ返してくる。


 見た目は11歳、中身は128歳で、過ごした年月から見れば600歳くらい。

 明らかに自分よりも年下の人たち相手に、百歳を超える人が仲良くできるかと言われると……。


「そうか、難しいか」


 自動車、飛行機、ヘリコプター、自動ドア、エレベーターにエスカレーター等々、ミミルの興味を惹くモノはまだまだ出てくるだろう。それら「初めて目にするもの」に接するときのミミルは子どもそのものだ。

 社会環境などが大きく違うので、精神年齢で比べると一般的な日本人なら何歳くらいと同等になるのかなどわからない。


 俺が同じ立場で、実年齢が百歳も年下の相手と仲良くならなきゃいけないとしたら――確かにどうしていいかわからない。

 ましてやミミルは異世界人。

 共通の趣味や話題があるわけでもないので、まだまだ言葉も不自由だ。


「まあ、無理しなくていい。ただ、隠れてちゃ駄目だ」

「……ん、がんばる」


 階段を二人して下りていく。


 ミミルが会話の()()に困るのなら、俺が作ればいい。


「終わったかな?」


 厨房の扉を開き、田中君に声を掛ける。

 裏田君はこの間、低温調理器の使い方や付属のレシピ集を開いて見ていたようだ。


「はい、終わりましたよ」

「じゃあ、ランチに出かけようか」

「はいっ」


 田中君は元気よく返事をすると、エプロンを脱いで小走りで2階へと向かった。出勤時に着ていた白のカーディガンを取りに行くのだろう。

 確かにミミルが言うとおり、体格の割に胸が大きい。

 かなりゆさゆさと縦方向に揺れていた。


「オーナーはどこの店がええとかあります?」

「なんでもいいぞ。まあ、少し和食が食べたい気分だけどね」

「そうですねえ……僕も昨日の朝はパン、昼はパスタ、昨夜は一緒に食べ歩いて、今朝もパンですわ。ちょっとお米が恋しいですわ」

「ああ、俺もだよ」


 ランチメニューはもうほぼ固まっている。

 パスタとピッツァに関しては明らかに他店とも被る内容だが、夜のメニューからピンチョスを加えて出すことで差別化できる。他は自家製のパンを使ったボカティージョやパニーニといった軽食系メニューだ。

 あとは他店の情報をリサーチするなら価格と内容を中心にして、どの程度の価格帯に抑えるべきか考えることにしたい。


 厨房の扉を開き、田中君が戻ってきた。


「――お待たせしました」

「ああ、田中君。パンが焼けたら、試作がてらドルチェを何か作ってやってくれないか? 材料はランチのついでに買えばいい」

「え、ええ。いいですよ」


 田中君が俺と同じように前かがみになってミミルに話しかける。


「ミミルちゃんも甘いもん好きなん?」

「ん。甘いの好き」

「うちと一緒やねえ……」


 ミミルの視線が気になって目を向けると、明らかに田中君の顔ではなく、胸元へと視線を落とし、襟から覗き込むように視線を送ってはプルプルと拳を震わせている。

 初潮前にダンジョンに入った人たちばかりが周囲にいる世界だと見慣れないのも理解できるが、だからと言って毛嫌いし続けていると地球の女性との共存が難しくなるだけだ。

 実際に攻撃したりするようなことはないと思うので問題はないと思うのだが、困ったものだな。


「そうや、一緒に作ってみたらどうです?」


 裏田君が俺に目くばせしながら面白いことを提案してきた。

 まあ、店で出す料理ではないので駄目とは言わない。それで田中君の練習になるというなら問題ないとは思う。


「一緒、つくる……いい?」

「ああ、いいぞ」


 田中君も上目遣いに頼むミミルの願いを断ることなんてできるわけもない。

 どうやらミミルも料理には興味があるようだ。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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