表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第30章 田中桃香
350/594

第300話(田中視点)

 オーナーが慌てて後ろに向かはる。

 誰のことかと思たけど、オーナーの視線の先には電柱があって、奥に女の子が隠れたはった。


 電柱のとこまで移動してオーナーが連れ出してきたのは、銀色の髪をしたえらい色の白い女の子。見た感じやと小学5年生くらいかなあ……。

 ずっと俯いたままで、うちのことを見ようともしはらへん。


「田中君、娘のミミルだ」

「えっ、あ、えっ?」


 こ、この子がオーナーの娘?


 顔は見えへんけど、明らかに日本人離れしたスタイルしたはる。

 あ、今度はオーナーの後ろに隠れはった。えらいはしこい子やわあ。


 オーナーは軽く格闘するように少女――ミミルちゃんを自分の前に引っぱり出して、少し無理矢理に顔を上げさせはった。

 透き通るように白い肌に、髪とおんなじ色の眉、睫毛。臙脂(えんじ)色した大きな瞳は(うるん)んでるみたいにキラキラと輝いたはって、ちょっと神秘的な感じで……すごくかいらしい。


「ちゃんと挨拶してくれよ」

「……ん」


 か細い声で返事して、うちに向かってペコリと頭を下げると、ミミルちゃんはまたオーナーの手の間からするりと逃げる。


 うーん。なんか、うちのこと警戒したはる?


「すまん、まだ日本に慣れてないせいもあって人見知りなんだ」


 日本に慣れてへんということは、海外から来たっていうこと?

 オーナーは東京にあるホテルのイタリア料理店の副料理長をしたはったはずやけど……外国に妻子を残して日本に帰国したはったんやろか?


「あ、うちも自己紹介しなあかんね。うちは田中桃香(とうか)って言います。よろしくね、ミミルちゃん」

「……ん」


 オーナーの腰のあたりから片目だけ出して――なんか爪先から頭までじっくりと観察されてるみたいな気になってくる。なんやろ、妙に胸元に目線を感じるわあ。


「そんな怖がらんとお、仲良うしてね」

「……」


 うち、嫌われるようなことはしいひんし、大丈夫やと思う。けど、返事があらへんし、なんか嫌な()ができてしまうと気まずうなりそうで怖い。


「まあ、取りあえず店に入ろうか」


 オーナーも気まずうなりそうな空気を察しはったんか、店の鍵を開けてくれはる。そのまま流れるように扉を開け、うちが入るんを待ってくれたはる。


「さあ、遠慮せずに入って」

「あ、はい」


 同い年くらいの男の人はこんなことしいひんし、気い付いたらオーナーのことぼんやりと見つめてしもうてた。

 恥ずかしいわあ……。

 こういうのが……年長者の余裕っていうやつやろか?

 こんなことを息すんのとおんなじようにできる男の人って、やっぱしええなあ。


 店の中は()()の木いを使(つこ)うた匂いがしたはって、空気を胸いっぱいに吸い込むとなんか心が落ち着く気いがする。

 店の入口から奥にはずっと通り庭が続いたはって、その右手に見えるのが客席。京間やから元は8畳や6畳の部屋でも、えらい広う見える。

 真っ白な漆喰が塗られた壁に、煤けた古い柱、その煤けた色に合わせたかのようなダークブラウンの床板が一面に貼られた客席。

 変に飾りのない落ち着いた感じのバーカウンターに、()()のエスプレッソマシンがキラキラと光ってる。


「店の鍵は明後日、警備会社が工事をしたら渡す。いいかな?」

「あ、はい」

「今日は特に料理とか、洗い物をすることも少ないからそのままでもいいが……どうする?」

「え、えっと……き、今日の予定は決まってるんですか?」


 なんか、まっすぐな目で見つめられると思わず言葉に詰まってしまう……。


「とりあえず、役割分担をはっきりとすること。それから、メニューの検討、必要な食材、機材の洗い出しかな。あと、今日は少し工事が入る。ランチは近所で済ませて、夕方から挨拶回りに出るつもりだ」

「わ、わかりました。調理器具を見してもろうてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ。足りないものがあったら早めに頼む」

「は、はい……」


 ちらりとオーナーの背後に隠れたミミルちゃんへと目を向けると、何やらジトリとした目でうちのことを見つめたはる。


「そうそう、低温調理器って必要かい?」

「あ、あると嬉しいですね」


 のおてもええけど、菓子……特にチョコレートのテンパリングのときは一定温度を保って調理できる低温調理器があると嬉しい。

 他にも風味が落ちひんように、低温で調理すると美味しいものがあるし……。


「何台欲しい?」

「えっと……」


 Vサインやないけど、オーナーに指を2本立ててみせる。

 チョコレート用、ミルク用。最初は2つあったらええと思う。


「2台ね。後で裏田君にも確認してどうするか決めることにするよ」

「はい、ありがとうございます」


 厨房の扉を開き、中へと足を進める。

 まず目に入るのは大きなピザ窯。窓際にはガスオーブンとコンロが並んだはる。これは肉や魚を調理するためのオーブンかな。

 こっちにあるのがパンとケーキに使うオーブンで、隣にあるのは発酵器。ミキサーも用意したある。


 ()()の調理器具が並んでるん見てたら、ワクワクしてくる。


「パン生地の老麺を用意してるから、少し焼いてみるか?」

「ええんですか!?」


 いままでにないくらい、弾んだ声で返事してしもうた。

 は、恥ずかしいわあ……。


【京ことば】

えらい/えらく:[共]とても

かいらしい  :[共]可愛らしい

~〇ひん   :[共]~〇ない(〇に入る言葉の子音が〝い〟の場合のみ)

はしこい   :[共]すばしっこい

さら     :[共]新しい

のおても   :[共]なくても



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ