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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第30章 田中桃香
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第295話

 俺は改めてミミルの方へと身体を向け、居住まいを正して話しかける。


「ミミル。地上では魔法は禁止だが、裏田君以外には空間収納を使うところも見せてはいけない」

「ん。地球の人間、魔法と空間魔法使えない。だから見せない。違う?」

「なんだ、わかってるじゃないか」


 ミミルも自分なりに節制していた……ということなのだろう。

 実際に裏田君の前で空間収納を使ったときは既にダンジョンの中に入った後だからな。


「ん。地球人は加護ない。加護ない、魔法や技能、使えない」


 確かに俺の店以外にダンジョンがないから、地球では俺以外の誰も加護を得ていない。


「だから、地球人の前で魔法や空間収納を使うと驚かすことになるし、その仕組みを解明したいと思う人が出てくる。特に空間収納は地球人の生活が一変するほどの技能だ」


 魔素に魔力で干渉して一時的に空間を歪めるのが空間魔法。空間収納は空間を歪めて異空間へと繋ぐものだろう。

 それを現代科学で実現することは不可能だと思うが、科学者はそれを実現できれば名誉名声と莫大な富を得る可能性があるわけだ。


「研究するためにミミルを施設に閉じ込めるだろうな」

「……ん。わかった」


 普段、抱えきれないほど買い物をしていて、キャンプ用品などは宅配してもらったくらいだ。

 だが、空間収納を当たり前のように使うことができれば、宅配を使う機会が一気に減る。その便利さを考えれば、ミミルにも俺と裏田君以外の人間に空間収納のことを知られる危険性が理解できたのだろう。


「不自由だと思うが、我慢してくれよな」


 少し安堵の吐息を漏らし、ミミルに向かって告げる。


「取り出すもの無い。大丈夫」

「そうだな。どうしても取り出す必要がある場合は、2階の部屋で出せばいい」

「ん。そうする」


 基本的に2階の居室なら俺とミミル以外は出入りしない。先日発注した梯子を取り付ける作業くらいのものだろう。

 ミミルが2階にいる間に食事を運んだりするのにスタッフが入ることがあるかもしれないが、空間収納を使う頻度は高くないから大丈夫だろう。


「じゃあ、少し眠っておくか?」

「時間なったら起こす。いい?」

「ああ、大丈夫だ」

「……ん」


 ミミルは小さく頷くと、俺に背を向ける。


「おやすみ」

「ん。おやすみ」


 自宅のベッドで寝るときは部屋を真っ暗にするが、ダンジョン内の――特に部屋の中で寝るのは久しぶりな気がする。

 第2層では楡の木(もど)きの下に設営したテントの中だったからな。


 簡易ベッドに横たわるミミルの背中はとても小さい。

 俺よりも100年近く長く……ダンジョン内での生活を合わせると600年も生きているとは思えない。

「華奢」という言葉がぴったりだ。


 明日、明後日を乗り切らないと、ミミルのことを守り切るなど到底できない。


「明日からの生活は気を抜けそうにないな……」


 小さく呟くと、俺も目を閉じて眠りについた。



 約7時間後、事前にセットしたスマホのアラームで目を覚ます。

 ミミルはスマホのアラームなど気づきもせずに眠っている。知らぬ前にこちらへと向きを変えているが、狭い簡易ベッドの上で寝がえりを打つとは器用なものだ。


 そっと起き上がった俺は、ミミルの(そば)にしゃがみ込む。

 陶器のような白い頬には肌に張りと艶があって、とても合計で六百年も生きているようには見えない。

 そして何よりも美しく、可愛らしい。


 気が付けばそっと指先でミミルの頬を(つつ)いていた。

 ぷにぷにとした感触は、小学生の頃に肩を叩いて振り向くと指先に頬が当たる悪戯(いたずら)をしていた頃のことを思い出させる。


 調子にのって2回、3回とミミルの頬を突いていると、突然ミミルの目が開いた。


「……むぅ」


 弛緩しきった表情から、とても怪訝そうに俺を見る表情へと変わり不機嫌そうな声をミミルが絞り出す。


「お、おはよう。起こせって言われたからさ……」

「声かけた?」

「あ、うん。もちろんだ。お、起きないからちょっと頬を突いてみただけだ」


 簡易ベッドの上で身体を起こしたミミルは、ジトリとした目線で俺を見つめる。


「しょーへい、嘘、下手」

「う、嘘なんて吐いてないぞ」

「動揺。言葉つまる。視線、およぐ」

「う……」


 実際、嘘を吐いていたわけだから仕様がない。

 自分に自信がないときに相手の目を見ることができないのも昔から変わらない。


 不器用でもいいから、必要のない嘘など吐かず、正直に生きようと思ってきた結果だから悪いことではないと思う。

 (むし)ろ、堂々と嘘を吐いて人を騙すようなことはしたくない。


 ミミルはまだ眠かったのか、息を大きく吸い込むと、声を殺して欠伸をする。

 ちゃんと口元は手で塞いでいるところは大人の女性らしい気がする。


「すまん。可愛かったのでつい……」

「なっ!」


 ミミルは一瞬で茹でたように頬や耳を赤く染め、俺の胸元を殴ろうと手を振りかざした。

 軽く()()るようにしてミミルが振り下ろす拳を避けると、俺はそのまま尻もちをつく。


「避ける、ダメっ」


 俺は逃げることもできず、頬を膨らませたミミルからデコピンを食らった。

 エルムヘイムにもデコピンはあるんだな……。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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