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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第30章 田中桃香
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第293話

 2人で地上へと戻り、厨房で低温調理器をセットして準備を済ませる。

 先ずはキュリクスの肉塊に塩コショウをしてフライパンで表面を焼き固めたら、フリーザーパックに入れて水を溜めた調理容器に入れて機械をセットする。

 調理容器に入れる際に水圧でフリーザーパックから空気が抜ける。それを利用して中を真空にするのがコツだ。

 実は取扱説明書に書いてあった。

 後は温度を設定して、一定時間以上放置するだけだ。


「あとは、出来上がるまで3時間ほど掛かるが……どうする?」


 ブロック肉なのでそれなりに時間がかかってしまう。

 地上の時刻は既に1時を回っていて、料理ができるのは明け方ということになる。


「しょーへい、どうしたい?」

「ずっと起きているわけにもいかないし、ダンジョンの第1層で寝るのがいいんじゃないか?」


 地上の三時間はダンジョン第1層で15時間、第2層なら30時間になる。ダンジョン第1層に移動して7時間くらい寝てくれば、地上では1時間半程度経過することになる。

 今から第2層に移動して片付けを済ませ、第1層に移動して寝るとなると地上時間で2時間は掛かるだろう。


「ん。それがいい」

「じゃあ、そうしようか」


 第2層で1日中待ち続けるのはミミルも嫌なのだろう。すぐに良い返事を貰えた。


 低温調理器の場合、温度は一定に保たれるので設定温度以上になることがなく、火が入りすぎるという心配はない。

 だが、出来上がる時間には戻ってこれるので問題ないだろう。


 片付けを済ませ、俺とミミルは広げたテントや簡易ベッド、テーブルなどを収納するために第2層へと戻った。


 体感で30分くらいだろうか。

 第2層から第1層へと移動した俺たちは、転移石が置かれた部屋の中に簡易ベッドを並べ、寝転んでいた。


「そういえば、ミミルにちゃんと話していなかったな」

「……なに話す?」

「昨日は裏田君が出勤してきたが、今日は田中君が出勤してくる」

「たなか?」


 ミミルの表情が曇る。

 漸く裏田君とも話ができるようになったばかりだというのに、新たに1人増えるとなるとまた心配なのだろう。


「そう。田中桃香(とうか)――今年で24歳の女性だ。仲良くできるかい?」

「たなかとうか……どんな、ひと?」


 どんな人か……かあ。説明が難しいな。


「そういえば、ミミルはまだ和菓子を食べてないんだったな。一昨日、神社で買ったお菓子があっただろう?」

「ん。まだ食べてない」

「そうだな」


 ミミルが1人でダンジョンに入るということがなかったので、食べる機会がなかったのだろう。


「出してくれるかい?」

「ん。これ……」


 ミミルから手渡された白い箱の蓋を開けると、6つの白い餅が入っている。豊臣秀吉も食べたと言われる歴史ある大福のような餅だ。打ち粉された表面は少し斑になっていて、中に包まれた餡が薄らと透けている。

 これに合わせるなら緑茶がいいと思うのだが、残念ながらミミルの空間収納には入っていない。


「あっ……」


 目の前に置かれた菓子の箱を前に思わす声が出てしまった。

 オーダーの箸を買ったときは、一緒に飯茶碗と汁物椀しか買っておらず、湯飲みを買うのも失念していた。

 俺はコーヒー党だからなくても構わないが、こうして和菓子を食べる機会が増えるなら緑茶を飲めるようにしておくのも悪くない。


「しょーへい、どうした?」

「お茶がないと思ってな。紅茶しかないだろ?」

「ん。待つ」


 ミミルは空間収納から飲み物を取り出していく。

 厨房の冷蔵庫には缶コーヒーと缶ビール、ペットボトルに入った無糖の紅茶、スポーツドリンクなどがあるくらいで、緑茶系の飲み物は入っていなかったはずだ。

 ミミルと一緒に入ったコンビニでも、いままでに緑茶は買っていない。


 ミミルが並べたものを見ると、やはり缶コーヒー、ペットボトルの無糖の紅茶にスポーツドリンク、コーラ、炭酸水というラインナップだ。

 もしかするとビールも入っているのかも知れないが、ミミルが出さない以上は確認の仕様がない。

 地上に戻って空き缶の数と冷蔵庫の中身を確認すればわかるかも知れないが……。


「俺はこれにするよ。ミミルは?」

「ミミル、これ?」


 一応、俺はブラックコーヒーを選んだのだが、何故かミミルはコーラを指さした。


「飲んだことない。おいしい?」

「合わせる料理次第だと思うぞ。それよりも、こっちの紅茶か、無糖のコーヒーが合う」


 甘いあんこにコーラやスポーツドリンク、炭酸水は……あまり想像したくない。ミミルは俺たち人間と近い味覚を持っているようなので、念のためアドバイスをしておく。


「じゃあ、ミミルもこれ」

「おう」


 ミミルが指した缶コーヒーを手に取り、プルトップを引いて渡す。ミミルなら素の力で開けられるはずだが、力加減がわからなければ飛び散りそうだからな。


「にがい……」

「甘いものと食べると丁度いいだろ?」

「ん。かもしれない」

「話は戻るが、田中君はチョコレートやケーキを専門に作るパティシエール――お菓子の専門家なんだよ」


 コーヒーの苦さに歪んだミミルの顔が、その言葉を聞いて一気に花咲くような笑顔になった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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