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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第30章 田中桃香
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第291話

 20分後、俺とミミルはダンジョン第2層にいた。

 理由は地上だと考えている間に時間がどんどん過ぎてしまい、寝ずに朝になっていまいそうだからだ。


 お酒も入っていることだし、特に入口周辺にいるキュリクスを狩ったりする必要もないので、祭壇状になった場所でテントを張る作業をしている。


「ミミル、食材を台の上に並べてくれるかい?」


 日本語をもっとスムーズに話せるようになってもらうにはダンジョンの中でも日本語で話す方が良い。

 ミミルとしてはずっと日本語で話さないといけないというのはストレスかも知れないが、時期を見て肩の力を抜いて話せる環境は用意してやりたい。


「もう何か食べる?」

「いや、持ち込んだものの中で、何が残っているのか知りたいだけだよ」

「……ん」


 ほんの数時間まで酒を飲み、料理を食べ歩いていたのだ。

 食材を出せと言われると、さすがのミミルも少し驚いた顔をしていた。

 キャンプ用品を持ち込んでダンジョン内で生活するようになってから数日。パスタ生地やピッツァ生地も半端に残ったままミミルに持ってもらっているし、不足しているものがあれば補充を考えておきたい。


「これでいい?」

「ああ、ありがとう」


 タイミングよくテントの設置も終わり、簡易テーブルの上に並んだ食材を確認する。


 バケットが3本、パスタ生地が2玉、ピッツァ生地が1枚分。

 魚は舌平目に真鰯、シャコ、剣先イカ、アオリイカ、冷凍のムール貝とアサリ、スカンピ……他にもボッタルガやアンチョビ、パルミジャーノ・レッジャーノ、ゴルゴンゾーラなども並んでいる。各種野菜もたっぷりと残っている。


「なんでこんなに色々と買ったんだろうな……」


 ダンジョン内で食べるにしても、種類も量も多すぎる。

 いくらミミルの空間収納の容量が大きく、時間が経過しないといっても買いすぎだよな。

 それに、店で生パスタを出すつもりだったとはいえ、ダンジョンで食べる分くらいは乾燥パスタを買っておけばよかった。


 ポケットからスマホを取り出して、メモに起こしていく。どの食材がどの程度残っているかを把握し、随時補充する――これは料理人としての習慣だ。

 空間収納に入っている限り無駄になることはないとわかっていても、また追加で買ってきたりしたときに重複すればどんどん増えていくからな。


「なにしている?」

「いや、何がどれくらい残っているか書いているんだ。把握していないと買い足したときに増える一方だからさ」

「まめ……」


 興味深そうにスマホの画面を覗き込もうとしたミミルだが、メモをする目的を聞いて少し呆れたような声を漏らした。

 エルムヘイムでは「無駄にすることが贅沢」と考える文化もあると以前聞いている。ミミルにしてみれば「いくらでも入るのだから気にする必要などない」といったところなんだろう。

 だが、地上で買い込んでくる際の費用は俺が全て支払っている。重複してどんどん食材が貯めこまれていくということは、俺の資産がそれだけ減っていくということだ。死ぬまで遊んで暮らせるほどあるとは思うが、減る一方というのはどうも気持ちのいい話ではない。


 問題はこの残った食材だ。下手に開封して魔素を浴びた食材を他の人に食べさせるわけにもいかない。今後も第3層やそれ以降の攻略をしたりするのだろうし、ダンジョン内だけで食べる前提で考えていればいいだろう。


「た、食べ物、不足ある?」


 妙にミミルが不安そうに訊ねてきた。

 数日間、ここで過ごすというのであれば明らかに不足しそうだが、メニューのことを考えるだけであれば問題はないはずだ。


「朝食分くらいならあるから大丈夫だよ」

「ならいい」

「もう仕舞っても大丈夫だぞ。ありがとう」

「……ん」


 頷くと、ミミルはテーブルの上に広げた食材を空間収納へと仕舞っていく。

 朝食にするなら、野菜もたっぷりあるし、肉もある。なんなら、以前ミミルに見せてもらったヴェータとやらを試してみるのもいいだろう。


 そんなことよりも、名物メニューを考えなければいけない。


 簡易ベッドを広げ、その上に寝転がって名物メニューを考えることにする。

 ちらりと目を向けると、ミミルは空間収納から樽に入ったものを取り出して並べている。

 先日の話からすると、魔物の皮をタンニン鞣しにでもしているのだろう。ドラムを使わないタンニン鞣しはひと月ほど掛かるから大変だな。

 俺が考え事をしている間、ミミルにもやることがあって良かった。暇そうにしていたら気を使って考えるどころじゃない。


 さて、思考をメニューのことに向けるとしよう。

 これまで整理してきた中で、昼のメニューの前菜に夜のメニューから三品ほどピンチョスをつけるというのは確定でいいだろう。

 だから、夜のメニューとランチにつける前菜はリンクする。

 それとは別に、「〇〇を食べるなら羅甸(ラテン)に行かなきゃ」と思ってもらえるメニューを考える。


「うーん、他に京名物って何があったっけな……」


 溜息の後に真っ青な空にぷかりと浮かぶ雲を眺めながら独り言ちた。


ヴェータ:第214話に登場する、小麦と米の間のような植物の種子(胚はない)です。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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