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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第29章 メニュー
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第288話

 とても空気を読むのが上手いのか、裏田君はミミルが爆発する寸前にひらりと背を向けて駅の方角に走っていった。

 どんどん小さくなっていく裏田君の背中を見つめながら、溜息のあとに呟く。


「酒飲んだのに大丈夫かよ」


 ミミルは少し険しい顔をしていたが、俺を見上げると眉尻を下げた。


「ミミル、子ども違う」

「そうだな……」


 手を繋いだまま、ポケットから鍵を取り出して店の扉を開く。

 俺がミミルよりも先に1歩進み、中に入った。


「さて、風呂入れるか」

「しょーへい」

「ん?」


 ミミルがか細い声で、心配そうに声を掛けてくる。

 裏田君を実際にダンジョンへ連れて行ったりしているので、特に心配ないことはミミルも理解しているはずだ。だから、この心配するような話し方は気になる。


「どうした?」

「しょーへい、悩んでる?」

「あ、うん。まあ……そうだな」


 店のことをミミルに話すのはどうか……ミミルに何かいいアイデアがあるとは思えないな。

 だが、話をすれば俺の中でいろいろと整理できる。いや、ミミルの前で独り言を続けるようなものだ。


「ミミル、話しかけた。しょーへい、聞こえてないかった」

「ああ、ごめんな」


 この1週間、ミミルの相手ばかりしていて、後回しにしてきたことが多すぎたんだと思う。まあ、それを選んだのは俺自身だから、ミミルに迷惑を掛けるというのもまた違う話だ。


「あとで話すから、まずは風呂の用意するよ。2階に行こう」

「……ん。絶対話す、いい?」

「ああ、もちろんだ」


 ミミルの肩をそっと抱き寄せ、ほんの僅かにギュッと抱きしめるように軽く力を入れる。

 一瞬抵抗して全身を強張らせるミミルだが、すぐに身体を預けてきた。

 後に続ける言葉は出さなかったが、俺が信頼していることを感じ取ってくれたのだろう。


 十数分後、俺は自室でミミルが風呂に入りに行くのを見送ると、ソファに腰かけてメモ帳を手に取った。


 先ず見直すのはランチメニュー。

 今日、挨拶回りをした店は4軒だが、2軒目と4軒目の店はランチ営業をしていなかった。

 共に夜の営業に力を入れるためだろう。あのスタッフの数でランチも回すとなると、仕込み作業を考えると寝る暇もないことだろう。


 逆に1軒目はチェーンの本店で、生パスタを使ったランチメニューだ。数店舗分を製麺所や工場でまとめて作っているなら、可能だろう。

 モチモチとした食感は最大の特徴だが、店側の人間から見た生パスタの最大の利点は茹で時間の短さにある。

 乾燥タイプのタリアテッレやフェトチーネの場合、乾麺なら茹でるのに6分から7分程度掛かる。だが、生パスタなら3分から4分。スパゲティの場合は乾麺で7分から9分、生パスタなら2分から3分だ。

 それだけお客さんを待たせることがなく、客席の回転率が上がる。とはいえ、食後のコーヒーを提供していれば回転率は誤差程度しかないが……。

 3軒目はカフェスタイルの店で、ランチはパスタとサラダのセットだけという感じだろう。これは後日、食べに行けばわかる。


 さて、それを踏まえてランチメニューの見直しだ。


 これまでの予定ではパスタランチにピッツアランチ、そこにパニーニやボカティージョのランチ。パスタランチにもう1品加えたミニコースランチ。


 客席がどの程度のペースで回転するかは不明だが、20分から30分で1回転すると考えると、オフィス街なら12時前から13時過ぎの間で3回転すれば御の字というところだ。

 40ある座席の使用率を7割と設定すると、28人の客が3セット……84人分を1時間半の間で作り続けることになる。


 ソースを事前に仕込んでおけば、生パスタなら1皿あたり8分程度もあれば提供できるし、同時に3から4人前を作ることができる。最初は乾麺で作るつもりだったが、効率的には生パスタの方がよさそうだ。

 ピッツアもうちの窯なら2分程度で3枚まで焼けるし、パニーニやボカティージョは仕込みさえできていれば素早く対応できる。


 提供する商品としてはとてもいいと思うのだが、「思想」がない気がする。


 いつ(When)

 どこで(Where)

 誰が(Who)(に)

 何を(What)

 何のために(Why)

 どのように(How)


 メモに書いて5W1Hを明確にするところから始める。


 まず、いつ(When)というのはランチタイム。どこで(Where)は俺の店だ。誰が(Who)(に)は客層を意味していて、近隣の会社に勤める人や、観光客が該当する。

 次の何を(What)は今回のテーマだから、次の何のために(Why)だが……。


 ――俺は()()()()()ランチ営業をするのか。


 普通なら、店が軌道に乗るまでの間は夜の売上だけでは運転資金に不安がある――というのはとても自然な考え方だと思うが、うちの場合は違う。

 もちろん、漠然と「ランチタイムも稼ぎ時だから営業するべきだろう」などと思ったわけでもない。


 町家を改造した店というのは、歴史と高級感を漂わせるせいもあり、看板が出ていてもなかなか入り(にく)い。

 別の言葉にすると、()()()()()んだ。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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