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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第29章 メニュー
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第281話

 十数分後、俺たちは服を着替えて店を出た。

 夕方ということもあり、肌寒くなるかもしれないと長袖のTシャツを着こんできた。

 ミミルは最初に買い与えた淡いグレーのワンピース。白いスニーカーだ。

 とてもシンプルな服装なんだが、やはり似合っている。

 この感じだと黒のブーツなんか履かせるのも似合いそうだ。黒のニット帽なら耳をすっぽり覆えるし、一緒に買いに行くかな。


 18時前……西日で日陰になった道路をミミルと手を繋いで歩く。数歩先にはバレーボールやバスケットボールの選手のような体格をした裏田君が歩く。


「ほんと、背が高いよなあ」

「いやいや、オーナーも180くらいありますやん」

「その俺が見て高いって言うんだから、相当だと思うが……」

「裏ちゃんは巨人」


 ミミルが裏田君のことを巨人認定しているが、「巨人族だ」とは言わなかった。

 エルムヘイムにはいろんな世界から集められた種族がいるという話は裏田君に必要ないと思って省いている。ここで巨人族という言葉を使えばまた説明会が始まるところだったろう。


「きょ、巨人て……」


 裏田君が呆れたような声を漏らす。


「何かスポーツしていたのかい?」

「高校まではバレーやってました。高二の頃に怪我してしもて……」

「そうかあ……」


 どうも体育会系のノリで話してくるので間違いないとは思っていたのだが、当たりだったようだ。この身長ならかなりいいところまで行ったんじゃないだろうか。


「スポーツ系でスカウトしてもろうて進学するような学生は授業の時間以外はずっと部活やさかい、アホばっかりですねん。そのアホが怪我してしもたら、潰し効きまへん。手に職、付けよう思て料理人なったんです」

「天職だったろ?」

「ええ、そうですねん」


 こちらを向いて笑顔をみせる裏田君。

 30過ぎの男の笑顔に使うのはどうかと思うが、「無邪気」という言葉がぴったりだ。


 軽く雑談をしながら更に数分歩き、俺たちはある店の前に立っていた。

 この界隈で数店舗の支店を持つイタリア料理店――その本店だ。

 正面右側に階段があって、2階、3階席があることが見てわかる。入り口は格子戸になっていて、この街らしさ――のようなものを感じる。


 裏田君が先頭を切って店の中へと入っていくと、すぐに座席へと通される。


 扉の中は異世界だ。


 白い漆喰が塗られ、緩やかなアーチを描く天井。室内だが壁側からイタリア瓦が小さな軒先を作っている。壁にはイタリアのどこかの街をモチーフにした赤壁の店が並ぶ絵が描かれていて、路地をイメージしたようなタイル張りの床にはテラス席のような金属製のテーブルと椅子が並ぶ。街灯が描かれているのだが、その先に現実の電灯がついているところは実に芸が細かい。


「どこかわかります?」


 裏田君が壁の絵を指さして訊ねる。

 正直、正解するのは難しい。

 ローマやナポリのような大きな街なら絵にあるような背の低い建物は少ないし、壁を赤く塗られた建物もあまりない。

 ただ、この店は高校生時代に何度か来たことがある。南イタリア料理が中心だったような気がする。


「難しいなあ……ナポリの旧市街に似た感じだな」

「おおーっ!」

「おおーっ」


 裏田君が手を叩きながら大袈裟に反応すると、何故かミミルがその真似をした。

 なぜ真似をするのか解らないが、恐らく裏田君の真似なんだろう。


 ナポリの旧市街、サン・グレゴリオ通りの辺りだと絵にあるような4階建てくらいの建物が残っていたはず。赤い壁の店もある。

 足元は完全な石畳というやつだが、そこは室内だから仕様がないだろう。


「正解は?」


 このあたりの店でいろいろと経験を積んだ彼のことだ。ここの店主や店長から聞く機会があったのだろう。


「知りまへん」

「知らんのかいっ!」


 完全にクイズだと思っていたので、反射的にツッコミを入れてしまった。

 だが俺もお笑い芸人たちが繰り広げる漫才やコント、喜劇などを見て育った人間だ。こういう型に嵌った遣り取りが決まるとつい頬が緩んでしまう。

 目を遣ると、裏田君も同じようにニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「しょーへい、裏ちゃん、へんなやつ」

「ええっ!」


 どうやら、裏田君もミミルに()()()()に認定されたようだ。

 正直な話、ミミルの()()()()()()の基準がはっきりしていないので、俺たちから見てどのレベルならミミルに認定されるのかがわからない。

 地球の男なんてミミルから見ればすべて変な奴なのかも知れないが……。


 とても賑やかなことだが、三人揃って席に着き、漸くこの店のメニューを開く。


「裏田君も先ずはビールでいいかな。ミミルは……」


 頷く裏田君を横目に視線をミミルに向けると、機嫌悪そうな顔をして座っている。

 また自分だけ仲間外れにされる感覚が不愉快なのだろう。いや、単に自分もアルコールを飲みたいだけなのかも知れない。


 それでも酒を飲ませるわけにはいかない。

 いつもウーロン茶ばかり頼んできたので、そろそろ飽きてきたことだろうし、今日のところはブラッドオレンジでも頼んでみるとしよう。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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