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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第2章 いざダンジョン

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第20話(上)

 ゴツゴツとした岩や小石が一面を覆い、枯れたような草がまばらに生えているだけの荒涼とした風景が広がっている。

 高地にあって冷涼であるものの、ほとんど降雨がない環境。

 だが、そこには周囲の環境をまるで無視するかのように切り揃えられ、整えられた石を組んだ穴があった。穴の縁石には文字らしきものがいくつも彫り込まれていて、何やら呪術性のあるものに見えてくる。

 外から見ると薄暗い――だが、仄かに壁面が発光していて中に入ると明るく、見通しは悪くない。


 階段を降りた先には、ローブを着た男女が四名立っていた。ローブはこの穴に入る前に見た景色に溶け込むような色をしている。


「遅い……遅すぎます。姉さま……」


 ダンジョンの入口に最も近い場所に立っている少女が心配そうに声を上げる。


「フレイヤも心配性ね……きっと大丈夫よ。ミミルは何度も封印に成功しているんだから、何も問題はないはずだわ」


 フレイヤと呼ばれた一際小さな少女の肩を、近くに立っている少女が後ろからそっと抱きかかえる。


「ありがとう、ローネ。でも、姉さまに限って、封印にこんなに時間がかかるなんてことはありえませんわ。

 何かあったのかもしれません。それこそ……」

「大丈夫ニャ! ミミルが失敗するはずがないニャ!

 この、エオリアが保証するニャ!」


 エオリアはフレイヤに向けて親指を突き立て、薄い胸を張って自信満々に話す。


「そうよね。これまでも間違いはなかったもの。大丈夫よね……」


 皆の言葉にフレイヤは自分自身を納得させるように呟いた。

 そして、頭半分くらいは大きい唯一の男性が前に出て声をかけようとする。


「ああ、だ――」

「ティル、あなたは黙ってて! 理屈っぽすぎて、面倒臭いから」


 ティルの言葉を遮ったのはローネだ。


「え? あ、う、うん……」


 不満いっぱいの表情で「扱いが酷いな……」などとブツブツと文句を言いながら、ティルは一歩引き下がる。


「とにかく、ミミルを信じて待ちましょう。ね?」


 ローネが再度フレイヤに優しく声をかけたそのとき、四人の前にある転移石の色が突然失われた。


「え?」

「はぁ?」

「なにっ!?」

「ニャニャニャ?」


 それぞれに驚きの声を上げると、そこに心音まで聞こえてきそうな静寂が訪れる。


 転移石の光が消える……これは、この転移石からダンジョンへの接続が途切れてことを意味している。


 ほんの数秒の沈黙。

 だが、その状況を理解しようとする四人にとってはとても長い時間。


「いやぁぁあああああああ!!」


 突然、フレイヤの叫び声が室内に響き渡った。

 ローネとエオリアはあまりの事態に両手で顔を覆い、膝をついて泣き出してしまう。


「姉さまっ! 姉さまっ!! 姉さまぁぁぁぁああああっ!!」


 その中で声を出し続けるのはフレイヤだ。

 姉であるミミルと似たとても大きな目から大量の涙が溢れ出し、フレイヤは転移石のある台座にしがみつく。

 何度触っても、何度叩いても輝きを失った転移石は反応しない。


「うわぁぁぁああああああっ!」


 フレイヤは一歩下がると、腰に佩いた剣を抜き、顔や耳まで紅潮させて転移石に叩きつける。

 鼻水が流れ出し、涙を滂沱のごとく流しながら、剣を叩きつけ続ける。


「返せ! 姉さまを返せっ!! がえせぇぇぇぇええええっ!!」


 焦り、怒り、悲しみ、寂しさ……いろんなものをグチャグチャに混ぜ合わせ、輝きを失った転移石だったものに対してぶつけ続ける。

 普通なら三回も叩きつければ手が痺れ、剣を持ち続けるなど不可能だろう。

 だが、フレイヤは数え切れないほど、その手の剣を叩きつけていた。

 刃は溢れ、歪みが生じていても止まらない。両手のマメが潰れても構わず叩きつけた。


 やがてフレイヤの体力にも限界が訪れたようだ。

 ゼェゼェと激しく息をしながら、崩れるように膝をつく。


「姉さま……」

「もういいだろう……」


 血だらけになった手で顔を覆うフレイヤの両肩を支え、ティルが声を掛ける。


「いいわけないじゃない……」

「そうだな……でも、他のダンジョンもある。誰も諦めはしない」


 ティルの言葉に、ローネとエオリアはハッと気がついたように顔を上げる。


「そうよ、まだ帝国には未踏破のダンジョンがあるわ。ここから近いところにまだ二つ。少し離れれば、あと六つ。

 同じ場所に繋がる保証はないけど、ダンジョンの攻略をしていればいつかは繋がるはずよ」

「任せるのニャ。ミミルはこのエオリアが必ず見つけるニャ!」


「そうね……みなさん、ありがとう。早速近くのダンジョンから攻略していく感じでいい?」

「駄目だ。おまえ、その剣で何を切るつもりだ?」


 ティルの言葉に、フレイヤは足元に落ちている剣を見る。

 歪んでしまっていて、刃毀れだらけだ。


「一旦、フィオニスタ王国に戻って報告。そのあと準備して次のダンジョンにアタックだ」


 フレイヤの肩を優しく叩いて話すティルの言葉を聞いて、三人の少女は順に目線を合わせ、黙って頷いた。


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