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第275話

 落ち着いたところでミミルも色々と思い出すのだが、ウプサラとユプサーラの関係性を示すような話はミミルから得られなかった。

 そもそも地球とは違う文化があり、宗教なども違うのだから共通点を探すほうが難しいだろう。


 いくつか質問を重ねた結果、「たぶん偶然だろう」という結論に落ち着いた俺たちはまた「設定を考える」という作業に戻った。


 まず、多くの女性が好きな占い関係から考えて、誕生日と血液型をどうするかという話になった。これは既にミミルと打ち合わせ済みだ。


「ミミルの誕生日、7月17日」

「あちゃあ」


 どうやら裏田君も山鉾巡行の日に重なるのはきついと思ったらしい。

 最も忙しい時期であまり構ってあげられないが、そこは我慢してもらうしかないと思う。


「あ、うん……どう祝うかはそのときに考えるとして。とりあえず、7月17日で問題ないだろう」

「異世界やから、1年がえろう長いながいとかあらへんのです?」

「そこは確認済なんだ。1年は365日で同じらしい」


 正確には1ヶ月が30日で、12ヶ月。6年に1度だけ閏月があるということだ。そういえば、閏日があるかは確認していないが……まあ、いいだろう。


「へえ、まあ128歳ってほんまに128年も生きてきたっちゅーことなんや……」

「ん、ちがう。たぶん、600年くらい」


 ダンジョンにいる間の時間経過を考えると増えるということなのだろう。そういえば裏田君には話していないな。


「ダンジョンの中は時間の流れが違うんだよ。例えばさっき行った第1層で1時間過ごしても、地上に戻れば12分しか経っていない。ダンジョン内部で過ごした時間を全部足すと、ミミルは600年くらい生きてるってことになるんじゃないかな」

「しょーへい、正しい」

「うわあ……ごっつ長生きですやん」


 裏田君が完全に引いて、ミミルの足元から頭の天辺までを何度か繰り返し確認するように眺めている。

 無理もない、見た目は11歳くらいの少女が600年も生きてきたというんだから頭の中が混乱するだろう。


「あと、血液型も北欧の分布を調べてO型ってことにした。実際に調べてもらうわけにはいかないからね」

「ん、ミミルはO型」

「北欧の分布って、どないなってますのん?」

「A型とO型で8割くらいを占めるらしいよ」

「へえ……」


 今度は関心したような声を裏田君が上げる。

 俺が数日掛けてミミルと話をしたりしながら理解したことなどもまとめて話をしているんだから、情報過多になりかけている気がする。


「あと、学校は……」

「――ミミル、インターナ()ョナルスクールスクールにいく」


 途中まで話しかけたところでミミルが元気よく答えた。

 裏田君は急なミミルの反応に驚いた様子が、すぐに落ち着いて俺へと問いかける。


「へえ、ほんまに行きますのん?」


 俺は一瞬だけ()を置いて、頭を掻く。


「いやあ、国籍がないからたぶん入れないよ。ただ、日本の小中学校とは制度が違うから、絶対に通わないといけないというものでもないらしい」


 日本国憲法に教育の義務というのがあるが、そもそもミミルの外見は小学生というだけのことで、実年齢は128歳なのだから抵触することがない。

 飽くまでも世間体を保つために「学校に通っている」という(てい)をつくるだけのことだ。


「へえ、そうなんやあ……」

「まあ、大学受験とかするって言うなら考えるけどな……」


 ミミルがキョトンとしている。

 学校制度のことについてミミルにはちゃんと話していないので仕方がないが、裏田君も情報過多で整理が追いつかなくなる頃だ。

 学校制度についてはまたゆっくりとミミルに話せばいい。


「俺が数日掛けてミミルから聞き出したことを短時間で話しているから、裏田君も疲れただろう。少し話題を変えないか?」

「ああ、そうしてもらえると助かります」

「客席側に行くか……」


 食器類も洗い終え、拭き取りも済ませている。

 ミミルの話やメニューのことを話を積めていくにしても、座って話せる場所の方がいい。


「そういえば、エスプレッソマシン使ってみてもいいですか?」

「ああ、いいよ。練習がてら作ってみるといい」

「ミミル、かふぇ・()て飲む。裏ちゃん、れんしゅうする」

「カフェ・ラテだな」


 カプチーノという意味では俺もまだ練習が必要。

 ミミルは慣れない言葉を発音する練習が必要だな。


 ミミルを先頭に厨房から客席の方へと移動しようとしたとき、二階の居室からインターフォンの音がした。


「――ん? 先に行っておいてくれ」

「はい、すんません」


 裏田君が申し訳無さそうに客席の方へと歩いていく。

 別に従業員だから裏田君が出なきゃいけないという決まりはないので気にする必要はないのだが生真面目な男だ。


 田中君の出勤は明日だし、確かベランダの梯子工事も明日のはずだ……。


 誰が来たのかと頭を捻りながら店の入口の方へと向かうと、扉の向こうには街で見かける宅配業者の制服らしき服装が見えた。


「ああ、はいはい」


 慌てて扉を開くと、大きなダンボールを持ったお姉さんが立っていた。

 ああ、低温調理器の配達があるのを完全に忘れていたな。


スウェーデン語でウプサラは「サラ地方の上」という意味。ストックホルムは「丸太の(柵で囲まれていた)小島」という意味があるそうですよ。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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