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第273話

 ミミルのことで相談しなければいけないこと。それは明日に迫った田中君への説明だ。ただ、パートとアルバイトの女性陣に対しても同じ説明をしないといけないので、土台のしっかりした「設定」が必要だ。

 俺自身が性格的に嘘を()けないというと、裏田君は違うのかと言う話になるかも知れないが、決してそういう意味ではない。基本的に俺が考えるので、それに対する客観的な意見を出してもらい、対策を考える……そういう形にしたいと思っている。


 食事を終え、食器類を全て食洗機に入れてスイッチを押すと、改めて裏田君へと身体を向ける。


「直近の課題なんだけどさ」

「はい、どうしたんです?」

「うん、裏田君以外のスタッフにどう話したものかと思ってね」


 鍋やフライパン等を洗ってくれている裏田君も、俺が言いたいことに気がついたようで、天を仰ぐ。


「ダンジョンのこと、ミミルの素性そのものが外部に漏れるのは非常に不味い。俺がこうして裏田君だけに話をしている理由も同じなんだけど」

「――国にこの建物、店が取り上げられるっちゅうことですよね。それにミミルちゃんはどこぞの研究所に送られて死ぬまでそこから出られへんと……」

「そんなこと、なる?」


 眉尻を下げ、ミミルはとても心配そうな顔をする。

 そういえば、ミミルの素性が他人に知られたり、地球上で魔法を使ったりした場合、俺たちが具体的にどうなるかという話はしていなかったな。


「なるだろうな。現時点でエルムヘイム人は地球上にミミルしかいない。動物を研究している人からすると髪の毛1本から、排泄物まで全部が研究対象になる。それに、魔法だな……世界各国が興味を持つだろう」

「1週間や1ヶ月で調べられへんから、結局は何十年と研究所みたいなところに缶詰にされてもおかしないやろなあ……」

「しょーへいとはなれる?」


 いまにも溢れ出しそうな勢いでミミルの目に涙が滲み出してくる。僅かな間しか一緒にいないが、とても信頼されているようで嬉しい。


「そうならないよう、今から相談するんだ。ミミルも地上では魔法は厳禁――わかったね?」

「ん、げんきん」


 首を縦に2回振ってミミルは了承の意思を示す。

 ついうっかり……では済まないので、本当に気をつけて欲しい。


「それで、ミミルのことを紹介するにも、娘という選択肢以外のものが見当たらないんだよ」

「そうですねえ。それこそ、誰々さんから預かってる……って話をしたところで、何時になったら戻るんやって話になりますもん」

「うん。幸いにも俺はミミルの見た目の年齢的にも丁度いい時期に南欧にいたから、その頃に知り合った女性と……ってことにしようかと思うんだが……」


 ちらりとミミルを見ると、(むく)れたように頬を膨らませている。

 事前に話したときは納得してくれたと思うんだが……まあいい。


「その女性はどうなったか……って話になりますわなあ」


 裏田君が途中で気になることを指摘してくれる。

 亡くなったという返事がくる可能性があることをコミュ力の塊のような女性陣がミミルの前ですることはないだろう。


「俺の女性関係を訊ねて楽しいかねえ?」

「何言うたはりますのん。オーナーはなんか痩せてシュッとしはったさかい、えらいイケメンに見えます。バイトの若い子は別として、大人の女性にとっては魅力的なんちゃいますかね」

「ん、しょーへい痩せた」


 エルムヘイムから来たミミルの美的センスはわからないので参考にならないが、裏田君の言うとおり俺が痩せたのは確かだ。それが女性に魅力的かどうかは俺にはわからない。


「まあ、魅力的かどうかは別にして、やはり興味はあるよなあ」

「ですねえ……」


 腕を組んで「うーん」と唸りながら冷蔵庫の扉に(もた)れ掛かる。

 裏田くんもシンクの縁に尻を載せて、天を仰いだ。


「そういえば、ミミルの母国語はノルウェーやスウェーデンの言葉に近いことがわかったんだ。同じではなくて()()だけだけどね」

「へえ……」

「俺がいたのは南欧で、ミミルが話すのが北欧の言葉となると不自然だろう?」


 食洗機が電子音を上げて停止した。


「ああ、確かにそうですねえ。オーナーはその北欧の言葉、話せますのん?」

「読み書きはできないが、会話はできる」


 俺は食洗機からトレイを取り出し、布巾を広げて皿を拭き始める。


「ミミル、てつだう」

「お、ありがとう。このフォークとスプーンを拭いてくれ。熱いから気をつけてな」


 業務用食洗機は摂氏80度のお湯で洗浄するので、洗いたての金属類は結構熱い。だから畳んだままの乾いた布巾を渡し、その上にまだ熱いフォークとスプーンを並べた。


「こうして布巾で包むようにして、両手を少し動かしたら隙間から1本ずつ抜き取るといいよ」

「わかった」


 俺は皿を拭きながら裏田君へと話しかける。


「――さっきの続きだけど、やはり修行に来ていた北欧女性との間の子ってことにするしかないかなあ」

「うん、それでええと思います。でも結局は相手の人がどうなったって話になりますやん……どないします?」


 やっぱ、そこだよなあ……。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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