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第271話

 裏田くんがダンジョンの存在を認めてくれたので目的は達することができた。

 ついでにミミルがいくつか魔法を見せたりしていたが、特に俺から裏田君に見せる必要はないと思い、俺の魔法は披露していない。


 暫くダンジョン第1層に留まり、ダンジョンの中のことを説明していると、ミミルの腹の虫がクウと鳴いた。


 少し頬を赤らめ、ミミルは俺のもとへと走り寄ってくると、袖をくいくいと引いて話しかける。


「……おなかすいた」


 仕様がない。丁度、裏田くんが賄いを作ることになっていたから、先に食事を済ませることにしよう。


「悪いけど、ミミルが腹を空かせているようだから続きは食後にしてもいいかな?」

「そうですね。僕もお腹空いてきました」

「ん、おなかすいた」


 先頭を切って階段を下りていくミミル。

 周囲に魔物はいないので安心だが、俺は裏田君を先に行かせて階段を下りていった。


 地上に戻り、店に入るとミミルは俺と裏田君について歩き、そのまま厨房へと入ってきた。


「おひるごはん、なに?」

「裏田君が作ってくれるから待つんだ」

「ミミル()()は食べられないものは無いんですか?」


 心配そうに裏田君が訊ねてきた。エルフと聞いて、野菜や果物しか食べないのではないかと気になっているのだろう。


「大丈夫だ。今のところ嫌いなものは無いな」

「……ミミル、おとな」


 薄い胸を張ってみせるミミルだが、いつものように偉ぶってるようにしか見えない。

 それでもミミルが128歳ということを聞いて、裏田くんは丁寧な口調で話しかける。


「皆んな、僕のことを〝裏ちゃん〟とか〝悠ちゃん〟って呼ぶさかい、ミミル()()も好きなように呼んでくださいね」

「……ん、裏ちゃん」


 たぶん、1番最初に言われた候補だからそれを選んだのだと思うが、裏田君自身はミミルにそう呼ばれること自体、抵抗はないのだろうか。


「いいのか?」

「全然いいですよ。「ちゃん」付けで呼ばれる方が親しい感じしますやん」

「そうだなあ。じゃあ、ミミルも「ミミルちゃん」と呼んでもらった方がいいんじゃないか?」

「年上には「さん」違う?」


 一般には「さん」付けするが、裏田君の説明も正しい気がする。

 それに、周りから見てもミミルちゃんと呼ぶほうが違和感なく、自然に見えるはずだ。


「ミミルはおば……いや、おじい()()とおじい()()()のどちらが可愛い印象を受ける?」

「……おじい()()()

「じゃあ、ミミルちゃんとミミルさん。どっちが仲良さそうに聞こえる?」

「……ミミルちゃん」

「じゃあ、決まりだな」


 ミミルは最初は不満そうにしていたが、自分でぶつぶつと「ミミルちゃん」を繰り返し、頬を緩めた。

 可愛いと言われるのが嬉しいのはエルムヘイムでも同じということなんだろう。


「ほな、料理しますけど。お湯が沸くまで時間かかりますよ」

「そうだな、それまではサラダ作りかな」

「ええ、さっさと始めますわ」


 裏田君が直径27cmあるアルミ製の片手鍋に水を入れ、火にかける。約9

リットルほど入る鍋だ。

 そこに海水塩を袋からがっしりと掴んで入れると直ぐにサラダへと取り掛かった。

 手際よくタマネギの皮を剥き、持ち込んできた包丁で透き通るほど薄くスライスし、ボウルの中へ入れて空気に晒す。

 辛味成分であり、血液をサラサラにしてくれる効果がある硫化アリルは揮発性。空気に晒すことで辛味を抑えることができる。

 水に晒せば辛味を抑える効果は高いが、旨味が抜けて歯ごたえばかりのタマネギになってしまうから、俺も同じ方法を使う。

 次に取り出したのはレタス。芯の部分を潰して取り除き、水洗いを済ませて手で千切っていく。

 レタスは金気を嫌うので、手で千切るのが正しい扱い方だ。


 (しばら)く冷蔵庫に背中を預け、腕を組んで裏田君の調理を見ていたが、ただ見ているだけというのも退屈だ。


「俺も1品だけ作るかな……」

「あ、はい」


 声がけして、ジャガイモを3つ取り出す。

 そこにキッチンペーパーを巻いて水で濡らし、ラップで包んだら業務用の電子レンジに投入。2分ほどにセットして蒸し上げる。

 マイクロウェーブを使ってもできるのだが、店のスタッフの前では使いたくない。便利だからと食材を温めたいときに頼まれても困るしな……。


 ニンニクを2片用意してみじん切りにてボウルへ入れたら、アンチョビを3切れいれて潰し、マヨネーズを入れておく。

 ジャガイモが蒸し上がったら、1/4をサイコロ状にカットしてボウルに投入。スプーンの裏で潰してマヨネーズやアンチョビと混ぜ合わせ、最後に残ったジャガイモを混ぜる。

 スペインバルの定番、アンチョビポテトの出来上がりだ。


 一方、裏田君が作るカチョ・エ・ペペの方も手際よく出来上がっていく。

 ボウルや皿の上で混ぜるだけという人もいるが、美味しく作るにはフライパンの上でバターを溶かし、そこに茹で汁と削ったチーズを入れて溶けたところに茹でたパスタを混ぜるほうがいい。

 こうすれば味付けに(むら)ができないからね。


【料理名称】

カッチョ・エ・ペペ:

[伊]cacio é pepe 削ったチーズと胡椒という意味。

バターとチーズをたっぷり入れたボウルなどで茹でたてのスパゲティを混ぜ合わせて食べる。簡単な賄い料理として作られることが多いのですが、フランス産のミモレットチーズを筆頭に、ハードタイプであれば何でも使えます。

なお、カッチョ・エ・ペペはイタリアの中南部方面での呼称で、イタリア北部に行くと〝アル・ブッロ(al burro)〟と呼ばれることもあるようです。意味は、バター和えといったところでしょうか。


アンチョビポテト:

[伊]Patate alle acciughe [西]Patatas Con Anchoas

ジャガイモを蒸し、大きめのダイスカットにしたものを四分の一程度すりつぶし、アンチョビとニンニクを刻んだものを入れてマヨネーズで合えたものです。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] またもや飯テロ小説の予感がががw 裏ちゃん。 順応力高いなー。
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