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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第27章 裏田悠一
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第264話

 ファストフード店で20分ほど掛けて朝食を済ませ、家路に就いた。

 ミミルの左手には何故か景品の玩具が握られている。

 曰く――「ちきゅうのおもちゃ、しりたい」だそうだ。

 袋を開ける瞬間のキラキラとした目は、日本の玩具に対する興味なのか、それとも……まあ、どちらでもいいか。

 だが、料理としては玩具付のセットでは足りなかったらしく、一品別に注文した。小さな身体のどこに入っているのか、本当に不思議だ。


 既に商店街の中は人で溢れかえっているので1本北の通りを西へ向かって歩く。午前10時を過ぎているが、人通りはそんな多くはない。少し北にある三条通りなら若い人が集まるお洒落な店も多いが、残念だがこの辺りは少し中途半端だからだろう。


 開店直後で打ち水をしている人もいる。


 店の中に砂埃などが入らないようにするためというのもあるが、客人を迎える準備が整ったことを示すためでもある。元は茶道の決まりごとだが、この街では店先でも開店したらすぐに水を打つ文化が根付いている。

 面倒なのは、隣家との境目での掃除の仕方、打ち水の仕方までルールがあることだろう。スタッフ教育に組み込むよう、考えておかないといけない。


 20分ほど掛けて店に戻ってきて中に入る。


「ミミル、このあと裏田君が出勤してくる」

「ん、ゆうーいち」

「そうだ。最初は俺と裏田君で話をするから、家で待っててくれるか?」

「……ん、わかった」


 クシャリと頭を撫でたい気分になるが、ここは我慢だ。機嫌を損ねるわけにはいかない。

 先に進んで2階の居室の方の鍵を開き、ミミルを中に入れる。

 ミミルは早速ソファに座り、空間収納から取り出した文房具類で平仮名ドリルを始めた。実に勤勉なことだ。


「話をするのは昼食前になると思うぞ」

「……ん」


 俺の言葉に視線をこちらに向け、ミミルは了解したとばかりに小さく頷く。

 あまり邪魔しない方がいいだろう。


 静かに一階へと向かい、客席に放置していた食器やカトラリーを食洗機に入れてスイッチを入れる。勿論、食洗機に全てが入るわけではないので、何回かに分けて洗うことになる。

 とは言え、業務用の食洗機だから1回の洗浄が数分で終わる。

 1回目の食器を入れて、食洗機に働いてもらっている間にガラス食器の手洗いを始める。


 10分ほどで洗い終えたガラス食器が水切りトレイの上にずらりと並ぶ。このまま乾いてしまうと水垢が残るので、乾燥した布巾で拭き取っていく。


「おはようございます!」


 元気のいい男性の声が店に響く。

 裏田君が出勤してきたようだ。


「おはよう」

「あ、おはようございます」


 出迎えに現れた俺の姿を見て裏田君が驚いた顔をみせる。

 180センチ近くある俺でも少し見上げるほどの身長があるが、短い髪のせいもあって幼く見える。


「今日からよろしくな」

「いえいえいえいえ、こちらこそよろしくおねがいします」

「まあ、そんなに緊張しなくてもいいから。早速だけど、2階の事務所にタイムカード、更衣室にサロンが置いてあるから、用意してきてくれるかな?」

「はい、じゃあ行ってきます」


 玄関横にある隠し階段は開けてあるので、裏田君はそこから2階へと向かう。


 出勤初日というのもあるし、俺と働くのは初めてだから緊張しているのだろう。別に俺は怖い人じゃない――はずなので、そんなに緊張しなくていいのにな……。


 彼も10年以上は料理の世界に身を置いているんだし、料理の腕前も俺は知っている。

 和洋中、それぞれの店を経験していて、それぞれの技法をしっかりと学びつつ、良いところを組み合わせることができる。

 渋谷にある老舗スパゲティ専門店に常連が出張土産に持ってきたキャヴィア――それを独自の発想でスパゲティソースに仕上げ、更に()()()に応用したのが()()()スパゲティの発祥だ。

 彼にはそのスパゲティ専門店チェーンの創始者のような発想の柔軟性がある。

 海老と魚醤、香菜を使ってエスニック風味のペペロンチーノに仕上げてみたり、イタリア料理に中華の技法を使って焼いた鶏を出してみたり――オーブンではできない薄焼きせんべいのようにパリパリになった鶏皮の味は忘れられない。


 結構、急いでくれたのだろう。

 2分ほどで準備を済ませた裏田君が1階へと下りてきた。


「ゆっくりでいいのに」

「いやいや、初日やしそないなわけには……」


 ポリポリとバツ悪そうに頭を掻く裏田君だが、サロンがすごく短く見える。こりゃミミルが見るとまた巨人族だとかいい出しそうだ。


「それで、何からしましょ?」

「俺がグラス類を洗っていくから、拭き取りしてもらえるかな?」

「はい、ところで……」

「――ん?」


 裏田君がまじまじと俺の顔を見る。

 目線が俺よりも上にあるから、見上げる形になって首が痛くなりそうだ。


「オーナー、痩せはりました?」

「ああ、うん……」

「いや、激痩せですやん。ちょっとやそっと運動したくらいでそこまで……」

「そんなに痩せた感じがするか?」

「え、ええ……」


 そういえば一昨日、鏡を見たときは痩せたとは思ったが……そんなに太ってたっけ?


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

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