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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第2章 いざダンジョン

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第19話

 ミミルの身を預かると決めると、いろんなことが頭の中に浮かぶ。

 だが、今日の夕方からのいままでの時間は非常に濃厚で、俺もかなり疲れているようだ。

 頭が全然働かなくなってきた。


「そろそろ、俺も風呂に入ってくるよ」

『ん……』


 そういえば洗濯もそろそろ終わっているはずだ。

 ミミルは下着なんかも洗っているはずだから、風呂上りに知らせてやろう。

 それと、今日のうちから歯ブラシくらいは必要だよな……買ってくるか。


 ミミルを部屋に残して一階に降りると、着替えを店の中に置いて外に出る。

 時計の針は午後の10時。

 コンビニはまたデパートの近くまで行かないといけない。近いとはいえ、片道5分はかかってしまう。

 弁当を買うときに気がついていれば……と少し反省し、気分を切り替える。

 これからは今までのように気楽に自分用のモノだけを買ってくれば済むというわけじゃない。基本はミミルありきの生活に変わるだろう。認識を改めなければいけない。


 コンビニに到着すると、改めてミミルに必要なものがないか考えてみる。


 といっても、商品棚を見ながら考える程度しかわからない。所詮は36歳独身のおっさんなので、女性の生活に必要なものなど知っているはずがないのだ。

 まぁ、もし月経があるとしたら……必要なものが出てくるだろうが、そのときに考えればいいだろう。

 あと、寝る前のスキンケアなどもするなら、化粧水なども必要か。そこは彼女が暮らした世界の習慣だからまたあとで聞いてみることにしよう。


 そんな感じで、今回の買い物は歯ブラシのみだ。

 ミミルはとても小さな顔をしているので、できるだけブラシヘッドの小さなものを選ぶ。彼女の世界で慣れた手入れ方法があるなら、これは使わずにそっちを選んでもらえばいい。


 あとは特に何かを買わないといけないものもない。

 さっさと清算を済ませて家に戻ろう。



 ● ● ●



 風呂から出て、時計を見ると既に午後11時。

 二階の自室に戻ると、ミミルが部屋の隅っこで膝を抱えて座っていた。


「どうした?」

『なに、ない……』


 頭に響く声も、なぜか元気がないように感じる。

 ダンジョンの中にいるときは元気で力強い印象があったのだが、ここ1時間ほどで大きな変わりようだ。

 もしかすると、見知らぬ世界に放り出されたことや、俺が1時間ほどいなかったこともあって寂しくなってしまったのかも知れないな。

 逆にダンジョンの中は彼女にとって、最も輝ける場所なのかも知れない。彼女が戦闘狂というわけではないが、フロアごとに様々な世界があって、そこに毎回新たな発見もあるというのは知識欲が強い人には興味深く、楽しい場所だろうと思う。

 それに、先ほど入った草原フロアは地面にレジャーシートでも敷いて寝転んだりすればとても気持ちのよさそうな場所だった。魔物さえいなければピクニックに最適な場所だ。


 でも、少しずつでいいから地球(こちら)の環境にも慣れてもわらないといけない。

 まずは、こちらの言葉を覚えるところからだな。


「ミミル、この世界で生きていくためには、この世界の言葉を覚えないといけない。

 そう思うだろう?」

『ん……おぼえる、ひつよう』

「この国の言葉になってしまうが、最初に覚えてほしい言葉がある。いいか?」

『おぼえる』


 ミミルは、フローリングの床の上を這うように進んで俺の近くまでやってくると、期待に満ちたキラキラとした目で俺を見上げる。さっきまでの落ち込んだ雰囲気は霧散して消えたようだ。


「覚えてほしいのは、〝なに〟だ」

「な……なに、なに、なに」


 ミミルは少し俯いて何度も発音を繰り返す。

 その仕草がまた可愛らしい。


「意味はわかるよな?」

『わかる。なに……わからない、つかう』


 俺が話をするときにも何度か「なに」という言葉は使っているから、賢いミミルは気がついていると思っていた。


「そのとおり。それひとつ覚えれば、興味をもったモノが何か、俺に聞けるだろう?」

『すごい。ことば、おぼえる、できる』


 どこかで聞いた話だが、ある言語学者がジャングルの奥地などに住む少数民族やアフリカの少数部族などの言葉を知るために使った方法だったと思う。

 たとえば、紙に象やキリン、シマウマなどの絵を描いて子どもたちに見せると、その民族が使う言葉でそれぞれの動物の名を言ってくれる。次に、リンゴの絵を描いてみせると、子どもたちは見たことがない木の実の絵を見て逆に「なに?」と尋ねる。

 そこまでくれば、今度は学者があちこちを指して「なに?」と尋ね、彼等の言葉を学習していくという方法だ。


 ミミルは立ち上がって、最初に部屋の電灯を指して尋ねる。


「なに?」

「電灯だ。でんとう」


 次は、ノートを指す。


「なに?」

「ノート」

「ノート、ノート……なに?」

「ペン」


 そこから小一時間ほどはミミルの質問に答え続けた。

 嬉々としていろんなものを指しては尋ねてくる。

 その表情はとても生き生きとしていて、さきほどまで纏っていた死んでしまったかのような雰囲気は全く見られなくなった。


 やはり独りになると寂しいんだろうな――。

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