表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第24章 ご先祖様
280/594

第234話

〈そんなことよりも、朝食だ。朝食はなんだ?〉


 最初は目を輝かせて運転してみたいと言っていたが、免許が取れないとわかり、助手席で少し出かけただけで興味を失ったのだろうか。

 それよりも食べることに意識が向いている。まあ、いつものことと言えばそれまでな気もするな。


〈そうだな、食材を出してくれないか?〉


 小さく溜息を吐いて、ミミルに食材を出してもらえるようにお願いした。

 俺の言葉に応じてミミルが食材を並べていく。

 バケットはまだ数本残っていて、野菜も各種揃っている。

 まあ、ブロッコリーやカリフラワー等はダンジョン産なので地上のものとは色が違うし、形も微妙に違ったりするのだが、それは気にしないことにする。


 運転しながらぼんやりと考えてはいたのだが、朝食を何にするかは決めていなかった。


 イタリアやスペインの人たちは甘いものを朝食にすることが多い。朝食は血糖値を上げるための食事という位置づけだ。例えばイタリアだとビスケットやなんかが人気だし、チョコレート風味のヘーゼルナッツスプレッド――ヌテラを塗ったパンを食べたりする。スペインだとチュロスとホットチョコレートが代表的だ。スペインの都市部は皆忙しく働いているので回数は減っているが、地方だと2回朝食を摂り、昼食後のシエスタがあって、合計5回食事を摂る。


 イタリア料理、スペイン料理として朝食を作ろうとすると、甘いものというイメージが強い。

 だが、ここは日本だし、日本人としてはやはりそれなりに腹に溜まるものが食べたいところだ。


 眼前に並ぶ食材からバケット、トマト、ニンニクを取る。

 他にレモン、オリーブ、ハモン・セラーノを取り、サラダ用にベビーリーフ、リンキュマンの中からイタリアンパセリに似た葉を手に取る。残りの食材は厨房にあるものでいいだろう。


〈ありがとう、厨房で調理してくるからここで待っていてくれ〉

〈いや、私もいくぞ。暇だからな〉

〈あ、うん。そうか〉


 別にミミルが側にいるから料理し辛いということもない。

 ミミルも厨房に行くと言ってくれているので、そこで食べてしまおう。片付けも楽だからな。


 立ち上がって1階へと下りる。

 先ほど、店に戻ってきたときにそのまま調理すればよかったと思うのだが、こればかりは仕様がない。


 厨房に入り、足りない食材を取りだす。玉ねぎ、缶詰のひよこ豆、ツナ缶、粒マスタード。


 最初に玉ねぎの皮を剥いて、薄くスライスしたらフワリと盛り付けるようにボウルに入れて、空気に晒しておく。辛味を飛ばすための工夫だ。水に晒すと辛味が抑えられるが、色々と溶け出してもったいない。

 続いて、ベビーリーフをザルに開けて水で洗い、丁寧に水切りしておく。

 続いて、トマトをダイスカットにして半分をハンドブレンダーですりつぶす。


 バケットを半分に切って、横方向に2つに切り分けたら油を敷いていないフライパンで表面を焼いていく。カリッと焼けたらニンニクの断面を(こす)りつけて風味をつけ、そこにオリーブオイル、潰したトマトを塗る。

 1品目、パン・コン・トマテ(Pan con tomate)の出来上がりだ。潰したトマトを塗らなければパン・コン・アセイテ(Pan con aceite)になる。ハムとオリーブを添えて、好みで乗せて食べればいい。


 次に、水切りができたベビーリーフを器に盛り付け、そこにひよこ豆、オニオンスライス、ツナ、刻んだオリーブ、トマトを盛り付け、イタリアンパセリのようなリンキュマンを散らす。あとはボウルに粒マスタードとレモン汁、ワインビネガーを入れて塩胡椒したら泡立て器で混ぜたドレッシングをサッと掛け回す。ひよこ豆とツナのサラダ(Insalata di ceci e tonno)の出来上がりだ。

 スペイン料理とイタリア料理の組み合わせになっているが、家庭料理なので特に気にしない。


〈相変わらず見事な手際だな。できたのか?〉

〈まあ、これくらいならな――簡単だよ〉


 玉ねぎを晒す時間が欲しかったので少しゆっくりと作ったのだが、それでも15分ほどで出来上がった。

 本当ならスープの一品でも加えたいところだが、フォークとナイフを両手にしたミミルの前でのんびり煮込んでいられない。今度からまとめて作っておくことにしようと思う。


〈今度は向こうの客席で食べようか〉


 俺の問いかけに対し、ミミルは首を縦に振って返事をする。

 出来上がった料理を配膳用トレイに載せ、左手一本で持つ。大した量ではなく、重くもない。

 冷蔵庫から飲み物――ペットボトルに入った紅茶を2本取り出すと、それを指先の間に挟んで持って歩き出した。


 客席の一番奥、縁側の近くにある6人掛けのテーブル。庭を眺めることができるよう、眺めがいい場所を考えて料理を並べる。


 人間は正面に相対すると話が弾まないものだ。だから、今回は2人横並びになるように料理を置いてみた。こうすることで連帯感が生まれて話しやすくなるらしい。


 ミミルが椅子を引いて腰を掛ける。

 こうして少しずつでもミミルとの距離感を今以上に縮めるようにしていくことにしよう。


この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ