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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第21章 守護者との戦い
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第202話

 フィオニスタ王国の筆頭宮廷魔術師……それがどれほどの役職に該当するのかは知らないが、とにかくミミルは母国ではとても偉い人だったのだろう。

 よくよく考えてみると、ミミルの口調、トーンは強く威厳を感じさせる。悪く言えば「偉そうな喋り方」をしていると思う。

 見た目は子どもだし、話の内容は俺以外の誰にも理解できない言葉なので全く以て問題ないが……。


 実際に俺よりも百歳近く年上なんだから、言葉遣いなどが頭勝(あたまが)ちになるのも仕方がないと思っていたが、何年も組織の上層部にいたというのなら無理もない。

 宮廷魔術師になるほどの実力者なら人並以上に魔法が使える人間に対して教えることが多かったのだろう。完全初心者の俺に対して教えるのが下手なのも頷ける。


 なので、筆頭宮廷魔術師と言われても何ら驚くことがない。

 あるとしたら、見た目とのギャップくらいのものだろう。


〈すまん、俺はフィオニスタ王国のことを知らないからさ、もう少しわかりやすく教えてくれないか?〉

〈う、うん。そうだな……まず、魔術師というのは――〉


 料理をしながらミミルの話を聞いた。


 要約すると次のような感じだ。


 ──── ◆ ────


 宮廷魔術師というのは、ダンジョンで受ける加護が「魔法」である者が選ばれる職業で、平均すると毎年数名程度は宮廷魔術師として王室に召し抱えられる。

 だが、ミミルは数百年に1人しかいない「知」の加護をダンジョンで得た者だそうだ。

 それを聞きつけた王宮がミミルを招聘し、一般の宮廷魔術師とは別に「賢者」として育成した。そして、ミミルは40歳にして、「賢者」の称号を得て筆頭宮廷魔術師に就任したという。


 宮廷魔術師の仕事は基本的にダンジョン内での素材収集と魔道具の作成が中心。戦争や魔人討伐があれば戦力として参加されられるそうだ。

 この場合の魔人というのはダンジョンの外――エルムヘイムのどこかに発生する歪な魔素の塊から生まれる巨人のことだそうで、国軍と協力して退治するらしい。


 今回のイオニス帝国による異世界侵攻を防ぐというミッションは国王から発せられたもので、未知のダンジョンに入ることが前提となるため、精鋭としてミミルが選ばれたそうだ。

 他のメンバーにはミミルの双子の妹であるフレイヤが含まれていたのだが、実際はフレイヤの強い要望もあってミミルが選ばれたのだろうということだ。


 ──── ◆ ────


〈妹がいるんだな……〉


 俺がそう呟くと、ミミルはコクリと頷く。

 俺はひとりっ子だからなのか、つい兄弟姉妹がいると聞くと羨ましくなる。


〈うむ、妹は目が青いからすぐに見分けがつくぞ?〉

〈はは、そりゃいいな〉


 少し自分の表情が曇ったのを茶化すようにミミルは話す。


 ミミルが地球に来て6日目。ダンジョン内で過ごした日を入れると10日目だ。

 そろそろホームシックになってもおかしくはない。


 突然、知らない世界へと放り出される形になったんだ。128歳であっても、置いてきた妹のこと、縁のあった他のエルム達のことを想って心寂しくなるだろう。

 もしかすると、暴れまわった理由もそこにあるのかも知れない。


 ただ、急にホームシックになった原因はよくわからない。

 心当たりがあるとすれば、あのグリンカンビとかいう名の鶏くらいだ。

 だが、ミミルはエルムヘイムにはいない鳥だと言っていたし、ダンジョン内でも初めて見ると言っていたから違う気がする。


〈よし、料理できたぞ〉

〈ん、いただこう〉


 テーブルの中央に置いた皿を見て、ミミルが喉を鳴らす。


 白い皿は見た目は陶器に見えるが、実際は3層構造になったガラス製。

 薄く軽くて割れにくいという特徴は、屋外でのハードな扱いにも耐えられる。アウトドアの力強い味方だ。


 その皿に円を描くように並んでいるのは、薄くスライスされた身が赤く、鮮やかな鰹。中央には空気で晒して辛味を飛ばしたオニオンスライスにタイムやフェネル、チャイブ等を混ぜ、こんもりと盛り付けている。

 そこに、小さくダイスカットしたトマト、ニンニク、オリーブオイルと塩だけで作ったケッカソースを回しかけてある。


「いただきます」

「いただ、きます」


 俺が先に手を合わせたので、それを見ていたミミルも思い出したのだろう。

 慌てて手に持ったフォークを置いてから手を合わせて感謝の言葉を述べる。相変わらず、言葉の意味からすると切るタイミングを間違っているが……まあ、いずれ慣れるだろう。


 先ずは八切れほどカルパッチョを取皿に移し、それをミミルに差し出す。もちろん、同量を別の取皿に取って俺の正面に置いた。


〈あ、ありがとう〉

〈どういたしまして〉


 ミミルが少し戸惑うように礼を述べた。

 基本的にイタリア料理ってのは、1人に1皿ずつ料理を出していくことが多い。それもあって、いままでは大皿に盛り付けた料理というものしか出してこなかったからな。こうして、取り分けるということをするのは初めてだから驚いたのだろう。

 いや、エルムヘイムではまたマナーが違うのかな?


スライスして焼いたバケットの上にケッカソースを載せるとブルスケッタになります。


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