表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第19章 魔法訓練
234/594

第188話

 丸太を地面に突き立ててきたミミルが戻ってくる。

 6mはある丸太を空間収納から取り出して穴に突き立てるという作業を見ていて、見た目は幼いミミルが実は地球の男では太刀打ちできないほどの力持ちであることを改めて実感した。


〈結構たいへんな作業だと思うのだが……早いな〉

〈毎日のことだったから、慣れているのだろう〉

〈毎日こんなことをしてたのか?〉

〈そうだが?〉


 地面に3mも穴を掘って、6mの丸太を半分埋めて突き立てる……なんてことは普通に生活する上で絶対にないだろう。

 ミミルはエルムヘイムで、フィオニスタ王国ではどういう役割を担っていたのだろう。


〈では始める。まずは水球から手本を見せるから、魔力視も使ってよく見ておけ〉

〈ああ、わかった〉


 俺の返事を聞いてミミルは右足を前にして半身に構える。

 そのまま右手を上げ、突き立ててきた丸太に向けて右手を翳し魔法を発動する。


〈――ヴォワクロ〉


 途端にミミルの右手の前に直径20cmほどの水球が生まれ、ものすごいスピードで飛び出していく。

 ミミルの手から飛び出した水球は一秒もしないうちに丸太に直撃。

 とても硬いものが丸太に当たったような轟音を立てると、水球は爆散した。


「すげぇ……」


 ものすごい速度だ。少なくともバッティングセンターで最速と言われる打席に立っていてもあの速度では飛んでこない。

 時速何キロくらい出ているんだろう。


 ミミルが俺の方を見上げ、ドヤ顔で俺の言葉を待っている。

 さっきのはただの感嘆符のようなものだからな。


〈すごい威力じゃないか。どれくらいの速度で飛んでるんだ?〉

〈エルムヘイムの速度で言ってわかるのか?〉

〈ああ、それはわからないな〉


 エルムヘイム共通言語で話す、聞くはできる。言葉では何の単位なのかはわかるのだが、具体的に地球で使われている単位に換算した場合のイメージが湧かないんだ。


〈今後は地球で暮らすことになるのだ。地球の単位を教わって話すほうがよかろう〉

〈わかった。地上に戻ったら教えるよ〉

〈なんだ、単位程度のことも説明できんのか?〉

〈そうじゃない。詳しく話そうとしたら調べたいことが出てくるからだよ〉


 例えばメートルという単位は北極点から赤道までの子午線上の距離を1000万分の1にした長さと最初に決められたはずだ。

 しかし、潮の干満や海面水位の上昇などもあって、普遍的で正確な長さにするため1秒間に光が進む距離から算出するように変わった。

 その算出方法までは覚えてないから、それを調べられる場所で教えたい――それが俺が地上で説明したいと思う理由だ。


〈なるほどな。だが、決して忘れるなよ〉

〈ああ、わかったわかった。で、どうすればいい?〉

〈水球を作るところまでは生活魔法と同じ。前に飛ばすのは魔力砲と同じで、飛んでいくところを上手く想像する必要がある。このとき、勢いが弱いと(まと)に当たる前に地面へと落ちてしまうし、勢いがあっても少しずつ落ちていく。水平ではなく、少し上に向けて放たなければならん〉

〈なるほどね……〉


 ダンジョンの中でも重力が働いていて、水球や氷塊、石礫などは放物線を描いて飛んでいくことをミミルは知っているようだ。

 その上で、20m先の的に当てるために必要な勢いを与えて飛ばしているということだ。

 ピッチングマシンよりも遥かに速いくらいだから、180km/hくらいだろうか。1時間は3600秒だから、50m/sということになる。

 (まと)である丸太までは20mとして、5分の2秒で当たるイメージということか。あとはどれくらい落ちるかと空気抵抗だな……60m/sは必要かな。


〈なにをぼんやりとしている、手本を見たのだからやってみせろ〉

〈はいはい、わかりましたよ〉


 60m/sってことは216km/hか。

 男子プロテニス選手のサーブくらいの速度で射出されるイメージを作ればいいんだな。


 ミミルと同じように(まと)の丸太に向かって半身に構え、右手を突き出してそこに魔力を込める。

 慣れたもので1秒もかからず水球ができあがる。

 その水球を維持し、男子プロテニス選手のサーブが20m先にある丸太に当たるような速度をイメージして魔力を込めた。


 一気に魔力が身体から抜け出る感覚。

 瞬時に約4kgある水球を200km/hを超える速度で射出するんだから、それだけのエネルギーが身体から消費されるということか。


 しかも残念なことに、水球は僅か手前で地面へと落ちて爆散した。水球の勢いのせいで、ラベンダーに似た香りを放つ馬酔木(あせび)のような花をつけた草が根元から吹き飛んでいる。


 失敗の原因は、角度だろうか。それとも、速度が不足していたのだろうか……。


 首の関節を軋ませるようにミミルへと顔を向けると、ミミルは腕を組んで立ち、小さな眉間にシワを寄せて水球が落下した場所を眺めている。


〈何をしている、もう一度だ〉


 ミミルの意見を聞きたかったが、とにかく数撃って練習しろってことらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ