表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第14章 第二層攻略開始
184/594

第138話

 2頭のブルンへスタの距離が近いと、一方だけに攻撃を仕掛けても2頭同時に反撃をしてくる可能性があったのだが、運良く1頭が動いてくれた。


 1対1で戦うのなら、ミミルの戦法をそのまま採用することができたので、比較的容易に対処できたと思う。

 ただ、ミミルが言っていたとおり魔力を込めずに投げた苦無(くない)状の風刃は、ブルンへスタに大したダメージを与えることができなかった。やはり、風刃の攻撃力は「込めた魔力」と「投げる速度」に比例するようだ。


 2頭のブルンへスタを倒し、また肉が1つ手に入った。

 恐らくサーロインにあたる部分だろう。

 耳や脚の太さなどは違うが、このブルンへスタはやはり馬に似ている。

 肉の色や持ったときの質感は、もう上質な馬肉そのものだ。

 ダンジョン内では微生物は発生し得ないということなので、生食しても腹を壊すことはないに違いない。

 九州の甘い醤油に、たっぷりの生姜とニンニク、ネギなどの薬味を載せて刺し身で食べてみたいところだが……醤油など持ってきていないのが悔やまれる。


 さて、他のドロップ品は尻尾。ミミルに訊くと、服の芯が必要になれば使う素材らしい。そういえば、英国産のスーツは馬の毛で作った芯を入れると聞いたことがある。特に馬の尻尾を使ったものはバス芯と呼ばれて高級だとか……エルムヘイムでも似たような用途に使うのだろう。


 その後、ミミルの指示により東へと向かう途中に接敵するブルンへスタを淡々と倒していく。

 そっと近づき、その胸をめがけて苦無の形をした風刃を投げつけるだけという単純作業だ。とても大きな魔物だというのに、簡単に倒せるところを見ると、本当に弱点なんだろう。


〈油断はするなよ。いまは単に1頭ずつ倒せているだけだ。ブルンへスタは群れをつくる習性があるから、1対多の戦闘を余儀なくされることもあるぞ〉

〈ああ、そうだな。気をつけるよ〉


 10頭ほど倒したところでミミルからの忠告がやってきた。

 最初に遭遇した3頭以外、今のところは纏まった数のブルンへスタに接触してはいないのだが、1頭ずつ接触するにしてもその間隔が時間的にも、距離的にも短くなっている気がする。


 更に2頭ほど倒して前に進んだところで、今度はまた3頭が密集して草を食んでいるのが見えた。


〈3頭くらいならしょーへいだけで倒せるだろう。見物させてもらうとしよう〉

〈おいおい、そんな簡単なものじゃないだろう〉


 最初にチャクラム状の風刃を投げて気を逸らせることは可能だ。

 3頭がまとめて風刃の飛んで行った方向へと動いてくれるのはありがたいが、その後に投げる苦無(くない)状の風刃の射線を手前に立つブルンへスタが塞いでしまう可能性もある。


〈しょーへいは、まだ……いや、今はやめておこう。とにかく、3頭をまとめて相手するように――フロエ〉


 ミミルは言いたいことを言うと、背中に翼をつくって空へと舞い上がった。

 まぁ、上空から見守られているというのなら安心だが、それでも巨大な馬のような魔物を3頭同時に相手するなど、無茶を言う。


『そこから先を抜ければ野営地に着く。グズグズしているといまの場所で一夜を過ごすことになるぞ』


 なんということだ。


 ここから引き返すとなるとまたキュリクスの領域を通って戻らなければならないし、時間的にも2時間以上はかかる。

 さっき見つけた安全地帯らしき場所も、夜になるとどうなるのかはわからない。恐らく、川の中州にあるという安全地帯の方が安心だ。もう目の前にいる3頭のブルンへスタの先へと進むしかない状況になっている。


「くそっ……」


 別に自棄(やけ)になるわけではないが、ミミルに見事に()められた気分だ。

 だが、このまま何もしないというわけにはいかない。

 草よりも低い位置に頭を下げた状態で音波探知を使う。

 3頭までの距離は、約40mといったところ。それぞれの音像は頭を下げた状態で脳内に浮かび上がるので、まだ草を食んでいるのだろう。

 この高さの草だから、あれだけの巨体を維持できる量を食べられても減ることがないのかも知れないな――いや、魔素でできた草を食べることで、ブルンへスタやキュリクスは身体を維持しているということか。あれだけの巨体だと燃費も悪いだろうから、この推測もあながち間違っていないのかも知れない。


 前方の草を掻き分けながら前へと進む。

 結構な重労働のはずだが、意外に疲れることがない。

 俺の体力が上がっているということだろう。


 3頭のブルンへスタがいるところまで凡そ30m。

 (おとり)の風刃を投げるなら丁度いい頃合いの距離だ。


 馬は比較的臆病な性質を持っているが、ブルンへスタは馬に似た感じの魔物であって、馬ではない。

 その証拠に、(おとり)の風刃を投げるとそれが霧散して消えた場所に近づいてから警戒する。


 俺はそっと草の上に頭を出してブルンへスタを観察する。


 まだ3頭は草を食んでいるようだが、最も手前にいるブルンへスタが他の1頭をその巨体で隠してしまっている。


 さて、この場合はどんな戦法で戦うべきか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
[良い点] 馬刺しは九州と東北で味付けが違うのが文化の差といか面白いです。ニンニクを合わせるのは変わらないのはそのままではやはり癖が強いんでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ