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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第13章 街の暮らし
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第129話

 ミミルと2人で楽しく作業をしていたので、あっという間に時間が過ぎてしまったのだが、パスタカッターでラビオリを切る作業をしていると、窓から入る光が一気に暗くなった。

 店の前にトラックを駐車しているところを見ると、家具の業者が到着したようだ。


〈これは食べないのか?〉

〈だからこれはダンジョンの中で食べる分だよ〉

〈そ、そうだったな……〉


 瞳の輝きが明らかに失われていくのを見ると、なんだか申し訳ない気分になってくる。

 だが、仕方がない。いまから茹でている時間がないからな。


〈前にトラックが止まったから、荷物を運んでくるはずだ〉


 特に慌てているわけではないが、インターフォンが鳴るのは2階なので、1階にいるときは店の入口を開けて迎える方が早い。


 厨房から出て、店の玄関扉を開けて外の様子を確認すると。既にテーブルの天板と脚、椅子を荷台から下ろし始めていた。


 簡単に挨拶を済ませると、6人掛けテーブル席が2つに、4人掛けテーブル席が4つ。その間を埋める2人掛けテーブルが3つ。

 次々と運び込まれていく。


 そして最後にバーカウンターを設置する。組み立て式とはいえ見るからに運び込むのが大変だ。


 掛け声をあげて持ち上げ、段差をそっと上がる作業員をミミルはただ腕を組んで見守っている。

 見た目のミミルは子どもなので、腕を組んでいる姿は横柄な態度というよりも、少し生意気な雰囲気にしか見えない。


〈不便なものだな〉

〈そうだよな〉


 ダンジョンに入っている俺だからこそわかる。

 空間収納があればこれくらいの家具は簡単に移動できるし、設置後の微調整も補助魔法だとか身体強化があれば楽にできるはずだ。

 科学的にはミミルがいたエルムへイムよりも遥かに進歩しているが、逆にエルムへイムには魔法があるのでこういう補助的なことは魔法の方が得意ってことなんだろうな。


 搬入されたテーブル、椅子、カウンターを納入明細と突き合わせて確認したら家具類の設置は終了。業者は挨拶をして帰っていった。

 残るはカウンターの内側に設置する厨房機器を設置してもらえば今日の作業は終了だ。


 家具類の設置が終わった客席にミミルと2人で立つ。


〈店らしくなっただろ?〉

〈うむ〉


 ミミルは奥庭手前の6人掛けテーブルまで独り走っていくと、こちらに向かって椅子に座る。

 窓から差し込んでくる光にサラサラと揺れるミミルの銀色の髪が照らされ、キラキラと輝やいている。

 その幻想的とも言える美しさに目を奪われていると、テーブルに両肘をついて顎をのせたミミルが俺に向かって声を掛ける。


〈こちらから見るのもなかなかだぞ〉

〈そうだろう?〉


 店内はダークブラウンと白を中心にしたモダンな雰囲気で統一されているので奥の席から入口側を望むと落ち着いた空間に見えるはずだ。

 俺もミミルに並んで座るべく奥庭の方へと足を踏み出すと、遠くにインターフォンが鳴る音が聞こえた。


 厨房機器業者だろう。


 そう思って入口まで迎えに行ったのだが、そこにいたのは今朝の魚屋の店員だ。


「まいど、今朝の注文の品、持ってきましたで」

「あ、ありがとうございます」


 そういえば10時くらいに配達に来ると言ってたな。

 30分ほど時間をオーバーしているが、まだ店を開けてるわけではないし今日のところは問題ない。

 店の営業が始まってからだと少し厳しいな。ランチ営業を11時から始めるから、直前に届くようだとメニューの試作に間に合わない。

 発泡スチロール2つ分の商品を確認し、伝票にサインを済ませる。


「営業が始まったら9時頃には届けて欲しいんだけど、できます?」

「配達ルートとか、時間とか考えなあきまへんけど……」


 話の途中、ヨイショと声を出して発泡スチロールを調理台の上に乗せると、魚屋の店員は話を続ける。


「まあ、なんとかなる思います。調整さしてもらいますわ。ところで、一緒にいたはったんはこちらのお子さんで?」

「え、ああ……うん。そうだけど?」

「うちの娘と近いかなと(おも)て見てましてん。あ、うちの子は4年生なんやけどね」


 ビリッと全身に緊張感が走り抜ける。

 ミミルを連れて歩く以上は覚悟はしていたのだが、いざこんな話になると焦って取り乱しそうになる。


「へぇ、そうなんですね」


 だが、努めて平静を装いつつ、話が続かないように(わざ)と素っ気ない返事をしておく。

 感じが悪いとか思われるかも知れないが、ミミルのことを詮索されると必ずボロが出るから仕方がない。

 この言い方なら、彼には俺が「その話には興味がないよ」と言ったように聞こえるはずだ。


「ほな、また来とおくれやす」

「ええ、また」


 魚屋も一瞬だけ驚いたように表情が強ばるが、俺がその話をしたくないと思っていると気づいたのだろう。

 最後は笑顔で挨拶をして店を出ていった。


 首都圏だとこうはいかないだろうな。

 この街で生まれ育ったことを少しだけ感謝することにしよう。


 この数分後、厨房機器業者のトラックがやってきて店内への搬入・設置が無事行われた。

 明日は食器類がまとめて届く予定だが、それで店の準備は終了だ。


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